2歳でデビュー!?ドイツで自転車に乗れるようになるまで【教えて!世界の子育て~ドイツ~】
海外ではどんな子育てをしているの? 日本から離れて子育てをするママたちに、海外でのようすを教えてもらう「教えて! 世界の子育て」。
場所や文化が違うと、子育ては違うのでしょうか。日本での子育てや生活と同じことや違うこと、各国からリアルな声を伝えてもらいます。
ドイツで子育てをする中原さんは、5歳のリンゼちゃんと3歳のおいもちゃんのママ。以前の記事で、ドイツでは自転車をメインの移動手段にしている人が多く、コロナ禍でもスーパーや薬局と同じように自転車屋が生活必需品を扱う店として営業されていることを伝えてくれました。今回はそんなドイツでの、子どもの自転車事情について教えてくれます。
早すぎない!?
ドイツの自転車デビュー
「2歳になったことだし、そろそろリンゼは自転車に乗る練習をせねばならん。」長女リンゼが2歳になった頃、ドイツ人の義父が重々しく宣言しました。……おお? 何かの聞き違いかな? リンゼは2歳、まだ自分の足で走るのもよたよた、大きなおむつが可愛いお年頃。自転車なんてはるか未来の話です。
そもそも1歳になったばかりの頃に蹴って進むタイプの三輪車をプレゼントしてもらったばかり。ところがそこに夫が「そうだね、そろそろ始めなきゃね。」と同意したのです。
なんということでしょう。2歳。ドイツでは自転車にのることを2歳にして始めねばならないのか……? ちょいと早すぎやしないか! と驚きました。
皆さんは何歳から自転車の練習を始めましたか? 私自身は、小学校1年生の時に補助輪のついた自転車を買ってもらったのが最初でした。まっすぐ走るまではあっという間だったけれど、補助輪が外れるまではずいぶん時間がかかったなぁ。まず走り出しにひとりでバランスとるのが怖いんだ。初めて補助輪を外す時も怖かったし、リンゼも外したら泣くだろうなぁ。とにかくまずはペダルをこぐことを覚えなきゃな。
……などと想像していたら、なんと義父が買ってきたものにはペダルがないではありませんか! なんじゃこりゃ。
またがると両足が地面に着きます。前に進むには自分でバランス取って足で地面を蹴らないと進みません。そして止まると左右にぐらぐらするから足をつけなければ倒れてしまいます。そして足で止まるだけだと前後が安定しませんからブレーキをかける動作も自然と身に付く。おお、うまく出来ているな!
これはLaufrad(ラウフラッド)と呼ばれているもので、ペダル付き自転車に乗る前のステップアップ用の自転車なのだそう。“ケリケリ”っと自分で蹴る動作が足の運動になる上に、バランス感覚も身につき、成長して踏ん張ったり蹴ったりする力がつかないとスピードは出ませんから安全。えー! 知らなかった。……と、調べてみたら日本にもバランスバイクとしてあるんですね。すごいなぁ。色んなものがあるんだなぁ。
子どもが保育園に通うようになり、三輪車やこのペダルなし自転車に乗って通ってくる子が結構いるんだと分かってきました。みんな一生懸命な後ろ姿が可愛らしい。保育園への道のりを三輪車やバランスバイクに乗って、地面をケリケリ通っています。これらがバランスを取ったりブレーキを使ったりする練習です。信号は止まるんだよ、ここは歩行者道路だよ、車道や自転車レーンには出てはだめよ、など基本的な交通ルールも、毎日のくりかえしで身につけていきます。
そして季節の変わり目には、じゃじゃーん! さっそうと普通の自転車をこいで登園です。ははぁ、なるほど。こうして補助輪は使わずにペダル付き自転車にステップアップしていくのね。
それでも全ての子どもたちがケリケリ通えるとは限りません。相手は手強き2、3歳児です。3メートルまでは乗るけれど、あとはお母さんの抱っこでなきゃ嫌だと言い出したり(子どもと自転車を抱えて帰ることになる)、スピードは一丁前に出すけど信号で止まることがわからなかったり、家庭によってはケリケリ帰るには距離がある、時間をかけて歩いていられないなど。それぞれ事情は違いますよね。
