2020年1月17日

息子が、絵本で教えてくれたこと。音楽家・良原リエさんの読み聞かせ【うちの読み聞かせ・6】

気になるあのママ・パパは、絵本をどんなふうに楽しんでいるの? 親子の読み聞かせについてお話をうかがう連載。第6回は音楽家でトイ楽器奏者の良原リエさんです。

空の青さを息子が教えてくれた。忘れられない読み聞かせエピソード

――良原さんはいつごろから絵本の読み聞かせをされていますか?

息子が生後2〜3か月の頃からはじめました。産前も音楽の仕事をしていましたが、365日、時間関係なくレコーディングやらリハやら本番やら、何かやってる生活でした。昼から始めて、終わりが翌日朝の5時とかになるようなこともザラで。ソファで仮眠するだけの日も多く、せめて布団で寝ろと夫に怒られたり。そんなめちゃくちゃな日々だったので、出産後、眠れないこともそんなに苦ではなく、時間を持て余してしまったほどでした(もちろん、息子が手のかからないタイプの子だったのかもしれませんが)。その時間を埋めるために、絵本の読み聞かせをはじめました。子どものリメイク服やおもちゃを手作りすることになったのも、同じ理由からです。

読み聞かせと言っても、まだ小さかった息子は、ぼんやりとながめるだけでしたが、そのうちに目でページを追うようになり、絵本の中の色を区別できるようになったことがわかったことを覚えています。その頃、よく読んだのは、安西水丸さんの『がたん ごとん がたん ごとん』(福音館書店)と、リサ・ラーソンの『BABY COLOUR BOOK』という絵本。

この絵本のおかげで、色を覚えたのが早かったように思います。ふく、くつ、かばん、といった言葉がわからなくても「あか(のふく)」といったように色で必要なものを教えてくれるようになりました。なかでも、色の「あお」が言えるようになったとき、忘れられないエピソードがあります。

一緒に、あお、を探してみよう、とお散歩していたときのこと、青い看板、青い車、青い誰かの洋服、などを見つけると あった! とひとつひとつ指差して教えてくれて。それだけでも十分楽しかったのですが、息子がふと 上を指差して、あった! と言ったのです。

見上げると、雲ひとつない真っ青な空!

空の青を子どもに教えられて、なんだかすごく胸がいっぱいになって。これは子育てを存分に楽しまなきゃもったいないな!! とも思いました。

――素敵なエピソードですね。お子さんと言葉でコミュニケーションを取れるようになってからは、どんな絵本を読み聞かせしましたか?

息子が、絵本で教えてくれたこと。音楽家・良原リエさんの読み聞かせ【うちの読み聞かせ・6】の画像1

『しんせつなともだち』(方軼羣/作 村山知義/画 君島久子/訳 福音館書店)。素敵なお話もさることながら、登場する動物も、動物の家のインテリアも とってもオシャレで大好きな1冊。

2歳半くらいからは物語の絵本を夢中で読むようになりました。友達にいただいた絵本『ラチとらいおん』は文章が長くて年齢的にまだ難しいかなと思ったのですが、集中して楽しんでくれて。それをきっかけに対象年齢はあまり気にしなくなって、幼稚園時代は物語の絵本を中心に毎晩10冊くらい読んでいたように思います。

10冊の中には、内容の濃いお話系も入っていましたが、どこかでいただいた車のおもちゃカタログのような本が紛れていることも。どんな本でも読んでもらうのが楽しくてたまらない息子は、それも端から端まで読んでくれと、文字を指で追って、ここを読んで! と指図してきて……、ひたすら型番を読み上げるのは、本当にしんどかった!(笑)

思い出深いのは、年長のとき『雪の女王』をプレゼントでいただいて。大人が読むのにも、集中しないと眠くなってしまうような長い本だったのですが、息子の読んでほしい! の言葉に、2週間くらいかけて毎晩読み進めていったことでしょうか。二人で読み解いていくというワクワク感があって、つづきを楽しみにして寝るといった感じでした。

