2020年11月12日

絵本作家・大森裕子さんが読み聞かせしていた日々のこと【うちの読み聞かせ・11】

気になるあのママ・パパは、絵本をどんなふうに楽しんでいるの? 親子の読み聞かせについてお話をうかがう連載。第11回は9月に発売された『めんのずかん』など、人気の「コドモエのずかん」シリーズや、楽しいしかけで遊べる「へんなえほん」シリーズでおなじみの、絵本作家の大森裕子さんです。ふたりの息子さんは現在高校2年生と中学1年生。絵本の読み聞かせをしていた日々のことを振り返ってお話しいただきました。

 長男、次男、それぞれの絵本とのかかわりかた

── 大森さんは、どんなふうにお子さんに読み聞かせをされていましたか?

子どもが「読んでー」と言ってきて自分もOKなときや、夜寝る前に、よく読んでいました。何冊読む、といった決め方はしていなかったですが、10冊以上ドーンと高く積み上げて、「ぜんぶ読んでー」と言ってきたりしたときは、こっそり数を減らしたこともありました(笑)。

── 読む本は、どんなふうに選んでいましたか?

私が読みたいなと思う絵本も読んでいましたし、子どもが「読んで」という絵本も読んでいました。年齢別おすすめ絵本の定期購読を利用していた時期もあります。

あとは、保育園の担当保育士さんから「今、クラスでこの絵本に夢中です」っていう情報があると、同じ絵本を買ったりもしました。園で読んでいる絵本と同じ絵本を家でも読んでもらえるのは、子どもは嬉しいみたいで盛り上がりました。

絵本作家・大森裕子さんが読み聞かせしていた日々のこと【うちの読み聞かせ・11】の画像1

『ぼく、あめふりお』(大森裕子/作・絵 教育画劇)の雨の日のお家あそびを、実際にやってみる長男。

── お子さんによって、絵本とのかかわりに違いはありましたか?

長男は、ずかん絵本や長めの物語でも、一句たがわず暗記してしまって暗唱してみせたり。科学絵本も集中してよく読んでいました。でも物語もよく読んでいたなぁ。次男は、自分の手のひらを絵本に見立ててオリジナルのお話を作っていく「おてて絵本」のあそびがとてもじょうずで、次男が紡ぎ出す、ときに突飛で可笑しな物語に私の方が夢中になっていた時期がありました。夜、布団に入って次男のオリジナルストーリーを聞きながら眠るという、至福の時間を過ごさせてもらいました。

絵本作家・大森裕子さんが読み聞かせしていた日々のこと【うちの読み聞かせ・11】の画像2

『じゃあじゃあびりびり』(まついのりこ/作・絵 偕成社)で満面の笑みの次男。この絵本もふたりによく読みました。

 

大森さんの思い出の読み聞かせ絵本3冊

── それでは、大森さんの思い出の読み聞かせ絵本3冊を教えてください。

はい。本棚の前にしゃがみこんで、記憶を辿りました(笑)。

『がちゃがちゃ どんどん』
(元永定正/作 福音館書店)

絵本作家・大森裕子さんが読み聞かせしていた日々のこと【うちの読み聞かせ・11】の画像3

長男が赤ちゃんだった頃から、よく読んでいました。擬音語の響きを大げさに読んだり、高い声や低い声で読んだり。おひざにのせて、「ど さ ん」のときに揺らしたり、「ぐにゃ ぐにゃ」でくすぐったり。最後の「ぷ」は毎回おならのマネで締めていました(笑)。子どもは毎回喜びますし、大人も読んだ後になんだか楽しい気分になる絵本でした。

『ベーコン わすれちゃだめよ!』
(パット・ハッチンス/作 わたなべしげお/訳 偕成社)

絵本作家・大森裕子さんが読み聞かせしていた日々のこと【うちの読み聞かせ・11】の画像4

保育園で大盛り上がりの絵本だ、ということで購入。長男も次男も、セリフを覚えて3人で一緒に大声で読んでいました。繰り返し出てくる言い回しが、翻訳だからだと思うのですが独特で、それもまたちょっぴり意味不明で楽しいのです。最後のオチも、みんなで叫んでゲラゲラ笑ってました。

『ばけばけばけばけ ばけたくん』
(岩田明子/文・絵 大日本図書)

絵本作家・大森裕子さんが読み聞かせしていた日々のこと【うちの読み聞かせ・11】の画像5

次男が大好きだった絵本。美しい絵です。読み進めるうちに、体の感覚が敏感になり、ぐるぐるうずまいたり、ねばねばしたり、しゅわしゅわに痺れたりしてくるのが面白いです。言葉のリズムも美しいので、読んでいて心地よかったのを覚えています。

絵本の中の住人たちと空想の世界で戯れた
大森さんの幼少時代

 

── ところで、大森さんご自身は、どんな絵本がお好きだったんでしょうか?

