
俳優・柄本時生さんインタビュー「両親は忙しかったけど全然寂しくなかった。家族が60人いたようなものだから」
独特の存在感を放つ、俳優の柄本時生さん。出演者が全員男性(オールメール)という異色の設定の舞台『泣くロミオと怒るジュリエット2025』でジュリエット役を演じる柄本さんに、本作への意気込みはもちろん、子ども時代の思い出、唯一好きだったという絵本について話を伺いました。
えもとときお/俳優。1989年東京都生まれ。2003年、映画Jam Films S『すべり台』のオーディションに合格し、主役デビュー。映画『俺たちに明日はないッス』に出演した2008年には、第2回松本CINEMAセレクト・アワード最優秀俳優賞を受賞した。近年の出演作品は、映画『PERFECT DAYS』『ippo』やドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』『錦糸町パラダイス〜渋谷から一本〜』『忍びの家 House of Ninja』など。
Instagram : @emototokio1989

衣装協力/ Y’s for men(問い合わせ先/ヨウジヤマモト プレスルーム 03-5463-1500)
学校から劇場に帰り、
裸足で過ごした幼少期
――柄本さんは、幼少期はどんなお子さんでしたか? 今も続いている、幼少期からの習慣やクセなどはありますか。
僕、稽古場ではずっと裸足なんです。小さい頃は、学校からまっすぐ親父(俳優・柄本明さん)らが拠点にしている下北沢の本多劇場に帰って裸足で過ごしていたから、今もそれが一番落ち着くんですよ。でも、ケガをすることもあるので本作の演出である鄭義信(チョンウィシン)さんにも「頼むから靴だけは履いてくれ」って言われました。それが最初のダメ出しでしたね(笑)。落ち着けるために、今もやっぱり裸足で稽古はしちゃってますけど。子どもにとって、劇場はでっかい迷路みたいで楽しかったです。
――柄本さんが幼い頃から、ご両親は役者として活躍されていました。当時はその環境をどう感じていましたか。
僕は超恵まれていたと思ってます。家に親はいないことが多かったけれど、遊んでくれる劇団員のお兄ちゃんやお姉ちゃんがいっぱいいたんですよね。家族が60人いるみたいな感覚でした。親父と母ちゃんに相手してもらった記憶は少ないけれど、寂しいと感じたことはなかったですね。
それに、親父が劇団のリーダーだからといって甘やかされるわけでは決してなく、人に迷惑をかけたらいけないということも教えてくれたのは劇団員の人たちでした。親父とずっと一緒にやってくれていた方が、とにかく怖かったんですよ(笑)。アマチュアレスリング日本一、しかもオリンピック候補だったという人で。僕が劇場で悪さしたら、「柄本さんに迷惑かけたらしいな」って僕のところにやってくる。礼儀みたいなものは、彼らから教わりました。
唯一読んでいた絵本は
『ぼくはゆうしゃだぞ』
――幼少期に好きだった絵本を教えてください。
『ぼくはゆうしゃだぞ』(さとうまきこ/作 原ゆたか/絵 あかね書房・版元品切れ)です。実は、この絵本しか読んだことがないんですよ。家ではなぜか『ぼくはゆうしゃだぞ』一択(笑)。テレビゲームが大好きな主人公が、ゲームの中の勇者と入れ替わり勇者になっていく話なんですけど、当時テレビゲームが好きで強い勇者に憧れていたので、ファンタジーの世界に没入していったんだと思います。
ちなみに我が家は、家族全員テレビドラマを観ない家でした。名作と言われるドラマをほぼ知らないし、役者として出ている作品もあるのに朝ドラも観たことがないんです。家族が昔からそうだったから、僕も今自分が出ている作品を観ない。観られない、の感覚の方が近いのかもしれないですけど。特別な理由がなくても、小さい頃から続いていることって意外と大人になっても染み付いているのかもしれないですね。
懸命に演じる以外の方法を
模索してみたい
――コロナの影響で全公演を完走しきれなかった初演から5年が経ちました。再びオファーが来たときはどんな気持ちでしたか。
また同じ仲間と芝居ができる楽しみはありつつも、あの熱量と精神の注ぎ方を思い返して一瞬足踏みしたのは覚えています。演出家の鄭さんには、つねに「このシーンにはこの芝居」という明確な答えが存在しているので、着地点がずれないように大事に進めるのは大変な作業だった記憶があって。絶対に諦めないし、とてもしつこい(笑)。でも、正解をどんどん提示して創作を進める鄭さんの元で、芝居づくりの幅は広がっていったと思います。
――5年という時間の経過が、ジュリエット役に与える影響はありますか。
そうですね、なんとなく広がるような気はしています。演じ方はこれから模索したいのですが、自分の中では「疲れない」ことを裏テーマにしたいと思っていて。疲れないやり方を見つける、という意味なんですけど。5年前はジュリエット役を演じるために、とにかく懸命に演じるという方法論しか持っていませんでしたが、もし今回別の方法を見つけられたら役にもきっといい影響があるんじゃないかと思います。
――本作は、「世界一不器用なロミオとジュリエット」と評されています。柄本さんご自身は器用なタイプですか?
手先は不器用ですけど、人付き合いはそんなことはないと自分では思います。30代になって、人との距離のつくり方を僕なりに決めているからかもしれません。たとえば同じ作品に出演する役者には、その期間中は踏み込みすぎない。セリフを言いづらい関係性にはならないようにしたいからです。10代、20代に知り合えた仲間は純粋に友達ですけど、30代になってできた「役者仲間」という特殊な関係も悪くないなと思います。
INFORMATION
Bunkamura Production 2025
『泣くロミオと怒るジュリエット2025』
『焼肉ドラゴン』や舞台『パラサイト』をはじめ、数々の話題作を手がける劇作家・演出家の鄭義信が、2020年にシアターコクーン初進出作として書き下ろした作品で、2025年度版として再演が決定。シェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』を、物語の舞台を関西の戦後の港町に、そしてオールメール、オール関西弁という異彩を放つ設定で翻案。きっと今作も、笑いと涙で観客の心を鷲掴みにするに違いない。
公演日程
2025年7月6日(日)~28日(月)
会場
THEATER MILANO-Za (東急歌舞伎町タワー6階)
東京都新宿区歌舞伎町1-29-1 東急歌舞伎町タワー6階
ほか大阪公演あり。
詳しくはこちら bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/25_romeo_juliet/
インタビュー/藤井そのこ 撮影/相馬ミナ スタイリング/矢野恵美子 ヘアメイク/稲月聖菜(マービィ)
