ドイツの読み聞かせ。オーディオブック文化で子どもが本好きに!【教えて!世界の子育て~ドイツ~】
海外ではどんな子育てをしているの? 日本から離れて子育てをするママたちに、海外でのようすを教えてもらう「教えて! 世界の子育て」。
場所や文化が違うと、子育ては違うのでしょうか。日本での子育てや生活と同じこと、違うこと。各国からリアルな声を伝えてもらいます。
ドイツでふたりのお子さんを育てる中原さんが、楽しいイラストを交えて教えてくれるドイツでの子育て。今回はドイツのオーディオブック文化についてです。ドイツでの子育ての中でも日常にある読み聞かせ。さまざまなアプローチの仕方で、子どもたちは本好きになっているようです!
始まりは花粉症
夫からすすめられたオーディオブック
「読み聞かせ 残念だけど きょうも無理 かあちゃんノドが イガイガするの」
どうですか。一句読んでみました。
みなさん、風邪などで声がうまく出せない時の読み聞かせってどうしていますか? 他にも、時間がないのに子どもが絵本を読んでと子泣き爺よろしく足に抱きついてくる時、もう頭がいっぱいいっぱいな時、とにかく5分でいいから目を閉じたいのに読み聞かせをせがんでくる時、みなさんはどうしているのでしょうか?
今回はドイツの「オーディオブック文化」について書いていこうと思います。
私はドイツに来て数年後に発症した、ヨーロッパ植物アレルギーのせいで1年ほど声が出なくなってしまい苦しんでいた時期がありました。この頃に生まれた子どもに歌を歌ってやりたくても、絵本を読んであげたくても、ちょっと空気が喉を通るだけで炎症を起こしガラガラに。「おかーさん、読んでよう」「かーちゃ、ゾーさんうたってー」と、かわいい声でせがんでくる子どもたち。はー……この頃は本当に切なかったです。
たくさん日本語を浴びせたいのに、声が出ないのですから。この家で私は唯一の日本語話者ですから、私がこのまま日本語を発声する機会を減らしたままでいると子どもはドイツ語ばかり話すようになってしまいます。
それを私以上に危惧した夫が、熱心にすすめてきたのが「オーディオブック」でした。
ドイツでは「超フツー」って
何それうらやましい!
「Hörspiel(ラジオドラマ)とか Hörbuch(オーディオブック)、日本にないの? いやいや、あるでしょ。出版社にメールした? 日本のアマゾンからダウンロードとかできないの? 著名な俳優やナレーターが最高の発音で、最高の世界観で何千本も読んでいるはずだよ! スポッティファイもオーディブルも、もっと探しなよ!」 と、物凄い熱量で迫ってくる夫。
いや、だからほんとに無いんだってば。ドラマCDだったら漫画や小説ファン向けのがあるけど幼児向けはあまり見つからなかったよ、と言うと 「キミはリサーチが足りない。日本に無いなんて信じられないよ!」と夫。
そんなに盛んなの? とドイツのラジオやオーディオブックの歴史を少し調べてみたら、1920年代にベルリンのラジオで本の朗読が始まり、それがラジオドラマやオーディオブック文化のきっかけになったよう。
これを通勤時間、家事、作業中など、耳が暇な時にはBGMがわりに長編小説のオーディオブックを流し、手を動かしながらも本を楽しんでいるというわけなのです。私も洗濯物を干しながら日本語のラジオやポッドキャストを聞いていますからそれと同じようなものなのでしょう。
“退屈だけど読まなければならない学術書は4倍速”、“大好きな著者の小説は声の良い誰それが読んでるバージョンでゆっくり”、“これはミュージカル仕立て”など豊富なラインナップ。選べる幅が半端ない! いいなぁ。
言われてみれば、リンゼのお友達の家に行けば、子ども部屋にはCDプレイヤーとラジオドラマCDがずらり。蚤の市でもあらゆる年齢に向けたたくさんのオーディオブックCDがいろんな言語で販売されています。
お向かいの編み物好きのおばあさんは、本は好きだけど手は編んでいたいから絶対オーディオブック派! なのですって。なにそれうらやましい。私も編み物をしながら朗読を聴きたい!
