2025年9月26日

ドイツの性教育「学校はどんなことを教えてくれるの?」子どもたちの報告を楽しみにしていたら…【教えて!世界の子育て~ドイツ~】

海外ではどんな子育てをしているの? 日本から離れて子育てをするママたちに、海外でのようすを教えてもらう「教えて! 世界の子育て」。場所や文化が違うと、子育ては違うのでしょうか。日本での子育てや生活と同じこと、違うこと。ドイツでふたりの娘さんを育てる中原さんからのレポート、今回は、ドイツの性教育についてです。

性教育@ドイツの基礎学校!
体に訪れる変化はクラスみんなで学ぶ

ある日、台所でじゃがいもを剥いていると、リンゼが「今日セクスアールクンデだったよー」と言いながら帰ってきました。
「おお! どうだった? どんな内容だった?」
「おもしろかったよー。これから体や心がどんどん変わるよーって教わった」
セクスアールクンデというのは性教育の授業のこと。私はドイツのグルンドシューレ(小学校4年生までの基礎学校)の性教育がどんなふうに行われているのか、ずっと気になっていました。

ドイツで暮らしていると様々なところで文化や習慣の違いを目の当たりにします。公共の場所でのキス。カップルたちのありさま。他人の裸に対する感覚なんて日本人の私が持ってるものとは全くちがう(プールやサウナなどの着替えは男女が分かれてなくて……個室はあるけど……すっぽんぽんになって着替え!)。パートナーとのあり方、結婚、家族とのあり方も日本とは異なります。

こりゃ性についての語られ方も日本とは異なるにちがいないぞと睨(にら)んでいたので学校はどんなことを教えてくれるのか、子どもたちの報告をおおいに楽しみにしていたのでした。

ドイツの性教育「学校はどんなことを教えてくれるの?」子どもたちの報告を楽しみにしていたら…【教えて!世界の子育て~ドイツ~】の画像1

ドイツ語はカタカナにすると圧がすごい。ゲシュレヒツウンターシードは性差という意味です。

早速リンゼは習ったことを教えてくれます。
「女の子はRegelblutungが始まって、始まったらカレンダーに記録しなきゃならないとか、男の子はRegelungは無いけど何回か自分でコントロールできない射精があるとか」
「Regelblutungは日本語で月経とか生理とか言うよ。なるほどね、男女両方の体について勉強したんだね」
「女性の体に生理があるのは知ってたけど男性の体にもあるのは知らなかったなー」
と、リュックから取り出したタッパーを流しで洗いながらリンゼは言います。
「あれ? 生理のことはもうどっかで習ったの?」
「友達のお姉さんの話とか習い事でも周りから聞くから」
おお、そっちは周囲からの情報もあるか。
「でね、男の子のと違って女の子の生理は50、60歳まで毎月、1週間もあって、人によってはお腹が痛くなることとかも習った。女性の体は男性よりも手間が掛かるんだね! あとは、ティーンになると体のにおいが強くなったり、心もくしゃくしゃになって大変になるとか。なんかイライラしちゃったり暗い気持ちになっちゃったりするんだって」
リンゼは心が大変になるのはいやだなぁと口をへの字にする。
「あと男の子はちんちんのEichel、日本語で何て言うの? なんか皮の下に汚れが溜まるからシャワーではちゃんと剥いて洗わないといけないよーとか」
「えっ!」
驚いて芋を取り落とし手を切りそうになったわ。
Eichel、ドイツ語でどんぐりを意味する言葉は同時に男性器の亀頭も意味するのですが、包皮を剥いて洗浄する必要があることまで習ったと。それ、私は妊娠中に受けた赤ちゃんの体の洗い方コースで初めて知ったわよ!

「もしかして生理の話もちんちん洗う話も、この内容全部クラスみんなで受けたの?」
「うん。ずっとそうだったよ」
「ずっと!?」
「1年生の時から人の体についてずっとお勉強してたよ。2年生の時はもうちょっと詳しい体のことと他の人に自分を触らせてもいいのはどこまでかっていう話。3年生の時はどうやったら子どもができるかと、心は男と女だけじゃなくていろいろって話だった」
とリンゼは記憶を辿(たど)り辿り話します。わあ……毎年積み重ねてきてるの知らなかった。

「すごいね。これをみんなで一緒に学んできてたのか」
そこに次女のおいもさんがバン! とドアを勢いよく開けて帰ってきました。
「おいもセクスアールクンデ受けてないよ! リンゼはずるい! あっ、ただいま」
どうしても話に加わりたかったのか玄関で靴を脱ぎながら、開け放したドアにむかって首を伸ばし叫びます。
「おいもちゃんの授業のことはリンゼは知らないよー、自分の先生にいつやるのか聞いたらいいじゃん」
「おいもも子どものできるしくみ知りたいのに」
「それは3年生の内容だから来年だよ」
「むー」
「おいもさんはもう知ってるでしょう。本で読んだじゃない」
そう、セックスと妊娠の仕組みやドイツの今の世代でどんなふうに性が扱われているかを子どもたちは絵本を通して知っています。

