ドイツの名品「ターク」のフライパンをかじって貧血知らず!?【教えて!世界の子育て~番外編・ドイツで出会ったモノ・ヒト・コト】
海外で子育てをするママパパたちにそのようすを伝えてもらう「教えて! 世界の子育て」。今回は、ドイツで子育てをする中原さんが、番外編として暮らしの中で出会った「ドイツで出会ったモノ・ヒト・コト」について伝えてくれます。
今回の出会いは、一生ものともいわれる「ターク」のフライパンです。日本でも人気のドイツ生まれのフライパンは、ドイツの暮らしの中でどのように使われているのでしょうか。
添い遂げたい!
ドイツのいかつい鉄の塊
『ターク』のフライパンを紹介したい、というよりは、私の一方的なタークへの熱い思いをぶつけたい。そんな思いで書き始めています。
タークのフライパンというと、『ドイツのいかつい鉄の塊』として日本でも有名ではないでしょうか。ひとつの鉄の塊をひたすら叩いて打ち出し作ることから生まれるシンプルな格好良さ、無骨さ。それはまさしく、強さへの憧れを潔く体現した姿で、私たちの心を惹きつけます。
そんなタークのフライパンは台所に立つ者にとって、頼れる自慢の相棒であり、これから育てていくわがままな子どもでもあります。
鉄のフライパンと聞くと、どこか手を出しづらくさせる頭の中のハードルがありませんか。『良い物なんだろうけど面倒くさそう』なイメージがそれ。重そうであるとか、手入れが大変そうであるとか、値段が高そうであるとか。
それらが全くの誤解と言ってしまうと嘘になります。
タークのフライパンは、重い。私の30センチのフライパンは1.8kg。手入れが必要な時もあるし、付き合い方を知らないといけません。しかも値段は2万円ほど。普通のテフロンパンよりも随分と値が張ります。
しかしそれらを乗り越えてでも添い遂げたいと思わせる、鉄器の良さが、タークにはあるのです。
まず、丈夫さについて。
強火に掛けて、もうもうと煙が出るまで熱してもびくともしません。この鉄肌でジュワーーー!! と焼いた肉に、最高の焼き色がつくことを、食いしん坊さんには強く申し伝えたい!
池の底にでも沈めて錆びさせたり、ショベルカーの下敷きになって縦横に踏まれでもしない限り、使い物にならなくなる、ということはきっとありません。いや、ショベルカーの下からなら、へたしたら打ち直して蘇ってくる可能性すらあります。
なぜなら、タークはフライパンの形をした、ただの鉄の塊だから。
付き合い方は、ほんの少し“コツ”を知っていればいいでしょう。
何かを焼く前には、よく熱して油を馴染ませること。汚れはガシガシしっかり落とすこと。ギトギトの油汚れには洗剤をつけても大丈夫。食洗機にさえ入れなければ何でも良く、洗い終わったら、布巾で拭いてしまうも良し。火にかけてから薄~く油を塗ってあげればタークは嬉しい。
長く、頻繁に、使えば使うほど油が馴染んでいき色は黒く艶やかになります。金属製のフライ返しを使う楽しみもあり、フライパンに遠慮することなく、カッ! とステンレスのフライ返しを差し込み、パリッと焦げ目を剥がす爽快感!
やがて、このゴツゴツした物言わぬ鉄は、あなただけのものになっていくでしょう。
本領発揮!
我が家のレシピをご紹介
タークで焼く、お好み焼き! 目玉焼き! ギョーザ!