義母ネットワークの口コミは侮れない
さあさあ、どうしましょう! リンゼには絶対的に日本語のシャワーが足りません。しかし日本語のCDで私が持っているのは何度も聞いた昔話のセットと……落語名演集くらいです。参りました。2歳になったばかりのリンゼにはさすがに落語はわかりません。ドイツ語のCDは、『夜の読み聞かせ、季節のうつろい』『ビビ、魔女の心得』『ネズミの番組』『ミツバチマーヤの冒険』『なんで歯を磨かなきゃならないの?』などなど、全部いい感じ!
もう十分に持っているのに、ご近所さんがお古をプレゼントしてくれるので増えていくばかりです。ぐわ~こんなにドイツ語ばっかり! うらやましいやら、もう要らんやら……。
私がずっと本を読んでいられるほど声が続かない……とへこんでいたところに、キャッキャと義母がやって来ました。
「ねーねー! これお友達の間で、義理の娘が喜ぶ、突っ返されないって評判なの! あなたも気に入るかと思って!」 そう言ってプレゼントされたのが『トニーボックス』でした。
トニーボックスは音源のデジタルプレーヤーです。CDのかわりにフィギュアにデータが内蔵されており、プリンセスのフィギュアはおとぎ話、宇宙飛行士のフィギュアは月と惑星の話、ネズミのフィギュアはラジオドラマなどなど、多彩な内容が提供されています。
提供元は絵本や図鑑の出版社、放送局など。まさにドイツのオーディオブック&ラジオドラマ文化の結晶!
そこになんと、自作音源用のフィギュアもあるのです! ということは、自分で録音した声の再生もできる!
これが画期的で、私の「日本語を聞かせてあげたい。自分の声で読み聞かせをしてあげたいけれど、声が続かない……」という問題が一発で解決しました。
使い方はこう。自分で読み聞かせした時のヘボい音声をスマホで録音しておいて、後日クラウドにアップしておきます。本を読みたくなった子どもが自分で本を出してきて、フィギュアをトニーに置く。すると、母の声で読み聞かせが流れるのです!
音声を録音する際に「はい、今めくって~」とひとこと入れ、子どもにめくってもらうことで、私が洗濯物を畳んでいても、その横で子どもは絵を見ながら自分でぺらっとページをめくることができます。中に入っている音声は私の声ですが、無いよりはマシ! ヘボくても日本語です。10回でも20回でも繰り返し流せるし、声がかれずに済む。なんならお茶をズズーっとすする時間ができる! ありがたや~ありがたや~! トニーボックスは私たちの暮らしにすっかり溶け込みました。
さらに嬉しいのは、CDのように子どもの取り扱いを心配する必要がない点です。ゴムとプラスチックでできた頑丈なフィギュアをポンとボックスの上に置くだけですから、割れない&飲み込まない&子どもの手になじむ、そして簡単。本体の操作は、(子どもが)右をたたくと早送り、左をたたくと巻き戻し。丈夫にもほどがあります。
義母、そして口コミを伝えてくれたお友達、ありがとう! オーディオブック文化よありがとう! と心から思います。
子どもと
お母ちゃんオーディオブック
トニーがうちに来てから3年が経ち、当時2歳だったリンゼは5歳になり、聞く内容も成長しました。最初は童謡と簡単な物語だったのが、いまでは生物の恐竜への進化と生き物の絶滅について繰り返し繰り返し聞いています。手元で絵を描きながら、レゴで遊びながらのおともにもずっと流れています。飽きないのかな? と見ていると、時折“お母ちゃんトニー(母の声が録音されたトニー)”に置き換えて日本語を聞いています。
もちろん私の手の空いたときにはどんどん読み聞かせをしますが、途中で何か面白いことを子どもが話してくれるかも? とそれらも毎回、スマートフォンで音声を録音しておき、後日流してゲラゲラ笑いながら楽しんでいます。この音声データとの連携で、子どもが本棚から本を引っ張り出す機会や、本をめくる頻度は以前よりぐっと上がりました。
