2022年12月23日

毎日同じメニューでもいい。 私が目指すのは「丁寧」でなく「心地よい」暮らし。「タベコト」連載中・日登美さんインタビュー【前編】

「台所から子育て、暮らしを豊かに」をコンセプトに、モデルとしてベルリンで暮らす日登美さんのkodomoe連載が始まってそろそろ1年半。日登美さんの、食への向き合い方や子育てへの考え方には毎回大きな反響が。家事も子育ても完ぺきにこなすなんて無理!……と思い悩む読者のみなさんに、読んでいただきたいヒントがいっぱいです。人気の連載記事について、ドイツでの暮らしについて、日登美さんにインタビューしました。

日登美/ひとみ

3男3女6児の母。10代よりファッションモデルとして雑誌、広告等で活躍。その後自身の子育てから学んだ、シュタイナー教育、マクロビオティック、ヨガなどを取り入れた自然な暮らしと子育てを提案した書籍、レシピ本など多数出版。現在はモデルとして活躍する傍ら、オーガニック、ナチュラル、ヘルシーをモットーに、食、暮らしと子育てのワークショップ、オンライン講座などを行う。

台所から子育て、暮らしを豊かに。「Mitte(ミッテ)
instagram / @hitomihigashi_b
音声プラットホームvoicyで「日登美のイロイロ子育てラジオ」発信開始!

「ごめんね、また同じもので」なんて言わなくていい

――日登美さんの連載記事では、丁寧な食や肩ひじ張らない子育てに反響が多くあります。特に連載7回目の「3食ご飯作って、おやつも手作り!? そんな日本のお母さんを見たら、ドイツ人は気絶するかも」という記事は多くの方に読まれました。
<記事>/serial/tabekoto/46355/

ドイツ人からしたら、お弁当の中身を毎日変えるなんて「なぜ?」と驚かれます。大事なことは、栄養が摂れていること。おやつはドライフルーツとナッツのミックス、幼稚園のおやつも、野菜を切っただけのもの。これが当たり前です。私も日に1食は温かいものを食べて、その残り物を夜食べることが多いですね。ドイツはほぼ共働きなので、そうじゃないと回っていかないっていうのもあると思います。ドイツ人に「手抜き」という感覚はなくて、むしろ、日本人は文化的に繊細でパーフェクトを目指しがちなので、食に対しての意識が高すぎるんじゃないかなと思うんですよ。

――確かに日本のお母さんは、残り物を出すと子どもにも「また同じおかず?」と言われて、罪悪感を感じる方が多いですよね。

そんなふうに育てちゃダメ!  残り物は、むしろ食べ物が無駄にならないからいいんです。「同じメニューではよくない」のがスタンダード、という意識を育てているのは、結局親ですよね。「ごめんね、また同じもので」なんて言わなくていいの。「今日もご飯と納豆で、おいしいよね!」それでいいんですよ。 

日本の食が豊かなのは素晴らしいことだけれど、それはレストランで勝手にやってくれればいいんです。日本では、「手抜き」という概念がある時点で、母親に一程度の「期待」があるということです。ドイツはフェミニズム(女性に対する差別や不平等の解消を主張する考え方)が強いので、「人の期待になんぞ応えない、私がすべて!」と思える土台があると感じます。それはある程度取り入れてもいいところじゃないかなと思います。

 家事をみんなで分担する土台を作って

――お父さんもおじいちゃんも子どももご飯を作るのが当たり前、という記事にも、驚かれた方が多かったと思います。
<記事>/serial/tabekoto/52116/

おじいちゃんがランチを担当、というのもごく当たり前の風景。気に入ったレシピはファイルしてあるとか。

それが当たり前になるように、ぜひ家族をしつけていきましょう(笑)。それは嫌な仕事を押し付けるということではなくて、小さい頃から一緒に楽しく料理していくということです。私は男の子が生まれても「あなたが自分でやるのよ」と教えています。そういう体験をしておくと、大きくなって親が仕事をしても、自分でやるのが当たり前になります。

「料理は女がやるもんだ」とか「母親が掃除や洗濯するもんだ」というマインドに育たないように、小さい頃から声かけをしていく方が楽ですよ。「ご飯作れなくてごめんね」なんて言っちゃダメ。「今日はご飯が作ってあってラッキー!」と思わせるぐらいの気持ちでいきましょう(笑)。

 ルールを決めるのはあんまり意味がない

――お子さんが6人いるとそれぞれ考え方も違うと思いますが、子育てで工夫されていることはありますか?

