2013年3月6日

3月のテーマは「春の音の絵本」【広松由希子の今月の絵本・17】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

3月のテーマは「春の音の絵本」

急にあったかくなったと思うと、また逆戻り?
つい疑り深くなってしまうのが、3月の陽気。
春は、どこから来るのかしら……
と、絵本の棚を眺めていて、気づきました。

春は、どうやら「音」からやって来るらしい。

春色の服の下では、ヒートテックが頑張っていても、
耳を澄ませば、聞こえるのね。
春の訪れから桜のころまで、春の音を追ってみました。
hiromatsu17.jpg
まずは、序奏。
季節をこえて大好きな写真絵本、
『ふゆめがっしょうだん』を。

冬の木の芽をよく見ると、葉が落ちた跡が顔のようで、
木の芽が、帽子や耳に見えるんですね。
むくのき、ねむのき、ふじ、くわ、えのき……
木によっていろいろ個性的な表情が。
ウサギ、コアラ、サル系、子どもたちやオジサン風も。

 みんなは
 みんなは
 きのめだよ
 はるに なれば
 はが でて はなが さく
 パッパッパッパッ

おぼこい表情の拡大写真に、1行ずつのことば。
長新太さんならではの、とぼけたリズム。
特に繰り返す「パッパッパッパッ」が
耳に残り、口につき、花咲くイメージが目に浮かび、
ふくふくうれしくなってきます。
fuyume.jpg
『ふゆめがっしょうだん』
冨成忠夫、茂木透/写真 長新太/文
福音館書店 定価945円 1990

 

 

北の国では、春の音が格別待ち遠しいでしょう。
北海道の樺太で、幼少期を過ごした神沢利子さんの絵本には、
春を知らせる音が、豊かに描かれています。

冬ごもりの穴のなか、
生まれたばかりのふたごのぼうやがお母さんにたずねる
『ぽとんぽとんはなんのおと』(平山英三/絵 福音館書店)も、
おっとり心地よいですが、

この『いいことってどんなこと』は、
片山健さんの描く女の子のせつない表情とともに、
雪国の春の音を印象的に伝えてくれます。

屋根の雪からとけたしずくが、跳ねて踊って歌っています。
「しずくさん、どうして そんなに うれしいの」
女の子がたずねると、

 ぴちゃ ぴちゃ ぴてぴて ちろろろろ
  いいことが あるからよ
   いいことが あるからよ

いいことって、どんなこと? 
小鳥は「ちゅーいん ちゅーいん」
川は「ざぷ ざぷ じょじょじょー」

みんな、うれしそうに「いいことが あるから」というばかりで、
女の子は仲間はずれの気分に。
でも、雪の上に転んでしまった女の子は、ついに……。
「いいこと」分かち合う音に、
じんわり、うれしさが満ちてきます。
 
iikoto.jpg
『いいことってどんなこと』
神沢利子/作 片山健/絵
福音館書店 定価840円 2001

 

 

『はるのやまはザワザワ』では、
春になって目を覚ました
こぐまのグルルが山の声に耳を傾けます。
静かで、さみしかった冬の山が、いつのまにか

 ピーピー チッチッチッ
 ジェー グエッ
 キョキョキョキョ ヒョーヒョー

降りそそぐ鳥の声だとか……

 ザアザア ググッ パチャッ
 タタッ タタッ タタッ
 パッパッ プーン ブンブン
 ザワザワ ザワザワ

うーん、画面いっぱい。こんなに、にぎやか!
そうか。
春の訪れは、いのちの目覚め。
春の音は、いのちの音なのね。
自然派アーティストの描く絵の
余白にもざわめく、いのちの気配を感じてください。 
haruno.jpg
『はるのやまはザワザワ』
村上康成/作、絵
徳間書店 定価1470円 2001

 

 

春爛漫の象徴は、やっぱり桜。
見上げる花もいいけれど、散る花は特別の味わいです。
『ほわほわさくら』からは、
子どもが花びらとたわむれるよろこびがあふれてきます。

 ほわ ほわ ふわん
 ほろ ほろ ほろ ほろ
 ほろり

てのひらに一瞬つかまえた花びらへの思いが、
にっこり親しい表情に、重なります。
また風が吹いて逃げ、目で追って。

 ほわ ほわ ほほほ
 くる くる ふふふ
 ふふっふ ふるるる
 ほのほの ほろろん

花びらのようすと気持ちがとけ込んだ、桜の音。
懐かしさを誘う、新しいことば。
子どもといっしょにたわむれたい。

howahowa.jpg
『ほわほわさくら』
ひがしなおこ/作 きうちたつろう/絵
くもん出版 定価840円 2010


春の音、春のにおい、春の色。
集めてみたくなりました。

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

シェア
ツイート
ブックマーク
トピックス

ページトップへ