子どもたちが好きなMarc-Uwe Klingの絵本シリーズの中の1冊、Der Tag, an dem Papa ein heikles Gespräch führen wollte(日本語にするなら「パパが繊細なことを話したい日」という感じでしょうか)が性についてのものだったのです。これが面白いわ学びが大きいわですごかった。

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ドイツのコメディアン、マーク・ウーヴェ・クリンクの本。妊娠とセックス、性同意、身体を守ること、10代のカップルの姿、今の70代の人たちが若かった頃の様子、性の多様さなどが子どもから大人に向けて、世代の違いも軽やかに飛び越えて書かれた本。日本語に翻訳されてくれー! おもしろいのよー!

この本はおいもさんが5歳くらいの時に買って、以来家族のお気に入りになり、リンゼは学校の朗読大会で読む題材にしたほど。
「おいも子どものできかた知ってるけど、学校で先生がどんなふうに話すか聞きたいし、みんなで習ったら他の子がどんなこと言うかなーとか、きっと面白いもん」
「うんうん質問は面白いよね、今日双子の出来かたについて質問が出て、良い事聞くなーと思った」
「おいもさんの先生はぜんぶ3年生から教える予定なのかねー」
「やらなかったらおいも怒る」

そんな話をしていると、お母さんはどんなセクスアールクンデだったの? と聞かれました。
「お母さんはね、小学校3年のときと5年生の時に性教育を受けたなあ。」
3年生の時のそれはエイズについて班で調べて発表するという、性交渉とコンドームの重要性について触れることは避けられないテーマで、私は今でも授業参観でボードを掲げ「コンドームは体を妊娠から守るだけでなく病気からも守ります!」と文を読み上げた時の誇らしい気持ちを覚えています。あれはクラスみんなで調べた輝かしい事実だった。
「まあそうやって発表したらさ、見にきてた親たちが『コンドームですって……ヒソヒソ』って、居心地悪そうにしてたから『セックスについて話すのってだめなことなのか』とも感じたな」
「へー」
「5年生の時に受けた授業は、女子だけで生理の話とか聞いた」
保健の先生は「生理は恥ずかしいことじゃありませんから」と言っていたけれど、おおっぴらに話されるべきじゃないという雰囲気が満ちた特別教室でのこと。当然、後から合流した男子たちに秘密の匂いを嗅ぎつけらて馬鹿にされたのでした。30ウン年前の記憶。

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この15年ほど日本では保健体育の先生たちが性教育苦労してるよ〜という話を聞きます。性交について話してはダメで、使っていい言葉も限られていて、どうやって教えたらいいのやらと。

夫の記憶はというとギムナジウムの頃(高校生くらい)で、お化粧をして衣装を着たドラァグクイーンが教室に来てバナナにコンドームを被せて避妊について習うというものだったそう。生理については習った記憶が無いそうなので女子だけ分かれて授業がなされたのでしょう。50代の友達は人体模型で習ったと言うし、世代やその時の先生によって全く違った形になるのでしょうね。

「今日ね、きゃー聞きたくなーいって言ってる子もいたよ。でもねリンゼはね、すごく大事なことだからみんなでおんなじこと知ってた方がいいと思う。知らなかったら、誰かが辛い時に気付けなかったり、分からないで傷つけちゃったりすると思うもん」
保護者会では、生理についての説明は男子がいないところでやってほしいという要望が女子児童の親から多く出ていました。だから私はリンゼの担任の先生が男女分けずに授業を行ったと聞いて「うぉ、先生やりよった」と驚いたし、それはとても良かったんじゃないかと思うのです。雨が降る仕組みや光合成と同じ、自然のひとつとして、性のこともあたりまえのこととしてフラットに話したのでしょう。

これから子ども達にやってくるのは、体の変化だけではありません。性のあり方そのものが激変する世の中で大人だって溺れそうになっています。どこぞの大統領がサインひとつで性のあり方を決めようとしたりしてるけど、人間そんな簡単じゃねえ。誰だって自分の体と心と向き合いながらそれぞれのあり方を探っていく。
そのためには、人間の体についての知識、身の守り方は必須です。

さて。おいもさんの先生はどう授業をするかな。子どもたちの様子や教員の数によっては行われないクラスもあるらしいよ。子どもの報告を楽しみに台所で待つとしようじゃないか。 

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今回の海外ママは
中原さん
結婚を機に夫の故郷ドイツに移住。滞在年数10年を超えてもドイツ語に苦しむ。趣味はレストラン巡り、庭いじり、手芸などなど。掃除と片付けも趣味になったらいいのになあ……といつも思っています。2人の娘がいます。 #中原ドイツ子育て Instagram @s_vn

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