それぞれの子どもの個性を理解するよう意識はしていますね。子どもたちがある程度大きくなったら、家庭の仕事はその子のペースを見ながら分担しています。お手伝いをやりたがる子は早くからやらせてあげるし、やりたくない子もある程度大きくなったら「みんなやってるから、あなたもどれか手伝ってほしいんだよね」と言いますね。

 子どもによって得意不得意があるから、全員平等に仕事を振り分けてはいないです。「私がこれだけやってるのに、弟は……」と思ってしまうと、相手に対して「やるべき」という期待も生まれてしまうでしょう。「できない仕事を無理やりやらせて、おいしくないご飯をみんなで食べるよりも、この人には洗濯をやってもらって、あなたが料理した方がいいんじゃない?」と言うと、子どもも結局それが気持ちいいということに気づきます。だから、ルールを決めるってあんまり意味がないんですよね。

 共働き夫婦も同じで、「私も働いてるんだから、あなたも家事をやってよ」という気持ちはもちろん湧きます。でも結局、旦那さんに任せてもうまくいかないことが多くて、こっちがイライラしてしまう。必ず同じことを2人が半分ずつやるというのが幸せとは限らないです。フレキシブルにやると、お互いが一番ベストな形で協力し合えるというのもあるので、その辺は少しアバウトでもいいんじゃないかなと考えています。

 ジャンクフードを食べる子どもも肯定する

――連載13回目で、「脱・丁寧な暮らし、目指せ心地よい暮らし!」と書かれた記事は意外でした。調味料までも手作りされる日登美さんは、「丁寧な暮らし」を実践しているイメージですが……。
<記事>/serial/tabekoto/48851/

丁寧な暮らしありきの自分ではないんです。うちの子どもたちからしたら、きっと全然丁寧じゃない。私が味噌を手作りするのは、おいしいから、好きだから。余裕がないときはやらないし、好きだから無理して頑張るときもあります。それを周りは「丁寧」って言ってくれるけれど、全部やるのは大変。自分が何をやりたいかというポイントだけおさえて、別の部分は手離しでいいわ、と思うことです。

クッキーを焼いたり、保存食をつくったりは日登美さんにとって「丁寧」だからではなく、好きだから。そして家事をラクにしたいから。

――連載18回目の記事にあった、思春期のお子さんに「オーガニックなんか好きじゃない」「ジャンクフード食べたい」と否定されたときはショックではありませんでしたか?
 <記事>/serial/tabekoto/51014/

そうですね。思春期になって、おばあちゃんのご飯の方がおいしいと言い出したときは、正直「え!?」って思いました。私がこんなにやってるのに、なんでそれに「うん」って言わなくなったんだろう、何か私が間違えたのかなと思いました。でもそのとき、すごく考えたんですよね。「子どもが求めるもの」って一体なんだろう、そもそも「自分がいいと思っていること」って何だろうって。私がいいと思ってやってることがすべてじゃないから、子どもの声を聞くことも大事だなと考え直しました。

そこから、子どもが変なラーメンを買ってきて食べたり、バーガーを食べてきたりするのを見ても、認められるようになりました。ジャンクなものっていうのは、社会を知るうえで食べなきゃいけないものなんじゃないですかね。でもそれで体調を崩したりするので「ほらね。梅醤番茶飲んどく?」って言うと、すんなり聞きますよ(笑)。親にやらされるというのが、この時期一番ダメなんです。反対しても、結局隠れてやるんだから、目の前でやってくれた方がいいです。「やり過ぎない方がいいよ」と言える環境を作っておく方が大事です。

移転直前の『クレヨンハウス』(表参道)にて。(現在は吉祥寺で新店舗を営業中)

子どもだって、いくらお母さんの方が正しかったとしても、お母さんに全否定されるのは嬉しくないじゃないですか。そうすると結局は「正しいこと」として入ってきません。後で気づくんですけどね。その前に肩を並べて、理解し合っていくというスタンスがないと、お互いがただ苦しくなっていくだけ。いろんなところで亀裂を生む前に、認め合うことが大切なのではと思っています。

(後編へ続く)

インタビュー/日下淳子 撮影/花田梢 協力/クレヨンハウス

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