2024年12月1日

夢眠書店店主・元でんぱ組.inc 夢眠ねむさんロングインタビュー。なんでも「ラクしよう」って思ったけれど、手を抜きたくないこともあったんです【後編】

アイドルグループ・でんぱ組.incのメンバーとして活躍したのち、現在は東京・下北沢で夢眠書店を営む夢眠ねむさん。小さな子ども連れでも気軽に訪れることができるお店のコンセプトは「本好きのための書店ではなく、これからの本好きを育てる書店」。夢眠さん自身も0歳の男の子のママとして子育てをするうちに、ある大切なことに気づいたそうです。kodomoe webでは、本誌の貴重なインタビューを全編公開。後編は、家事や育児、ご主人のバカリズムさんとの役割分担についてなどおうかがいしました。

前編「両親という味方がいるから自分はきっと大丈夫」はこちらから

ゆめみねむ/三重県生まれ。多摩美術大学卒業。2009年よりでんぱ組.incのメンバーとしてアイドル活動をスタート。美術家、映像監督などとしても活躍。2019年1月にグループを卒業後、同年7月に完全予約制の書店「夢眠書店」を東京・下北沢にオープン。「たぬきゅんフレンズ」のキャラクタープロデュース、出版社「夢眠舎」も展開している。

yumemibooks.com

夢眠書店店主・元でんぱ組.inc 夢眠ねむさんロングインタビュー。なんでも「ラクしよう」って思ったけれど、手を抜きたくないこともあったんです【後編】の画像1

自分に子どもが生まれて
寄り添うことができるように

――夢眠書店には、親子一緒にいらっしゃるお客さまが多いのでしょうか。

女性おひとりの方も多いんですよ。子育て中の方だけではなく、独身の方もいらっしゃいますし。私が出産してからは息子と同じ月齢ぐらいのお子さんと一緒に来ていただくことも増えてきました。

このお店の構想段階からあったのは、子ども連れでも余計な「ごめんなさい」を言わなくてもいい本屋。子どもを連れた姉や友人と出かけたとき、「子どもが泣いて迷惑をかけてしまうかも」「段差があってベビーカーは入れなくて」とか、いろいろなポイントを気にかけて生活しなきゃいけないんだなあっていうのを感じていて。

うちのお店は子どもが泣いてもオッケーだし、ほかのお客さまも気にしません。出産や育児のデリケートな話も気兼ねなくできるように、パパのみと独身の男性はお断りさせてもらっているんです。

――安心して過ごせますね。

その場にたまたま居合わせたお客さまたちとママ友みたいな感じになることもよくあるんですよ。「離乳食、食べていますか?」「いや~、食べなくて」「このベビーチェアにしたら食べるようになりましたよ」「買う買う! どこのメーカー?」なんて情報交換したり(笑)。私もいろいろ教えてもらえてありがたいんですけれど、お客さまから「話せてよかったです」と、言っていただくことがあって。それで、不定期で「その場限りのママ友会」というイベントを始めました。

――「その場限り」というのがいいですね。ときにはママ友とのお付き合いに迷ってしまうこともあると思いますし。

この会は0歳さん限定、1歳さん限定といったように、年齢ごとに区切っているんです。特にこれぐらいの年齢って、誕生日が半年違うだけで発達やできることがだいぶ違いますよね。同じ年齢のお子さんのいるママさんたちが「こんなことで悩んでいて」「うちもそうだった! こうするといいよ」とか、気兼ねなくやりとりできたらいいなと思っていて。

――ママにしかわからない不安や悩みはたくさんありますよね。思いをシェアできるだけでも気持ちが軽くなりそうです。

夢眠書店は自分が結婚する前に作ったお店ですが、開店準備のとき、小さい子どものいる姉や友人に「おむつ替え台と授乳室はあったほうがいい」「洗面所には子どもが手を洗うときの踏み台があると便利」とか、いろいろと教えてもらって、設備を作ることはできたんです。だけど、子育て中のママの気持ちを理解できていたかといえば、正直、足りていなかったかもしれません。例えば、段差のあるところでベビーカーの移動をする大変さとか、ミルクを作るお湯は用意していたけれど、さんざんぐずっているときにミルクが冷めるまで待つ焦りとか、共感まではできていなかったと思います。