ラスト直前まで暗く寂しい内容なのですが、最後に道が開け、光が見えた時、一緒に安堵したのがとても印象的でした。二人で時間をかけて何かを成し遂げたような、同じ気持ちを共有できたのが嬉しかったですね。

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『はじめてであうすうがくの絵本1』(安野光雅/作 福音館書店)。算数、数学の概念を遊びながら自然に理解できます。この本のおかげで、全くの学習なしから、繰り上がり計算など授業がスムーズに理解できたようです。

息子はシュタイナー幼稚園に通っていたので、小学生になるまでは知識を入れないという方針があり、文字も学ばず、簡単な計算、英語にも触れてきませんでした。小学生になった今は、それまで封印されてきた知識のシャワーが楽しくて仕方ないようで、本人が選んで買ったり、借りてきたりしている、なぞなぞ、クイズ、魚、昆虫、科学、工作、冒険といった内容の本をあれこれ片っ端から読んでいます。

最近は自分が読みたい本をひとしきり読んだあと、読み聞かせして欲しい本を1冊リクエストをもらって、それを私が読んでから寝る、という流れですね。 

――1日に10冊読んでいた時代もあるんですね。読み聞かせをしていてよかったなと思うエピソードなどあれば教えてください。

息子が、絵本で教えてくれたこと。音楽家・良原リエさんの読み聞かせ【うちの読み聞かせ・6】の画像3

絵本は、りんご箱を積み重ねて作った棚に収納しています。重ねてあるだけなので、本の数に合わせてりんご箱を追加するなど、自由にレイアウトを変えられるので便利です。

息子が、絵本で教えてくれたこと。音楽家・良原リエさんの読み聞かせ【うちの読み聞かせ・6】の画像4

本の並びは特に決めていません。本棚に入っていればいいぐらいのスタンスにしておくと、片付けも億劫ではなくなります。よく見ると1冊、逆さに入っています(笑)

そうですね、読み聞かせのおかげで、子どもの集中力は高まったのではないかと感じます。本を最後まで投げ出さずに読むということは、自然にできるようになった気がします。

あとは、私の好み、ということもありますが、庭の絵本を読んだことをきっかけに庭造りを始めたり、鳥や生物にまつわる絵本を読んだことをきっかけに、鳥や虫などがとても好きになり、庭やみちばたで見つけて帰ってきたら、その日の夜に絵本で確認という流れもできました。

知りたいことがあれば本を読む! と思っているようで、気になることがあると図書館に行きたいというようになりました。学童で将棋が流行ったら、将棋の本を借りにいく、といった具合です。

良原さんの思い出の読み聞かせ絵本3冊

――それではここで、良原さんの思い出の読み聞かせ絵本を3冊、教えてください。

たくさんありすぎて3冊に絞るのが本当に難しい! のですが……、がんばって選んでみました(笑)。

『バーナデットのモミの木』
(アンデルセン/作 バーナデット・ワッツ/絵 ささき たづこ/訳 西村書店)

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この絵本は、2歳半から6歳近くまでほぼ毎日、季節に関係なく読みました。

息子が幼稚園に入るとき、親同士の会で自己紹介がてら、子どもが好きな絵本を紹介する、という機会があったのですが、息子に一番好きな本は何? と聞いたら選んだ本がこれでした。もう一度クリスマスツリーになりたいと願いながらも、モミの木は燃やされてしまうというとても悲しいお話です。毎回、読んでいて辛くなるほどです。

途中、途中にはさまれる、ここにいることをよろこびなさい、という風や森の声に、自分の人生において勘違いしていることはなかったか、なんてことない日常にこそ幸せがあり、その幸せに気づき、感謝しているのか、といったことを、読むたびに諭されるような気持ちになります。大人にはかなり身につまされるお話ではないかと思います。しかしながら、言葉も絵も本当に美しくて、素晴らしい絵本。息子は、小学生になった今でも大好きだそうです。

『木はいいなあ』
(ジャニス・メイ・ユードリー/作 マーク・シーモント/絵 西園寺 祥子/訳 偕成社 )

