2023年7月3日

絵本作家・あきやまかぜさぶろうさんと神奈川大学・杉山崇先生に、新しい赤ちゃん絵本の話を聞きました。

「1日10分でちずをおぼえる絵本」シリーズなど多くのヒット作を持つ、あきやまかぜさぶろうさんが赤ちゃん絵本(ファーストブック)に挑戦しました。タイトルは『ぞう ころころ』と『ちょう にっこり』の2冊、好評発売中です。対象年齢は生後6か月~。乱暴に扱っても壊れにくいボードブック(全ページビニールコートされた厚紙の絵本)仕様、本の大きさは17.7センチ角です。
発刊を記念して、あきやまさんと、監修を担当された神奈川大学教授・杉山崇先生のおふたりに、絵本の生まれた経緯、狙い、込めた想いなどをうかがいます。

Profile

あきやまかぜさぶろう
画家・作家。1948年長崎県生まれ。日本美術家連盟会員。児童絵画指導の体験から生まれた「1日10分でえがじょうずにかけるほん」シリーズ(講談社)が累計165万部突破。『1日10分でちずをおぼえる絵本 改訂版』『小学生版1日10分 日本地図をおぼえる本』『1日10分 なるほど国旗のお話絵本』(すべて白泉社)のシリーズも子どもが本当に地理をおぼえると口コミで累計35万部突破。最新刊として『ぞう ころころ』『ちょう にっこり』と、「ちずをおぼえる絵本」シリーズ新刊『1日10分で日本一をおぼえる絵本』を上梓した。小学館グループと協力し幼児絵画教室「コドモエアトリエ」を全国展開中。

杉山崇/すぎやまたかし
心理学者・臨床心理士。神奈川大学人間科学部・同大学院教授。
同大学心理相談センター所長。子育て支援、障害児教育、犯罪者矯正などさまざまな心理系の職域を経験。心理学と脳科学を融合した次世代型の心理療法を目指す。2児の父親として子育てにも取り組む。著書に『心理学者・脳科学者が子育てでしていること、していないこと』(主婦の友社)、『「どうせうまくいかない」が「なんだかうまくいきそう」に変わる本』(永岡書店)『人は迷いをどう解きほぐせるか』(さくら舎)など多数。

0歳からの絵本 『ぞう ころころ』(白泉社) 税込1,100円

絵本の詳細はこちら

0歳からの絵本『ちょう にっこり』(白泉社) 税込1,100円

絵本の詳細はこちら

赤ちゃんの研究から絵本が生まれる

ーーあきやまさんの今回の赤ちゃん絵本ですが、かなり前から企画を考えていらっしゃいましたね。

あきやま ええ、実は白泉社さんから話をもらう2年ほど前から幾何学っぽい絵を使ったファーストブックを考えていました。それで某大学の「赤ちゃん学」講座に参加し、赤ちゃんの発達について話を聞いたりしていました。
杉山 今、研究が盛んな分野ですね。脳の活動の測定機器が進歩して、赤ちゃんが何を見て喜ぶか、何を目で追いかけるかなどがわかるようになりましたから。赤ちゃんが月齢ごとに色や形を認識できる過程もだいぶ把握できるようになっています。
あきやま 月齢3か月〜6か月で基本的な色や人の笑顔がわかるようになるとか。私もそういう話を聞いて今回、絵本を作る基礎にしました。内容も赤ちゃんの発達に合わせて、1冊ずつ「うごき」「いろ」とテーマを立てました。
杉山 ほかにもなにか、講座で気づかれたことはありましたか?
あきやま 私はもともと画家ですから、赤ちゃんが好きなものと現代アートがつながっていて、おもしろいなと感じました。ジャスパー・ジョーンズは円を重ねた「的(まと)の絵」を描いていますし、市松模様ばかり描いている画家もいます。
杉山 たしかに赤ちゃんは市松模様が好きなんですよね。
あきやま それで私も自信を持ったといいますか、現代美術的な要素も赤ちゃんの絵本に入れていこうと、考えるようになりました。まず私が好きなように絵を描いて、息子(アキヤマヒカルさん)にそれに合う擬音のテキストを考えてもらいました。そして私の理解に間違いがないか、杉山先生に監修をお願いした次第です。

『ぞう ころころ』より

ーーなるほど。杉山先生は今回の絵本を見てどんなご感想をお持ちになりましたか。

杉山 まず絵本の仕事は楽しかったです。ずっとPDFで拝見してましたが、やはり紙の本だと迫力があるし、手触りも大切だなと感じました。研究者はデータを取ることは得意なのですが、それを役に立つコンテンツに落とし込むのは得意ではないんですよね。ですから、あきやまさんのようにアイデアのある方がその部分を担当してくださったのは、とてもよかったと思います。
そういえばつい先日、ある模様が脳に与える効果について新しい研究が発表されました。なかなかおもしろい研究でこのあたりは新しい絵本に取り入れていけると思います。
あきやま それはやってみたいですね。

ファーストブックの役目

ーー杉山先生の「ファーストブックの役目はこの世界がよいものだと教えること」という言葉はとても印象に残りました。それについてもう少し説明していただけますか?

