夢眠書店店主・元でんぱ組.inc 夢眠ねむさんロングインタビュー。両親という味方がいるから自分はきっと大丈夫【最新号からちょっと見せ】
アイドルグループ・でんぱ組.incのメンバーとして活躍したのち、現在は東京・下北沢で夢眠書店を営む夢眠ねむさん。小さな子ども連れでも気軽に訪れることができるお店のコンセプトは「本好きのための書店ではなく、これからの本好きを育てる書店」。夢眠さん自身も0歳の男の子のママとして子育てをするうちに、ある大切なことに気づいたそうです。kodomoe10月号での貴重なインタビューから、kodomoe webでは一部をご紹介します。
ゆめみねむ/三重県生まれ。多摩美術大学卒業。2009年よりでんぱ組.incのメンバーとしてアイドル活動をスタート。美術家、映像監督などとしても活躍。2019年1月にグループを卒業後、同年7月に完全予約制の書店「夢眠書店」を東京・下北沢にオープン。「たぬきゅんフレンズ」のキャラクタープロデュース、出版社「夢眠舎」も展開している。
yumemibooks.com両親という味方がいるから
自分はきっと大丈夫
2019年にお笑い芸人のバカリズムさんと結婚し、2023年10月には待望の第一子となる男の子を出産した夢眠ねむさん。このインタビューの当日は、息子さんと一緒に取材場所に来てくれました。すやすやと眠る息子さんを抱っこしながら、お話を聞かせてくれました。
――夢眠さんは、どんなふうに育ったのでしょう。
数年前に母が突然「私、子育ての本を書こうかな。子育てが上手だった気がする」と言っていたんです。母から見て、姉も私もちゃんと大人になって、自分自身の力で生きている感じがして、「子育て成功!」って思ったみたいなんですけれど(笑)。
――お母さまご自身がそんなふうに思えるなんて素敵ですね。子ども時代について、覚えていることはありますか?
なんとなく、ずっと両親に愛されているなという感覚はありましたね。それを自覚できていたことは、自分の人生でも幸せなことの一つなんです。「愛しているよ」とか「好き」とか、言葉にして言われたことはないんですが、でも、常に実感できていて。
――それはどんなときに感じていたのでしょう。
どういうときだろう? 覚えているのは、中学高校と、三重から大阪の学校に通っていたんです。毎日、家から少し離れた駅まで母に車で送り迎えしてもらっていました。車中ではいつも「学校でこんなことがあった」「友達とケンカした」とか、なんでも話していて。そうした会話の中で「あなたがもしも悪者になっても、お父さんとお母さんはずっと味方だからね」ということをいつも言ってくれていたんです。そのときは言葉にならなかったけれど、すごく心強かったですね。
上京してひとり暮らしを始めてからもホームシックになったことはないんですが、それはきっと心のどこかで「世の中に最低でもふたりは味方がいるから、自分は大丈夫」みたいな安心感があったからなのかもしれません。「さみしい」という感情もよくわからないんですよ、友達に「さみしいって、どんな感じ?」って聞くほどで。自分なりにひもといていくと、絶対的な味方がいるから、さみしさを感じたことがないのかなって思います。
――お父さまはどんな方ですか?
母がすごくおしゃべりなので、比べると父は静かに感じます。放任というわけではないですが、家族がやりたいことはわりとなんでもやらせてくれるほうでした。
母の教育方針で、お芝居に連れて行ってもらったり、本もいつでも好きなものを買ってもらえたりしていて。さすがになんでもかんでもというわけではないんですよ。ゲーム機だとか、大物のおもちゃを買ってもらうのは誕生日やクリスマスのときだけとか、ルールはありました。でも、両親にはいろいろな経験をさせてもらったなと思います。
自分の親ながらいまだにすごいなと思っているのが、絵画を買ってくれたこと。小学校の低学年の頃、私、地元の画廊でどうしても欲しい絵に出会っちゃったんです。ヒロ・ヤマガタさんの作品だったんですけれど、駄々っ子みたいに、欲しくて絵の前で泣いて動かないということがあって。そうしたら、困った両親が会議をして、結果買ってくれたんです。
――ずいぶん思い切った判断です。
本当にそうですよね、高価なものだったと思いますし。それに、子どもになんでも手に入るって思わせるようなことをしちゃ教育的にはダメですよね(笑)。当時、私は絵を描くことがすごく好きだったので「これほどまでに欲しがるのなら、将来、何かにつながるかもしれない」っていう思いが両親にあったのかもしれません。これがきっかけでヒロさんに会うこともできたんですよ。ヒロさんが出るイベントでお花を渡す係をやらせてもらって。話したことも覚えています、「図工が好きなの?」「はいっ!」みたいな、ほほえましい感じなんですけれど(笑)。
ただ、このときに憧れていた人に会えたことや話せたことって、私のターニングポイントになっているんです。「自分はいろんな人に憧れたりしているけれど、いつかは私も憧れられるぐらいの人になりたい」って、ここから思うようになって。
――まさに、夢眠さんのその後につながる出来事ですね。
そのときはアイドルになろうなんて思っていなかったんですけどね。漫画家になりたいときもあったし、小学生の頃は、当時、CMプランナーだった佐藤雅彦さんが好きだったから「大きな広告代理店に入って、テレビコマーシャルを作る人になりたい」って思っていました。それからも「広告デザイナーがいいかな」とか、いろいろと目標は変わっていったんですが、絵を描くことやものづくりはずっと好きで、高校を卒業してから美術大学に進みました。
――子どもの頃から創作や表現にも興味があったのでしょうか?
