10月のテーマは「おばけの絵本」【広松由希子の今月の絵本・12】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
10月のテーマは「おばけの絵本」
幽霊やおばけは夏の季語。
でも、西洋のおばけは今月がひっぱりだこのハイシーズン。
10月31日のハロウィンにふさわしい、洋風のみなさんに登場いただきましょう。
まずは、パンプキン色の絵本『おばけやしきにおひっこし』。
町はずれの館に引っ越してきたのは、
小さな魔女の女の子、その名もマージョリィとネコのオスカー。
ドアを開けるなり、わっと飛び出すおばけたちに
マージョリィは怖がるどころか、
「おばけって かわいい。もっと いないかしら」
家中のおばけを手際よくつかまえて、なんと洗濯機に入れちゃいます。
え、えーっ、どうなっちゃうの……?
作者は、日本の大学を卒業後、
ケンブリッジにある絵本の名門アングリア・ラスキン大学で学び、
英国デビューした注目の絵本作家です。
あたたかみのある版画に、透ける紙素材を生かしたおばけコラージュ。
すっきりとした画面作り。
無邪気な笑顔で、大胆不敵な小さな魔女のファンになっちゃう。
『おばけやしきにおひっこし』
カズノコハラ/作 石津ちひろ/訳
光村教育図書 定価1470円 2009
暗闇に浮かぶ白いドクロに
こんなに笑わせられたことはありませんでした。
ヒック、ヒック!
しゃっくりが止まらない辛さを知っている読者なら、
わかりますよね。
『しゃっくりがいこつ』だなんて……
ガタガタキシキシ骨身にこたえて、もう、たいへん!
どうしたら、止められるかな?
息を止めても、ヒューヒュー抜けるし。
砂糖を飲んでも、サラサラ落ちるし。
指で目玉を押さえろ……と言ったって?
必死の様子が気の毒すぎて、おなかを抱えて転げちゃう。
オチのオチまでケアしてくれる、
くだらなさの徹底ぶりが、すばらしい。
『しゃっくりがいこつ』
マージェリー・カイラー/作
S・D・シンドラー/絵 黒宮純子/訳
セーラー出版 定価1575円 2004
おばけとひとくくりにされては不本意かもしれませんが、
高貴ないでたちの不思議な一族も、お招きしちゃいましょう。
『シルクハットぞくは
よなかのいちじにやってくる』です。
深夜にわらわら集まる
シルクハットに黒マント。
(でも足元はけっこう個性的♪)
足音忍ばせ、目と目で話し、
うなずく合図で、空に飛び立つーー。
窓の隙間から忍び込み、
寝る人々の枕元に立つ、怪しさ満点のみなさん。
いったいなにをするのか、息をひそめて見ていると?
「せかいの あちこちで
ちょっとだけ…」
「だあれにも きづかれないように
ちょっとだけ… ちょっとだけ…」
なんとも奥ゆかしくいじらしく、
かけがえのない仕事に励むのです。
ふんわり肩のあたりを包まれるような読み心地。
晩秋の、冷え込む晩にも読みたいな。
『シルクハットぞくは
よなかのいちじにやってくる』
おくはらゆめ/作
童心社 定価1400円 2012
ラストはにぎやかに勢揃い。
『おばけのコンサート』といきましょう。
古い家にひとりで暮らす小さなおばけが
「フォンファー フーファン」
窓辺で得意のハーモニカを吹いていると、
「トントン」
ドアをたたく音がします。
やってきたのは、バイオリンが得意な
森の木のおばけ!
いっしょに
「フォンファー フーファン」
「キューキコ ホーホー」
奏でていると、
次から次へ、ゆかいなおばけたちが現れます。
そのチャーミングな造形と
楽器の音色が相性ぴったり。
わいわい集まりドンチャン騒ぎ、
最高潮の直後に、ひゅっと消える。
その去り際も、すてきにハロウィンな感じ。
『おばけのコンサート』
たむらしげる/作 福音館書店
定価840円 2004
さあ、どんなおばけに化けようか?
仮装のイメージもふくらみますね。
“Trick or treat?”
たまには親子ではしゃぎましょう。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
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