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自然や木を大切にする気持ちが育つ本だと思います。最後に、木を植えよう、というメッセージにたどりつき、とても気持ちの良い読後感です。これのおかげで、我が家に何本も木が植えられました!(笑)

見るだけのつもりで寄ったガーデンセンターで、木を買って植えたらいいよ! 絵本に書いてあったよ! と本の受け売りで、息子が私に購入をそそのかす、という流れができてしまいました。それで、庭の大きさに対して、いつも買いすぎてしまうんです……。

『こんとあき』
(林明子/作 福音館書店)

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病院の待合室で読んで、息子も私もとても気に入り、息子の5歳のクリスマスプレゼントにこの本を買うことにしました。しかし12月は夫がたいてい激務で、私も幼稚園に預けている間は仕事を詰めてしまい、あとは息子と常に一緒なので、一人で本を買うタイミングがないままクリスマス時期になってしまいました。

ようやく一人になれた時、近くにブックオフしかなかったので、古本を購入、それをプレゼントしたのですが……、中身までよく確認していなかったために、ページがボロボロ! 破れまくり! で「サンタさん、破れてるの気づかなかったのかな?」と息子に言われ(苦笑)、どうしてだろうねえ、なんてしらを切りながら、一緒にセロハンテープで直した思い出の1冊です。その後は楽しく、何度も何度も読みましたよ!

 ――素敵な3冊をありがとうございます。ところで、良原さんは子どものころ、読み聞かせをしてもらった思い出はありますか?

実は、子どものころ、私には2冊しか本がなかったんです。

『わたしのぼうし』と『ごんぎつね』

おそらく私が幼少期、両親は家を買ったばかりでお金がなかったこと、そして私の下に妹と弟がいて、私に構う余裕がなかったことなどが理由かな? と思うのですが、本をちゃんと買ってもらった記憶がありません。読み聞かせてもらった記憶もほぼないんですよね。唯一、上記の2冊は、小学1年の時の推薦図書で、買ってくれたことが死ぬほど嬉しくてよく覚えています。それでお願いして、毎年、推薦図書を買ってもらうようになりました。

本を読むのが好きなのに、家には自分の本が少なかったので、両親の本も勝手にどんどん読みました。漢字が読めなくても勝手に想像して。その中に、タイトルはうろ覚えなのですが「男の子の産み分け方」というような本があって……。すごく健康的な男女がポーズをとっていて、体操の本だと思っていました。でもこれは、両親が男の子を産みたくて、ついすがったと思われる、体位の本(笑)。内容に気づくのはずっと後、高校生くらいのときなんですけどね。それすらも読んでしまうと、電話帳にまで手を伸ばして、あ、から順に、人の名前を読みました。

小学校の図書室は私にとっては天国で、片っ端から借りましたよ。学年ごとに本が並べてあったのですが、対象年齢の本はおそらく全部読みきりました。あ、もう借りるものがない、って気づいて、上の学年の本を借りていた覚えがあります。

 ――本当に本がお好きだったんですね。今の読み聞かせは良原さん自身にもプラスになっているんでしょうか。

うちにある絵本は私が選んだものがほとんど。基本的には自分が読みたいと思う絵本を読み聞かせできているので、10冊読むことになった時期も楽しかったです。本に集中することで頭をリセットできますし、いい時間だなと思います。

息子が、絵本で教えてくれたこと。音楽家・良原リエさんの読み聞かせ【うちの読み聞かせ・6】の画像8良原リエ
よしはらりえ/音楽家。アコーディオニスト、トイピアニスト、トイ楽器奏者として、映画をはじめ、TV、アニメ、CM、ミュージカルなどの演奏、制作に関わる。トイ楽器を用いた子ども向けコンサート、ワークショップなども行っている。著書に『まいにちの子そだてべんとう』『たのしい手づくり子そだて』(アノニマ・スタジオ)『トイ楽器の本』(DU BOOKS)など。

instagram @rieaccordion
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