そうですね。物心がついたときから絵を描いていたんですが、描いた絵を見せると父と母が喜んでくれて。私はそれがすごく嬉しかったんです。 小学生になってから、架空のおじいちゃんとおばあちゃんを題材にした日めくりカレンダーを作ったことがあったんです。おじいちゃんとおばあちゃんの絵を描いて、自分で考えた名言みたいなものを筆ペンで添えるという、今思い返してみてもかなり渋いもので(笑)。実家が魚屋なんですけれど、母が印刷してお店に来るお客さんに配ったんです。
――「お母さん出版社」ですね。
そうですね、これが人生初の作品出版で(笑)。「作品を形にして届けるって、いいな」「自分が描いたものが誰かに喜んでもらえるんだ」って感じられる経験をいち早くさせてもらった感じですね。
自分の好きな文化を
盛り上げていきたいから
――でんぱ組.incのメンバーとして活動されていました。アイドルという道を選んだきっかけは?
高校生の頃、美大受験で上京したときに一日だけ遊びに行ける日があったんです。それで、当時流行っていた秋葉原のメイド喫茶に行って。メイドさんのアイドルユニットのライブがあったのですが、ファンの方でお店の中はぎゅうぎゅうで。見たくてそわそわしていたら、こちらに気づいてくれて、ざーっと開けて前に行かせてくれたんですよ、モーセみたいに道ができて(笑)。アイドルのファンって、ちょっと怖いなって思っていたんですが「なんて優しいんだろう!」って思いました。そのとき、アイドルそのものというよりも、オタクの方も含めてアイドル文化に興味を持ったんです。
その後、無事に合格して晴れて大学生になって。私がいた学科はパフォーマンスアートの勉強もあったのですが、「これを表現してみましょう」なんて言われたことを表現して誰が楽しいのかなあって、ちょっとスレていた時期があったんです。それで、楽しくなるパフォーマンスってなんだろうって考えたときに、メイド喫茶のことを思い出して、大学をサボって行ってみたんです。
接客してもらって「何これ!? すごい!」って、圧倒されました。自己満足の表現じゃなくて、自分の目の前にいる人を笑顔にしたり、説明がなくてもお店に入った瞬間に自分が「お嬢さま」で店員さんが「メイド」だと分かる、ロールプレイがアートの表現としても成立していて、すごく感動したんです。ここで表現の勉強をしてみたいなあと思って、メイドさんになりました。
その後、ステージがある秋葉原の別のお店でアルバイトをしているときに、社長に「アイドルにならない?」と誘ってもらって。オーディションを受けて。学生時代の思い出づくりに始めてみたところ、これが結局10年続きました。
――アイドルを卒業して、夢眠書店を開店されました。
自分が好きな文化やその周辺にいる人を盛り上げたいという意味では、共通しているんです。それが自分の表現方法という感じもしていて。本屋さんをやろうと思ったのは、私にとって本は幼い頃から娯楽で、本屋さんが減りつつある今、本がなくならないように本好きを増やしたかったから。お店の規模は小さいけれど、それでも自分にできることは何かを考えたとき、新しい読者を作ることかなと思ったんです。
本屋さんには
楽しいことが待っているから
――夢眠さんご自身は、どんな本を読んで育ったのでしょうか。
家にはかなりたくさんの本がありました。本棚だけという部屋もあったぐらいで。小さい頃はもちろん絵本、大きくなってからはベストセラー本を読んだり、母が持っていた本を借りて読んだり。
――きっとお母さまが読書家だったのですね。
それが、母が本を読んでるところを見たことがないんです(笑)。元々は文学少女で、結婚して、家のことで忙しくなって読まなくなったんだと勝手に思っていたんですけれど、そうではなくて。姉や私が好きそうな本を買い集めてくれていたそうなんです。
