穴が開いても楽しみが待っている「ダーニング」のススメ【教えて!世界の子育て~ドイツ~】
海外ではどんな子育てをしているの? 日本から離れて子育てをするママたちに、海外でのようすを教えてもらう「教えて! 世界の子育て」。場所や文化が違うと、子育ては違うのでしょうか。日本での子育てや生活と同じこと、違うこと。各国からリアルな声を伝えてもらいます。
ドイツで子育てをする中原さんが今回伝えてくれるのは、娘さんたちの靴下に穴が開いたときなどにおこなう「ダーニング」。家にある道具ですぐできて、仕上がりがカワイイ! 中原さんのダーニングの方法も紹介してくれました。
心落ち着く繕いの時間
お隣さんに教わったダーニング
「おかあさん、みてみて……おいもさんのククシタ……」と次女がしょんぼり見せてきた靴下にあなぼこ。あらあら、これはお気に入りの靴下だね? これ以外は履きたくないっていう大事な大事な靴下だね?
朝保育園に行くときに片方見つからないと大騒ぎになるやつだから、スムーズな登園を可能にするための、私にとっても大切なアイテム。
私はニヤリと余裕の微笑みで針と糸とガラス瓶を取り出します。
これで何をするかって? ダーニングです!
道具は家にあるもので
ダーニングとは、穴のあいた衣類のなかでも、パッチを貼ったりしづらいニット生地や毛織物を繕うことです。ドイツ語では「シュトプフェン」といいます。
このダーニング、特別な道具を準備することなく始められるんですよ。
必要なのは
・針(長針、とじ針やクロスステッチ針など大きめな針がおすすめ)
・糸(さしこ糸、刺繍糸、毛糸など)
・穴の空いた部分に合うガラス瓶、お茶碗など
・輪ゴム
・フォーク
の5つ。針に糸を通して始めましょう!
ククシタチャンの
ダーニング
まずは修繕の必要な箇所の下にガラス瓶をあてて、ずれないように、修繕箇所の反対側から軽くひっぱり輪ゴムで固定します。
針に糸を通します。1cm×1cmの穴に対して糸の長さ1mもあれば十分です。
さっそくチクチクいきましょう。穴の5mmほど外側を2目チクチクと縫い、くるっと小さく縫い返します。
ツンツンと軽く引っ張ってみて糸が抜けなければOKです。端糸は5cmほど残しておきましょう。縫っていくとき針の先を瓶の上で滑らせるようにします。
そのまま穴の周りをぐるっと並縫いします。
これが縦糸と横糸を張っていく時のガイドになると同時に引きつれ防止になります。
縦糸を張っていきます。
先ほど並縫いで印をつけたところをはじから埋めるように糸を渡し、布地をすくって折り返していきます。
横糸を渡していきます。先程張った縦糸をすくいながら、うえしたうえした……。
最後まで通せたら糸を引き、フォークで横糸を端に寄せます。マークの上で折り返し、今度は下に来ている縦糸をすくって織物をするように針を上下させて通します。
互い違いに出来ていたら糸を優しく引き、先程と同じようにフォークで端に寄せます。これを終わりまで繰り返します。
穴が埋まったら糸の始末です。縫いはじめと同じようにくるっと縫い返し、糸の中を2目程通します。
糸を裏側から出してツンツンと引っ張り、糸が戻らないのを確認してから飛び出た余分を切ります。肌に当たらない箇所の場合は結んで止めても構いません。
じゃーん! どうだー! 無事穴ぼこをふさいだぞー!