私たちはこの録音を、日本に暮らす家族や離れて住む親戚にもお願いしました。スマートフォンに向かって歌ってもらったり、喋ってもらったものを、日本からクラウドにアップしてもらいます。うーん、嬉しいなぁ。
本は読めるときに読めばいいの
私は録音した音声をスマホにも持ち歩くようになりました。車で出かけた時、車内のブルートゥースに繋いで再生できるからです(自分の声がスピーカーから出てくるのは拷問ですが)。
静かにしなければならない出先で子どもが「おかーさーん、本読んで―」と言い出した時など、ヘッドホンを子どもに装着してスマートフォンを繋ぎ、絵本を渡して、静かに読み聞かせを楽しませることができるからです。コロナ禍の今はもちろん、インフルエンザの季節など病院の待合室ではなるべく息を殺していたいもの。みんなマスク着用ですし、音読もできないですものね。
こうして文章を書きながら、私の母が必ず本を読んでいてくれたことを思い出しました。父に本を持っていくと、題名を読み上げて「はい読んだー」と言って寝てしまい(ちびまるこちゃんのヒロシのようにごろーんと)、妹はそれに憤慨して泣き、後から家事を終えて寝室に来た母が長いお話も最後まで、二度でも三度でも読んでくれていました。
母も眠かったことでしょう。でも当時はそんなことを露ほども思わず、読み聞かせをせがんでいましたし、読み聞かせは保護者が常にしなければならないものなのだ、して当然なのだと思っていました。母のようにしなければと、私は無理に声を出し続けていました。
ところがです。ドイツ人の義母曰く「オーディオブックでも流しとけばいいじゃない。本は読めるときに読めばいいの、自分がゆっくりする時間だって大事よ♪」と言うのです。夫は「まあ親も読んでくれてたけど、オーディオブックも同じくらいよく聞いたよ」と言います。
周りを見ると、子どもとの付き合い方のスタンスとして、「子どもたちを個人として尊重する分、親もひとりの人間だから、私のことも尊重して欲しいの」という線引きを感じます。ひとりの時間やゆっくり自分の本を読む時間を、大人も持ちたいのは当然です。
ドイツも日本と同じように親と子どものみで暮らす核家族が多いですから、親に掛かるストレスの軽減できるところはどんどん削っていこうという、使える新しい機器はどんどん使っていこう、という考えなのでしょう。
このコロナ禍の自粛の間、プロの朗読を子どもたちとよく聴いていました。
『ごんぎつね』や、『キャラメルと飴玉』など、年齢的にも言葉使い的にも、すこし難しいかなと思うような内容でしたが、それでも子どもたちは聞き入って、「いじわるだねー」「この人の声かわいいねー」「目に刺さった光がまむちいまむちいのねー」などたくさんの感想をくれました。プロの音読は、大人が聴いてもやはり美しく、聴けば聴くほど声の表現が深いのです。
子どもを膝にのせて、本のページをめくり、絵本を指差して小さなディテールを楽しむ。これは読みかせをする上で最高の贅沢です。いっぽうで、洗濯物を干してる間に、トイレに行ってる間に、包丁を使っている間に……オーディオブックなどを使って子ども自身で読んでもらえたら……私は助かるのです!
日本のオーディオブック文化が花開いてくれたら、海外に住む私たちもとてもありがたいなー。そして子どもの開く本を、もっと鮮やかに彩ってくれたらいいなーと思っています。
中原さん
結婚を機に夫の故郷ドイツに来て9年目。趣味はレストラン巡り、庭いじり、手芸などなど。掃除と片付けも趣味になったらいいのになあ……といつも思っています。5歳と3歳の娘たちがいます。#中原ドイツ子育て Instagram @s_vn