野菜をシンプルに焼くだけでも良い焦げ目が味わえます。少し多めの油を引くとなお良し。水気が出てべちょっとする暇はありません。
本領発揮はやはり肉と魚。サッと焼いただけで、美味しい焼き目が肉汁を内側に閉じ込めてくれます。
たとえば、我が家での使い方はこんな風。
メニューは、
Schweinesteak、 Erbsen-Kartoffelbrei、 Blumenkohl-Spinat Suppe mit Walnuss
「ポークソテー」「マッシュポテト」「カリフラワーとほうれん草のポタージュ」です。
付け合わせには、こちら。
【Erbsen-Kartoffelbrei/グリーンピース入りマッシュポテト】
ジャガイモは皮を剥いて塩茹でにし、火が通ったら水をこぼし、バター(多め)と牛乳と塩胡椒、ナツメグ(多め)を入れて潰します。ドイツのマッシュポテトはねっとり滑らかになるまで潰すのだけれど日本人の私はお芋をゴロゴロさせたくて義母のレシピに反抗しています。最後にグリーンピースは冷凍のものをざらざらーっと。
【Blumenkohl-Spinat Suppe/カリフラワーとほうれん草のポタージュ】
カリフラワーをたっぷりのお湯でやわらかくなるまで塩茹でにしたら、ほうれん草をひと掴み、荒く刻んで鍋に入れてひと混ぜ。お湯を4分の3こぼしたらブレンダーやミキサーでピュレにし、牛乳で飲みやすくのばす。コンソメと塩胡椒で味を調えればできあがり!
Guten Appetitグーテナペティート! おいしく召し上がれ!
タークを手に入れた
意外なワケ。実は……
と、ここまで書いておきながら、私がタークを手に入れた経緯は、何と、医者に勧められて、なんです。
ドイツで暮らし始めて、しばらく経った頃に酷い貧血になり、検査結果を見た医者から言われたのは「肉を食え。サプリを飲め。それかEisenpfanne(鉄のフライパン)でもかじれ。はっはっは」でした。
今思えば、最後の一言は医者も可愛い冗談で言っただけだったに違いありません。
しかし私は真剣に検討しました。肉は食べている。サプリは絶対飲み忘れる。フライパンなら毎日使うし忘れようもないな! と、『フライパンをかじる』を実践することにしたのです。
ちょうど、前年買ったフライパンの柄が溶けてグラつき、テフロンが剥がれて使い勝手が悪くなっていたのもありました。安いテフロンのものを買い替え続けることに辟易(へきえき)してもいましたが、鉄のフライパンは2万円と高い!
でも私たちは思い切りました。
鉄のフライパンだと旨いものが食べられそうだったし、夫は「鉄のフライパンかじって奥さんの貧血が治ったら面白いから」とうっかり口をすべらせました。
私は、「Eisen/Pfanne(鉄/フライパン)」でググって出たタークを買いました。
そして届いた箱の中から出てきたタークを、ひと目見て好きになりました。時々焦げつかせては機嫌を損ねます。しかし、パンケーキは“カリふわ”に、餃子はきれいな羽をつけるようになり、使えば使うほど大切になりました。
あれ? これってまるでお見合いから始まる恋愛小説みたいだな。道具への愛情は深まるばかりです。
その後、私は幸運なことに貧血に苦しめられることはなくなりました。ホルモンのせいなのか、体がドイツの水に慣れたのか、はたまた本当にフライパンのおかげかは分かりませんが、医者の可愛い冗談のおかげで鉄のフライパンを買うという選択肢ができ、私たちの食事がちょっと美味しくなって、思い入れのある道具で料理する楽しみを得たことは確かです。
私の周りのお宅はお年寄りばかりで、重い鉄のフライパンや鍋はほとんど子どもたちに譲ってしまったと聞きます。
庭でもうもうと煙を立てながらバーベキューをしていると、生垣越しにひょこっと顔を覗かせて、「うちも鉄のフライパンだったのよ。私のお婆ちゃんのでね」と懐かしそうに話しかけてくれます。
きっとお隣さんも思い入れを持って大切に使っていたのに違いありません。親から子どもへ、そして次の世代へと引き継がれていくモノって素敵だな。
わたしもいつの日かこの相棒を子どもに譲る日が来るのかもしれません。その日がなるべくゆっくりときてくれたら良いなと思いながら、今日もタークのフライパンをかじります。
中原さん
結婚を機に夫の故郷ドイツに来て10年目。趣味はレストラン巡り、庭いじり、手芸などなど。掃除と片付けも趣味になったらいいのになあ……といつも思っています。6歳と4歳の娘たちがいます。#中原ドイツ子育て Instagram @s_vn