でも、今は「お店のそばに着いたらお電話ください、ベビーカーを持ち上げるのを手伝います!」「私がミルクを作っておくので、お母さんはあやしてくださいね~」とか、自然と言えるようになって。私自身が出産して、育児への解像度が上がって。以前は「やさしくする」という感じだったけれど、ようやく「寄り添う」ができるようになったかなという気がしているんです。

出産前から続く習慣は
大切な家族のひととき

――普段の家事や育児について、ご主人のバカリズムさんとの役割分担はありますか?

今はちょうど夫がすごく忙しい時期なので、ワンオペのときも多いんですが、家に帰ってきた夫が息子と会えて「はわぁ~」って(笑)、目が線になっちゃいながらニコニコしている様子を見るだけでわりと満足してしまうんです。

夫が仕事に行くとき、「本当は息子とずっと一緒にいたくて仕方ないのに、自分は仕事に行かなければならないのです」みたいに、申し訳なさそうに何度もこちらを振り返りながら出かけていくんです。夫が息子のお世話をしたいけれどできていないと思っていることはひしひしと伝わってくるので、正直、ワンオペが続いてもあまり気にならないですね。これが「全部まかせるよ」というムードだったら、さすがに私も「はあ?」って思うんじゃないかな(笑)。

――ワンオペは大変かもしれないけれど、パパはパパで複雑な思いを抱えていて。

夫としてはワンオペさせたくないみたいで、泊まりがけの仕事はお断りしようとすることもあったんです。でも、私はけっこうのん気な性格だし、夫が忙しいことに変わりはないのだから「行ってくればいいじゃん! なんなら一緒に連れて行ってほしい!」みたいな感じなんです。

早く帰った日などは、夫が息子をお風呂に入れてくれることもあります。内心、ついつい「私がやったほうが早い……」って思ってしまうんですが、それは本人も自覚しているみたいで、誰に言うでもなく「お母さんのほうが早くて上手だよね、お父さんでごめんね」と。「ええっ、そんなことないよ!?」って、全力でとぼけてすべてをおまかせしています(笑)。

――「自分もお世話ができる!」と、嬉しく感じているのかもしれませんね。

振り返ってみると、夫は忙しくても息子が生まれる前からいつも気にかけてくれていたなあって思います。妊娠中にできた習慣があるんですが、私が電車で帰るとき、時間が合えば夫は必ず駅まで迎えに来てくれて。家まで歩きながら、なんとなくその日にどんなことがあったかをお互いに話すんです。この習慣は今も続いているんですが、息子が夫のことを見てふにゃって笑ったら「俺のことを父親だと思って笑ってくれたのかな」とか。本当に他愛のない話ばかりしているんですけれど、私はすごく好きなひとときなんです。

――家族の時間ですね。

息子を寝かしつけたあと、ベビーモニターを見ながらリビングで夫とお茶しながら話したりすることもあるんです。「小さいとき、夜中に目が覚めたら大人だけで映画を観ていた。『ああ、起きたんか』とか言われて、親が食べていたお菓子をちょっともらって食べて、また寝たりして。親って、こういう時間を楽しんでいたんだな」と、夫が話してくれたことがあったんです。自分たちも親になったんだって、しみじみしました。

「ラクしたほうがいいよ」は
人にもよるのかもしれない

夢眠書店店主・元でんぱ組.inc 夢眠ねむさんロングインタビュー。なんでも「ラクしよう」って思ったけれど、手を抜きたくないこともあったんです【後編】の画像2

――夢眠さんにとって、初めての子育てですが。

私、子どもが生まれてから気づいたことがあったんです。出産前から「子育てはできるだけラクしたほうがいいよ」みたいなことをよく聞いていて。実際にそれで気持ちが軽くなったママたちもたくさんいると思うんですけれど、実は私、「ラクしなくては!」って意気込みすぎて、逆にしんどくなった時期がありました。