お花みたいでかわいいダーニング
穴が開ききっていない場合は、より手軽に薄くなったところの補強をすることができます。
それがこちら。慣れると、この方がはやく繕うことができます。こちらはお花みたいでかわいい。
1・縫い始めは先ほどと同じ。2目ほど、なみ縫いをして糸を引き、5cmほど端糸を残してくるり糸どめ。
2・穴の中心に向かって3mmほど針を入れ、向こう側に出た針に糸を掛け、引き抜きます。これを3mm間隔で繰り返しぐるぐると真ん中まで埋めます。
3・穴が埋まったらダーニングの中で縫い返して糸どめをし、先ほどと同じように裏側から糸を切ります。
ラジオを聞く……韓国ドラマを見る……友達と電話する……そんな隙間時間にサッと取り出してチクチク。このダーニングがほんとうに良いストレス解消、リラックスタイムなのです。上下、上下……と針を動かしているといつの間にか小さな織物が現れ、心の中にフワーと達成感が広がってきます。ひとつやふたつ目が飛んでしまっても大丈夫。靴下だったら、たとえちょっと失敗しても靴やスリッパの中に隠れます。
自由なダーニングの世界と、
良い物を長く愛でる楽しみ
さて靴下を2足ほどダーニングしてちょっと自信もつき楽しくなってまいりました。それではここでインスタのハッシュタグ「ダーニング」を見てみましょう(#darning、#mending、#stopfenなどの検索用語も)。
これが素敵なんですよ。お直しの可愛さあふれる、世界中のダーニング作品。
一見シンプルなダーニングには、緻密なステッチにこだわりがあったり、逆に真っ白なセーターにあえてざっくりとカラフルな糸づかいをしてあったり、民族柄が折り込まれていたり、幾度も繕った堅牢(けんろう)で迫力ある表情をしていたりと、同じ物がひとつもない個性的で自由な世界がひろがっています。
日本語で言うところの『ボロ』は、なんと『BORO』として人気ワードです。継ぎ剥ぎの質感や味わいは一朝一夕では出せないですものね。自分の大切な衣服を、感性とアイディアで自由にお手入れしている作品例を見るのはとても楽しく、私もこんな色使いで直してみようかな? とインスピレーションをもらいます。
私は、繕うという選択肢が暮らしに加わったことで、長く使える質の良い物を買おうかな? 長く付き合えたら素敵かも、と思うようになりました。穴が開いてもチクチクする楽しみが待ってるなら、お買い物の選択肢も広がります。
ハマったら手に入れたい。
ダーニング道具がかわいい!!
家にあるもので始められるダーニングには、実は専門の道具もあります。
それがこちら、ダーニングマッシュルーム。「マッシュルーム」の名の通り、きのこの形をしていて傘の部分を穴にあてがい、布の上から軸をゴムで留めます。あとは瓶と同じように針先をつるりとした木肌の上で滑らせながら繕っていきますが、ダーニングマッシュルームは持ち手があるので瓶やお茶碗よりも保定しやすいのと、あとなんといっても、可愛い。
木の種類もナラ、ウォールナット、楓、桜、木工作家さんが作っているものなどもありますから自分のお気に入りの道具を選んで揃える楽しみもあります。
おばあさんの暮らしには
常にシュトプフェン
このダーニングこと、シュトプフェンを私に教えてくれたおばあさんは、昔はどの服も修繕しながら着ていたのよ、と言います。穴の空いた家族の靴下やウールの下着はシュトプフェンで、肘や膝は布を当て、セーターは解いて毛糸に戻して綺麗に洗い、撚りを掛け、編み直していたそうです。セーターを解いて編み直す・・・それはまたすごい。
物がたくさん有る時代だから古いものはさっさと捨てて、買ってしまえばそれで済むのだけどね、こうして手を掛けることが楽しいの、とニコニコ話すおばあさんの手元はまるで全自動編み機のように猛スピードでレース模様を編んでいきます。
日本人が一枚の着物を大切に繕って着ていたように物を大切にする文化は、実は世界中のどこにでもあるのだなと学びました。
私たちのダーニングは
自分の楽しみのために
物が潤沢にある今の時代、おばあさんの若い頃のようになにもかもを繕う必要はありません。しかし使って育てる愛着や手を掛ける贅沢な時間こそ私たちが密かに求めているものなのかもしれない。セーター編み直しはさすがにハードル超高いけど……、おいもさんのククシタくらいならダーニングできるし、なんといってもこのチクチク没頭する時間に癒やされる。
次の穴は何色の糸で塞(ふさ)ごうかな。どんな糸買おうかな。
そんな小さな楽しみを見つけました。