杉山 月齢5か月を過ぎるころになると「この世界はいいものだろうか?」という疑問を赤ちゃんが持つようになります。いろいろな心配が生まれ、たとえばいつも自分の世話をしてくれる親がいなくなると、不安で泣いたりします。お腹が空くこととも結びつきますが、大きく言えばやはり自分の命の危険を感じ、訴えるわけです。だから赤ちゃんはその不安を解消してくれるものとして、かなり早くから人の顔、特に笑顔が認識できるようになります。その延長として、絵本の中に笑顔を見つければ赤ちゃんは「この世界は安心できる、いいところだ」と感じるのです。
あきやま 笑顔は敵意がないので、赤ちゃんも安心するんですね。
杉山 立場を変えればわかると思いますが、赤ちゃんもこの見知らぬ世界で安心して過ごせるよう、すごく頑張っているんだと思います。笑顔は伝染すると言いますが、実は赤ちゃんは親が思う以上に親の表情を真似するんです。これがコミュニケーション能力獲得の第一歩になります。言い換えるなら生きる力の獲得です。赤ちゃんはすごいです。
絵本の読み聞かせというのはこのコミュニケーション力を育てるのにとても有効だと思います。

脳への刺激とネットワーク

ーー素朴な疑問なのですが、赤ちゃんの脳への刺激は、与えれば与えるほどいいものなんでしょうか?

杉山 大きく言えばそうだと思います。いろいろな刺激を与えて悪いことはひとつもありません。ただ気をつけたいのはバランスです。脳細胞というのは非常に新陳代謝が激しく、ある分野に刺激を与え続けるとその部分が活性化する代わりに、使わない部分がどんどん縮小していくという現象が起きます。
だから親としてはいろいろな刺激を与えて脳を育てるように意識することも大切です。絵本は色や形や動き、言葉、触感、音感などさまざまな刺激を脳に与えられます。本当に工夫次第でなんでも教えられるのがすばらしいですね。
あきやま なるほど。もっといろいろな分野に刺激を与えられる絵本が作りたいですね。
杉山 ぜひ、作ってください。

『ちょう にっこり』より

あきやま 私からも質問です。まだ言葉がわからない子にも 絵本の読み聞かせをすると脳の刺激になりますか? 言葉を理解できるのはまだ先だと思いますが。
杉山 はい。赤ちゃんは単純な刺激の繰り返しが好きですし、安心もします。最初は意味がわからなくても、絵本の絵と言葉、読み手の声や表情などの組み合わせに反応をするようになります。自分でも目で絵を追いかけたり、手で触れようとしたり、声を出そうとしたり。これは脳にネットワークができるからで、脳の成長にとって非常に大事です。脳は「直線」で成長するのではなく、あちこちに刺激を与え合いながら「面」で育つものです。
ネットワークが育てば1歳以降、言葉の習得にもつながりますし、2歳になる頃には、それぞれの好みができてきます。

ーーファーストブックからもっと高度な絵本にステップアップする時期ですね。

赤ちゃん絵本の可能性

ーー今回の『ちょう にっこり』のテーマは「0さいからたのしむ『いろ』」で、同じくだものや、いきものの色を変化させているのですが、0歳児におもしろさは伝わりますか?

杉山 生後半年〜1年でこまかい色の違いがわかるようになります。指差しながら、色を確認していくと良い刺激になると思います。余談ですが、この本の中では花も虫もみんな笑っていますが、実はカメレオンだけ笑っていません。案外子どもの注意をひく、いい仕掛けだと思いました。

『ちょう にっこり』より

ーー「ぞう ころころ」のテーマは「0さいからたのしむ『うごき』」です。ニコニコ笑うボールがコロコロ転がる姿を、あきやまさんにいろいろ描いてもらったのですが、楽しさは伝わるでしょうか? 意外に類書にない試みだと思うのですが。

『ぞう ころころ』より

杉山 視線の動きなどから、赤ちゃんは、絵で、ものが動こうとする先を見ることがわかっています。つまりその絵の意味を理解していると思います。だとすれば非常にいい脳への刺激になるでしょう。
あきやま それはよかったです。いろいろコロコロさせた甲斐がありました。

ーーほかにも絵本が赤ちゃんの脳に与える効果というのはありますか?

杉山 ちょっと言葉は難しいのですが、赤ちゃんの脳の成長段階として「対象恒常性の獲得」というものがあります。 先ほどの話で、ふだんそばにいる人、たとえばお母さんが、部屋から出て見えなくなると赤ちゃんは大泣きします。この世界からお母さんが消えたからです。しかしすぐ部屋に戻ってくる。赤ちゃんは安心します。これを繰り返すうちにお母さんは消えたのではなく別の場所にいることを理解します。これが「対象恒常性の獲得」です。自分以外の人格を認めるのですから、これは大きな成長です。
絵本を読むことで、自分のまわりだけではなく、広く外に世界が広がっていると感じるようになる……転がるボールには大きな可能性があると思います。

あきやま 今日はいろいろ参考になるお話を伺えました。ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
杉山 私も絵本の仕事、楽しみにしています。どうぞよろしくお願いします。

インタビュー/ペーパーチェイス

シェア
ツイート
ブックマーク
トピックス

ページトップへ