11月のテーマは「おならの絵本」【広松由希子の今月の絵本・13】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
11月のテーマは「おならの絵本」
実はわたし、この分野の絵本には、ちょっとうるさいんです。
だって「おなら」とか「うんち」とか絵本に出てきただけで、
子どもの笑いがとれたりするでしょ。
安易に「おならオチ」の絵本とか読むと、「夢オチ」や「虹オチ」と同じくらい、
「むきーっ。ゆるせんっ」となってしまうのです。
・・そんな偏屈な人もうならせる、上等の「おなら絵本」を集めてみました♪
おいものおいしい季節、とびきりのおならもお楽しみください。
そもそもおならとはなんぞや?
と科学する絵本が
長新太さんの『おなら』。
すばらしくしゃれた表紙をめくると、
「ぶおおーん」
とタイトルが吹き飛ばされています。
なぜおならが出るの?
1日に出る量はどれくらい?
おならについてのあれこれを教えてくれます。
真面目な調子のあちこちに、笑いがちりばめられていますよ。
最終ページと、後ろ見返しには、強烈な最後っ屁も!?
うーん。やられた。
1978年発表の、おなら絵本殿堂入りの一冊です。
『おなら』
長新太/作
福音館書店 定価945円 1983
谷川俊太郎さんの詩「おならうた」を初めて読んだときは、
軽妙な音の遊びにひとりで笑いましたが、
それを原詩に、新たに生まれ変わったのが、この絵本『おならうた』。
「いもくって ぶ」
「くりくって ぼ」
「あるいて び」
「すかして へ」
飯野和好さんのこっくりした絵で、おならを可視化。
においも見えるようなガス描写に、むむむ。
放屁の瞬間の静止ポーズと表情が
なんともいえない、おかしみを醸し出しています。
声出して、読み合ったり。
振付けて、笑い合ったり。
暮らしと遊びに溶け込む、おなら絵本です。
『おならうた』
谷川俊太郎/原詩 飯野和好/絵
絵本館 定価1260円 2006
さて、もともと目には見えないものですが、
おならって、こんなに美しかったのね!
と、息をのんでしまうのが、
『ぴっけやまのおならくらべ』です。
村上康成さんのシンプルなちぎり絵で、
音もにおいも大きさも、
実に麗しく見せてくれます。
くらべっこが大好きなぴっけ山の動物たちが
「おならくらべ」をすることに。
連続技か、音の大きさで一発勝負か、
音楽性か、それともにおいか……
おのおの個性を磨き、練習に励みます。
こらえにこらえて、そろそろ限界。いよいよ本番。
太い線で描かれた動物たちが一匹ずつ登場し、
「かまえてー。」
ぱっとめくると、
さわやかな青空を背景に、自慢の技が披露されます。
鮮やかな花火を見るような感激を覚えます。
かさいまり/文 村上康成/絵
ひさかたチャイルド 定価1050円 2003
おならは古くから絵巻や古典文学にも登場しますし、
昔話でも代々親しく語り継がれてきました。
日本の昔話では、なんといっても、これでしょう。
「へっこきあねさ」とか「へひり女房」とか
いろんな名前で知られていますが、
今回は爆音の面白さと、
出すだけでなく、吸う技「ひきっぺ」に注目して、
こちらの『へっこきよめどん』をご紹介します。
「ブビンビ ボンボ ボンバボン!」
「ズズンポ ズポポン ズポンポポン!」
いやはや、すごいのすごくないの。
筆文字の擬音語が、迫力満点!
元気で大らかな富安陽子さんの語りが、
長谷川義史さんの絵と一体となって、笑いを誘います。
とんでもなく豪快な「よめどん」のおならにも見とれますが、
どんなに吹き飛ばされても、災い転じて福となす、
チャーミングな姑「ばばさま」の人間性にもしびれます。
『へっこきよめどん』
富安陽子/文 長谷川義史/絵
小学館 定価1050円 2009
おならに限らず、がまんし過ぎは体によくないですね。
ゆかいな「おなら絵本」で、親子で思い切り笑って、
自分を体の内側から解放しましょう。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
web連載「広松由希子の今月の絵本」
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