ただ、母は本屋さんという場所自体がすごく好きだったそうなんです。お嫁に来て、若くして姉を出産して、家業も忙しくて、煮詰まりそうになったときでも本屋さんだけは楽しく過ごせたって言っていました。母にとって、気分転換できる場所だったのでしょうね。母に「本屋に行こうか?」って誘われて、連れて行ってもらって、私自身もそれが待ち遠しくて。高校生になって初めてしたアルバイトはいつも母と通っていた書店だったし、今、夢眠書店をやっていることも「本屋さんは楽しい場所」という原体験があるからなのかもしれません。
本屋が減っている理由はいろいろあると思うけれど、「本屋さんには楽しいことがある」と思っている子どもが少ないからなのかなとも思っていて。それもあって、親子一緒に気軽に行ける本屋さんを作りたかったんです。
――本はネットで簡単に買えてしまいますし。
ネットで買えることは絶対に便利ですし、メリットもたくさんあるんですけれど、店頭でたまたま見つけた一冊が人生を変えることもあると思っていて。うちのお店でも、子どもが「絶対にこれが欲しい!」と言って親御さんとバトルを繰り広げているところをよく見かけるんです。ママは「頭が良くなる」みたいな本を読ませたいけれど、子どもはすでに何冊も持っているような車の本が欲しい。それで私、「どうしてそれがいいのか、理由を伝えてみたら?」って、子どもにこっそりささやいてけしかけたり、「まあまあ、意見を聞きましょう」と仲裁役を買って出たり(笑)。そうすると「いつも読んでいるのは働く車が載っているけれど、この本には電車も描いてある」とか、自分なりの思いを頑張って伝えていて。
パパと小学生のお子さんがいらっしゃったときには、お子さんが読んでいる本を見て「絵本じゃなくて、もうこんなに長い文章が読めるんだ!」「え、小学校で読んでるけど?」みたいなやりとりがあって。なんというか、本屋は子どもの成長を感じられる場でもあるんだなあと感じています。
――本を巡るさまざまなドラマが。
「自分で選んだ本が面白かった」という経験は、すごく小さい出来事に感じられるかもしれないけれど、こうした経験を積み重ねていけば、大きくなったときに物事も自分の力で選べる人になれるんじゃないかと思っていて。私自身がそれを本屋さんで身につけてきたって感じているんです。
たとえ「自分が好きな感じじゃなかったな」といったネガティブな感想だって、がっかりしつつも「どこが苦手だったのかな?」「表紙と出だしはよかったけれど、こういう展開だったらもっと面白かったのに」と、自分なりに考えたりして。こうした試行錯誤って、何も本に限らず、好きなことを見つけるときの基礎体力にもなるんじゃないかと思っています。
――子ども自身で選べることは普段の生活でそう多くはありません。
外食でも「あの店がおいしいよ」とか、子どもから提案できることってありませんし(笑)、だいたい大人が決めちゃいますよね。でも、絵本なら小さな子どもでも自分で選べますし。
――ちなみに、最近、息子さんが気に入っている絵本は?
『りんごりらっぱんつ』(Donchi/作 tone tone books)です。しりとり絵本なので、少し早いかなと思ったんですが、そんなこともなくて。読み聞かせるとご機嫌になるんです。楽しさや心地よさを感じているのかもしれませんね。
――息子さんと一緒にお店にいることもあるのですか?
もう少し大きくなったら保育園に通わせようと思っているんですけれど、今のところは一緒に出勤することがほとんど。うちの自慢の看板息子なんですよ(笑)。
kodomoe10月号後半へ続く
INFORMATION
『夢眠書店の絵本棚』
夢眠ねむ/著 ソウ・スウィート・パブリッシング 2530円
独自のカテゴリ別におすすめ絵本100冊を紹介。毎日、絵本に触れているからこそ分かる作品の魅力を伝える。柴田ケイコ、はらぺこめがねなど絵本作家との対談も収録。
『夢眠書店』
yumemibooks.com
「夢眠書店とは本好きのための書店、ではなくこれからの本好きを育てる書店です」。親子連れが気兼ねなく楽しめる、ホッとできる空間を運営。来店は予約制。
インタビュー/菅原淳子 撮影/大森忠明 ヘアメイク/光野ひとみ(kodomoe2024年10月号掲載)