父や母に読んでもらった記憶はあまり残っていないのですが、自分ひとりで部屋の隅で、ブルーナさんの「うさこちゃん」シリーズをうっとり眺めていた記憶は鮮明に残っています。幼稚園の頃だったでしょうか。『うさこちゃんとうみ』や『うさこちゃんとどうぶつえん』(ともに、ディック・ブルーナ/文・絵 石井 桃子/訳 福音館書店)が好きで、絵の上に勝手にいろいろ自分で絵を描き加えていました。合作です(笑)。

「ねずみくん」シリーズ(なかえよしを/作 上野 紀子/絵 ポプラ社)も大好きでした。ねずみくんをはじめ、登場する動物たちのことを友達みたいに思っていて、あひるやぞうやうまとページの中で一緒に遊んでいました。私はねずみくんのことを独り占めしたかったので、恋人のねみちゃんのことはあまり好きになれなかったこともよく覚えています(苦笑)。

絵本作家・大森裕子さんが読み聞かせしていた日々のこと【うちの読み聞かせ・11】の画像6

子どもの頃、私が好きだった絵本たち。当時のものは残っていなくて、大人になってから集め直しました。

それから薮内正幸さんの絵本もとても好きで『どうぶつのおやこ』(福音館書店)のページの中へは何度も遊びに行きましたし、『にわやこうえんにくるとり』(福音館書店)なども、模写して薮内ワールドを味わい愛でておりました。しじゅうからの毛を1本1本面相筆で描いていたのは、小学生の頃ですね。

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写真下:『にわやこうえんにくるとり』のしじゅうからのページ。 写真上:小学6年のとき、卒業制作のオルゴールの絵として私が模写したもの。横幅が足りなくてしじゅうからの数を減らしています。虫が苦手で描いていなかったり……(汗)。

うちは両親とも働いていたので、子どもの頃は少なからず寂しい気持ちがあったと思います。今思えば、それを絵本の中の住人たちと空想の世界で戯れることで、紛らわせていたのかもしれないです。でも、その時間は私にとってはとても幸福で、うっとりとするような時間でした。

──このしじゅうからの模写は、小学生と思えない緻密さで、大森さんの「コドモエのずかん」シリーズ(白泉社)の原点を拝見したような気分です! ところで、お子さんが成長されたいま、絵本を読み聞かせていたことが影響しているな、と思うようなことはあるでしょうか。

絵本を読むという行為は同じでも、感じていることは人によってそれぞれ違うし、そのときそのときでも違うだろうし……、彼らの人生にどう影響しているかは、私には分かりようがありません。ただ、当時を振り返って思うのは、絵本って、さまざまな楽しみ方ができて、懐が深いなぁということです。

今思えば子育て中は、絵本に救われていたことがたくさんあるような気がします。まだ長男が2歳くらいの頃だったと思うのですが、夜、はみがきをしてほしいのになかなかしなかったときがありました。 当時の私は、今よりずっと子育てに一生懸命で「こうしなければ」と思っていたことがたくさんあったと思います。

「こうしなければ」が多ければ多いほど、実際はそうはならないもので、イライラは大きくなるばかり……。 そのときに夫が、たまたま読んだ『ぐるんぱのようちえん』(西内ミナミ/作 堀内誠一/絵 福音館書店)で、わざと「ぐるんぱは はみがきを しました」とか、『よるくま』(酒井 駒子/作・絵 偕成社)を読んで「よるくまのなみだは まっくら まっくろ だけど 歯はしろい」とか、文章を変えて読み聞かせしていたんです。すると長男は大ウケ! 聞いているこちらも、なんだか、ふっと肩の力が抜けちゃって。

それで結局、長男がはみがきをしたのかしないままだったのかは覚えていませんが(笑)、ちょっとだけ場の空気が変わる感じ、楽になる感じっていうのか……、そういうのが子育て中には特に大切なのかもしれないなと思いました。

──絵本には、その場の空気を変える力もあるんですね。

ほかにも、これは手前味噌ですが、『へんなところ』(白泉社)という私の絵本を次男に読み聞かせしていました。クマやパンダや動物たちが何匹も並んでいる中で、ひとつだけへんなところがあるから探してね、っていう絵本なのですが、もう次男は何度も読んで内容を知っています。

「へんな ところ どーこだ?」という私の声にあわせて、次男は元気いっぱいに「ここ!」と指差しをしていたのですが、その指差す瞬間に私がちょっとだけ絵本を横にずらしてみたんです。すると次男は大ウケ!! 「ここ!」って指差したのに、違うところを指しちゃっているという事実がなんだか非常に良かったらしく、それ以来『へんなところ』は、そういう遊び方をする絵本になりました。

最初はちょっとだけずらしていましたが、だんだんとエスカレートしていき、私は絵本を開いて持ち「へんな ところ どーこだ?」と叫んでから部屋中を逃げ回る、逃げる私を次男がゲラゲラ笑いながら追いかけまわして指を差す、というダイナミックな鬼ごっこ絵本になっていました(笑)。

読み聞かせをして癒やされていたのは、いつも私の方だったなぁと思っています。

絵本作家・大森裕子さんが読み聞かせしていた日々のこと【うちの読み聞かせ・11】の画像8

写真/黒澤義教


大森裕子
おおもりひろこ/神奈川県生まれ、埼玉県在住。絵本作家。 現在高校生と中学生の二人の息子の母です。 絵本に「へんなえほん」シリーズ『おすしのずかん』『パンのずかん』『ねこのずかん』『めんのずかん』(白泉社)、『ちかてつもぐらごう』(交通新聞社)、『ぼく、あめふりお』(教育画劇)など。 https://www.iri-seba.com/ 
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