――ラクすることがしんどい。

なんというか、「頑張らないこと」を頑張りすぎたんですよね。「ちょっとくらい時間を取られてもいいから、これだけは頑張らせてほしい」と思ったことがあって。

それを感じたのは、食にまつわることでした。「ベビーフードとか、どんどん使ってもいいんだよ」「フリーズドライの離乳食は便利だよ」って教えてもらって、いざ買って味見をしてみたら「自分で作ったほうがおいしいかもな」って思ったことがあったんです。料理が苦手だったり、仕事が忙しかったりして、ベビーフードが救世主のママも絶対にいるので、否定しているわけでないんです、ただ単に私が食べることや料理が好きだからというだけなので。

私にとっての子育てや家事のストレスって、手間や時間がかかることじゃなく、自分が心からおいしいと思えるものを子どもにあげられないことなんだなって、そのときに初めて気づいたんです。

自分が出産する前はお店に来るママたちに「全部ラクしちゃいなよ~」なんて言っていたけれど、「そうか、手抜きしたくないこともあるんだな」と。こんなふうに感じるなんて、自分でも意外だったんですけれど。

――その視点はありませんでした。

例えば、私はお掃除が苦手なので「ラクしていいよ」って言われたら、お掃除を誰かにおまかせしちゃって、その時間を使って自分で子どものごはんを作ることができたら、すごく幸せなんですよ。たとえ残されても「あーあ、こんなにおいしいのにな~」なんてブツブツ言いながら、自分で全部食べちゃうし(笑)。

ママがラクできたり、上手に手抜きするための情報はたくさんあって、それに助けてもらうことも絶対にある。だけど、なんでもかんでもラクできればいいというわけじゃないのかもしれない、と。子どもが小さいうちはどうしても時間に追われてしまいやすいし、効率良くできたほうがいいこともあるけれど、それだけにとらわれなくてもいいんじゃないかな、と思うようにもなりました。

できないことや苦手なことはラクすればいいし、絶対に譲れないことだけは守り抜く、という感じでしょうか。得意なことがあるならじゃんじゃんやっていったほうがいいって思うんです。

――夢眠さんにとってのお料理のように、子育てをしているからこそ大切にしていきたいことが、きっとそれぞれにありますよね。「自分はこれが得意だった、好きだった」と、振り返ってみるのもいいかもしれません。

私とは逆に片づけが得意なママなら、ベビーフードを活用して掃除するとか。家事のことじゃなくてもいいと思うんです、「昔から本がむちゃくちゃ好きだから、たくさん絵本を読み聞かせするぞ!」なんていうのも素敵ですよね。

私の場合は食なんですけれど、「自分はおいしいごはんを子どもに作ることができている」って実感できたし、そのことが母親としての自信にもちょっとずつつながっていったんです。特に子育て中って、どうしても自分らしさがなくなりがちな時期かもしれないと感じていて。だからこそ、ママ自身が大切にしてきたことは、どんどんやっていってほしいなって思います。

INFORMATION

夢眠書店店主・元でんぱ組.inc 夢眠ねむさんロングインタビュー。なんでも「ラクしよう」って思ったけれど、手を抜きたくないこともあったんです【後編】の画像3

『夢眠書店の絵本棚』
夢眠ねむ/著 ソウ・スウィート・パブリッシング 2530円

独自のカテゴリ別におすすめ絵本100冊を紹介。毎日、絵本に触れているからこそ分かる作品の魅力を伝える。柴田ケイコ、はらぺこめがねなど絵本作家との対談も収録。

夢眠書店店主・元でんぱ組.inc 夢眠ねむさんロングインタビュー。なんでも「ラクしよう」って思ったけれど、手を抜きたくないこともあったんです【後編】の画像4

『夢眠書店』
yumemibooks.com

「夢眠書店とは本好きのための書店、ではなくこれからの本好きを育てる書店です」。親子連れが気兼ねなく楽しめる、ホッとできる空間を運営。来店は予約制。

インタビュー/菅原淳子 撮影/大森忠明 ヘアメイク/光野ひとみ(kodomoe2024年10月号掲載)

シェア
ツイート
ブックマーク
トピックス

ページトップへ