ドイツの道路は、車道と歩道以外にも自転車レーン、自転車専用道路などがあります。自転車は、基本的には自転車レーンか車道を走行しなければならず、大人はそこをスピードを出してビュンビュン走っています。
そこにいきなり自転車デビューしたての幼児がヨロヨロと走り始めたら危ないですよね。
でも大丈夫。子どもたちは10歳までは歩道を自転車で走ることが許されているので大人のペースで走行できるようになるまでは、ゆっくり練習していくことが出来ます。デビュー後、歩道や自転車レーンで練習している小さな子どもたちに、自転車に乗ったお兄さんお姉さんは優しいです。「がんばれ!」「前見て! こいでこいで!」など温かく声をかけてくれることがありますから、嬉しくなってより一層がんばれるのです。
コロナ期間に自転車デビューした
リンゼ5歳とおいも3歳
さて、2歳のとき、義父からバランスバイクをプレゼントされたリンゼはというと、順調に楽しくバランスバイクで練習を重ねました。
そして3歳で普通の自転車を贈られ、いざまたがるも……これが難しい。「さあ乗れ。こげ。」「乗れて当然、さあ見せてみよ。」と義父はプレッシャーをかけてきます。リンゼはペダルという存在を知らずに来ましたから、謎の機能が怖くて乗りたくなくなってしまいました。そうだよね、当然怖いよね、お母さんなんて初めて乗ったの小学生だもん。いいよいいよ、何年かかってもいいよ、乗りたくなるまで待とう。と、自転車を物置きにしまい込み、バランスバイクに逆戻りしました。
ところが思ったよりも早く、ふたたび自転車にまたがる日はやって来ました。リンゼと同じ組の子どもたちが次々と自分でペダルをこいで通園してくるようになったのです。まぁー、みんな誇らしげ。「見て見て、乗れるよ!」「私も乗れるの!」と大自慢です。
こうなるとしめたもの。当然リンゼも乗りたくてたまりません。“ケリケリ”ではなく“ペダルくるくる”を自分でやりたくなってくれたのです。これは好機と、しまってあった自転車を引っ張り出し、ペダルくるくるの練習を始めました。今度はもうプレッシャーをかけず、リンゼの乗りたいときにゆっくりと。
今年の3月から6月にかけては、このコロナ自粛のあまりある時間を使い、私たちはたくさん自転車で遊びました。時間はたっぷりありますし、まだまだ寒い春先でモコモコたくさん着込んでいるため、石畳ですべって転んでも、“つるバラ”の茂みに突っ込んでもケガはしません。自粛中なので車も少なく怖いものなしです。ヘルメットをかぶり、どんどん転べとガンガン乗りました。
こうしてリンゼが自転車を完璧に乗りこなせるようになると、なんとそれに張り合った次女おいもさんも瞬く間に乗れるようになりました。えっ、あなたまだ3歳ですよね……。義父もあながち間違っていなかったということ? いやいや、これはリンゼが頑張ってる時のポジティブなやる気とパワーがおいもさんを引っ張り上げたに違いない。
何かを達成した時の子どもたちの姿は、いつだって純粋な喜びに満ちていて、心がぎゅっとなります。親がいくら盛り上げてもこうはいきません。子どもの影響し合う力って凄いと思った出来事でした。
6月にコロナのロックダウンが段階的にとかれ、街のアイクスリーム屋さんが1日に3時間だけ営業再開するとなったある日、私たちは全員で自転車に乗って出かけました。
ずっと家にこもっていたから、街を走れることに子どもたちは大喜び。アイスもずっと長いこと食べることができませんでしたからなおさらです。親はもちろん細心の注意を払って併走。たった数百メートルでしたが、胸がいっぱいになった特別な自転車のお出かけでした。
中原さん
結婚を機に夫の故郷ドイツに来て9年目。趣味はレストラン巡り、庭いじり、手芸などなど。掃除と片付けも趣味になったらいいのになあ……といつも思っています。5歳と3歳の娘たちがいます。#中原ドイツ子育て Instagram @s_vn