2013年4月16日

4月のテーマは「笑いの絵本」【広松由希子の今月の絵本・18】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

4月のテーマは「笑いの絵本」

この春は、ねんざと風邪と花粉症デビューのトリプルパンチ。
こんなときに限って、一日中歩き回る出張が入ったりして……しくしく。

でも「泣きたくなる」が、ひと山越えると、
「笑うしかない」になるんですよね。
で、へらへら笑っていると、
だんだん楽しい気分になってきたりするから、不思議です。

うん、せっかくの花笑う季節だもの。
こぼれる笑顔が印象的な
笑いの絵本を集めてみましたよ。

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まずは、笑顔100%全開の絵本を。
タイトルからして、『わっはっは』。
表紙も、裏表紙も、背表紙の小さなカットも、
開けば見返しも「わっはっは」でいっぱい!

出てくるものたち、だれもかれも、
絵本自体が、まるごと笑っている感じ。

カバも、椅子も、花も、ハチも、茶碗も、
おかあさんも、大口開けて
「わっはっは」「ワッハッハ」

くよくよジメジメが、バカらしくなる。
おなかの底から「わっはっは」と、
親子でマイナス気分を吹き飛ばしてください。

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『わっはっは』
田島征三/作 偕成社
定価1050円 1994

 

満開ばかりが花じゃない。
「くすっ」とか「うふっ」とか「えへへ」とか、
三分咲きくらいの笑いも、いいものです。

『よこむいて にこっ』は、
登場人物の横向きの「にこっ」が、
なんともいえないおかしみを醸し出しています。

正面向きのときは、険しい表情。
「ぶたが よこむいて」
めくると、
「にこっ」

「ぞうが よこむいて」
めくると、
「にこっ」

こわそうな動物も、思いがけない食べ物も……?

2拍子のリズムで登場する
横顔が楽しく、「にこっ」がうれしくて、
見ているこちらも、つられて「にこっ」

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『よこむいて にこっ』
高畠純/作 絵本館
定価840円 1998

 

『ピッツァぼうや』の表紙を見てください。
とびきりの笑顔でしょ。

でも、ちょっと前まで、ピートはすっかり沈んでいたんです。
友だちと外で遊ぼうと思っていたのに、
雨が降ってきちゃったんだもの。

ソファでごろごろ浮かない顔のピートを見て、お父さんは、
「そうだ ピートでピッツァをつくったら
たのしくなるかもしれないぞ」

キッチンテーブルにピートをのせて、
こねて、ひっぱって、のばして、
生地の空中飛ばしもして……
本格的なピザ作り!

お母さんもいっしょになって、
オリーブオイルや小麦粉(=水やベビーパウダー)をふりかけたり、
トマトの輪切りやチーズ(=ゲームのコマや紙きれ)を用意したり。

ピートはピッツァになりきって、
黙って笑いをこらえていたけれど、
やがてピザ職人とピッツァの追いかけっこが始まります。

雨がやむ頃には、すっかりピートは上機嫌に。
90歳を過ぎたウィリアム・スタイグが、子どもたちに贈る笑顔。
子どもと本気で遊ぶお父さん像、好きだなあ。

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『ピッツァぼうや』
ウィリアム・スタイグ/作 木坂涼訳
セーラー出版 定価1575円 2000

 

最後に、笑いの力を教えてくれる古典絵本
エッツの『また もりへ』を。
名作『もりのなか』の続編です。

小さいぼくが森へ行くと、わいわいがやがや
動物会議が開かれています。
みんな順番に自分の得意なことをやってみせて、
だれのが一番いいか、うでくらべするというのです。

キリンは、天高く首を伸ばし、
ライオンは、ものすごい大声でほえ、
サルは、木に駆け上り、しっぽでぶら下がります。
年とったゾウは、どの技を見ても
「よろしい、なかなか よろしい」
勝負はなかなか決まりません。

でも、ぼくが逆立ちをしながら、
つい吹き出してしまったら……
「これは いい!」

森の動物は、だれもぼくみたいに笑えないんですからね。
モノクロームの抑えた表現で
なににも代えがたい、子どもの笑顔が描かれます。

動物たちが去った後、迎えに現れた父さんのつぶやき、
「おとうさんだって、ほかに なにも できなくても いいから、
おまえのように わらってみたいよ」
に、しみじみ共感。

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『また もりへ』
マリー・ホール・エッツ/文・絵
まさきるりこ訳
福音館書店 定価1050円 1969

 


子どもから親へ、親から子どもへ
伝わるエネルギー。
笑いは、お互いを元気にしますね。

嵐のような日もあるけれど、
笑顔の花咲く春になりますように。

 

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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