女優・青木さやかさんロングインタビュー。母との関係を修復したことは 今まで生きてきた中で、 一番やってよかったことです【前編】
著書『母』(中央公論新社)では母への複雑な思いを綴り、注目を集める青木さやかさん。kodomoe2022年4月号では、今振り返る母親との関係、11歳になる娘さんの子育てで大切にしていること、青木さん流の人との付き合い方についてじっくりお話を伺いました。kodomoe webでは貴重なロングインタビューを全編公開。インタビューの前編をご紹介します。
ロングインタビュー後編はこちら。
あおきさやか/1973年愛知県生まれ。大学卒業後、フリーアナウンサーを経てタレントの道へ。「どこ見てんのよ!」のネタで大ブレイク。現在も、バラエティ番組やドラマ、舞台などで幅広く活躍している。動物愛護活動にも力を入れており、YouTubeチャンネル「犬と猫とわたし達の人生の楽しみ方」も好評。2010年に長女を出産。
売れても心は満たされない
母とのことを見直すように
2021年に発売された著書『母』では、長年抱いてきた母への嫌悪感や確執、関係を修復しようと悩み行動する様子などを綴り、大きな反響を呼んだ青木さやかさん。実親との葛藤を描いたkodomoe web発のコミックエッセイ『実家に帰りたくありません』(イタコ/作 コドモエCOMICS)では、推薦コメントももらいました。
――過干渉な実親と決別するまでの葛藤を描いた『実家に帰りたくありません』には、共感する部分もあったそうですね。
誰でも共感するところはあるだろうなと思いながら読みました。悲劇のような喜劇のような、どこにでもある話のような感じもする。蓋をしていたことを開くかのようにいろいろなことを思い出しましたし、読んでいて苦しいなとも思いました。
――印象に残っているシーンはありますか?
実家に帰ったときの、母親の何気ない一言ですよね。こちらは、なんてデリカシーのないこと言うんだろうと落ち込むけれど、向こうはそんなこと思ってもいないという。私も同じように思ったなぁ、と昔のことがよみがえりました。
――『実家に帰りたくありません』は、ラストも気になりますよね。これからどうなるのか、まだ続きがあるような……。
この作品は、まだ最終形ではないけれども、主人公が何らかの解決をしようと思って、行動したところで終わっていましたよね。この先どうなっていったのか気になります。私もいろいろなことを試してきたな、と思い返しました。読んでいてすごく感じたのは、実家のこと、母のことを嫌いなわけじゃないんです。どうにか解決がしたくて、ぶつかってみたり離れてみたり……。私は上京したときに実家と母と物理的に距離を置いたのですが、離れたら楽になるのかなと思ったら、私はならなかったんですね。一部楽になったところもあるのかなと思いますけど、根本的な解決にはならなかったなと今振り返ってみて思います。
――今回もぜひ、お母さんとのお話を聞かせてください。子ども時代の青木さんにとって、お母さんはどんな存在でしたか?
私にとっての母は絶対的な存在で、子どもってある程度そういう部分はあると思うのですが、いい意味でも悪い意味でも洗脳に近いのかなと思います。母による価値観の押し付けを疑うこともなく、学級委員をやったりキャプテンをやったりと、比較的優等生だったと思います。勉強もそれなりにできましたが、そのすべてにおいて母に褒めてもらったことはありません。でも、うちの場合は、きちんと育ててもらったとは思っています。今考えると、習いごともたくさんさせてもらっていたし。やりなさいと言われることもあったけど、やりたいと言った習いごとに関してもすべてやらせてもらいました。お箸の持ち方とか、挨拶するとか、外ではこうしなさいとかいうことも、厳しく教えられましたね。
――それらは、今プラスになっていることもありそうですね。
はい、例えば、私はずっと習字をやっていたんですけど、「字がうまいですね」と言ってもらえるのは習わせてもらったからだと思います。テレビに出てお箸を使うときに、恥ずかしくないぐらいにはお箸が持てることもそう。私もきちんとしているわけではないですけど、こういうことって急にはできませんよ。やっぱり親の長年の教育でしかない。それは感謝です。
――他にも、お母さんとのいい思い出はありますか?
いい思い出、そうですねぇ、いい思い出……。一般的にいい思い出だとするならば、父、母、私、弟の家族4人で毎年、車に乗って温泉旅行に行ってたんですね。周りから見たらよく見える思い出かなと。
――ちなみに、青木さんとお父さん、弟さんとの関係は?
もしドラマにするなら、ふたりは完全に脇役でしょうね(笑)。嫌いとか好きとかではなくて、こういう人なんだ、とすごく客観的に見られるというか。やっぱり、私にとっては母の存在の方が断然大きかったですね。
――お母さんに対しての葛藤、どうにも埋まらない気持ちに気付いたのはいつ頃ですか?
子どもの頃はそれが当たり前だと思っていますからね。苦しい苦しいと思って生活していたわけではないんです。嫌悪感を持ったのは、高校生で親が離婚をしたとき。世間体を気にする母に真面目に生きることを求められてきたのに、母自身が否定していた離婚をあっさりしてしまうんだと。あとは、大人になって振り返ってみて、だんだんと気付きました。友達と話す中で何らかの比較が生まれると、この人と比べて私はつらい、とわかっていくのかなと。友達と比べて私は自己肯定感が低いのかな、母との関係に何かあるのかな、と紐解いていった感じですね。
決定的だったのは、たくさんテレビに出てお金を稼いだときかもしれません。売れてお金を稼ぐことができれば何かが埋まると思っていたけれど、何も埋まらなかった。違うんだ、ここに答えがあるわけじゃないんだ、と感じた辺りからかなと思います。そして、子どもができれば親を好きになれるかも、この気持ちは変わるかもしれないと思ったけど、違った。母が娘を抱っこしたときに「私の大事なものに触らないで」と思ったんです。これは母への思いを認識する、すごく大きな出来事でした。
自分が生きやすくなるために
親孝行をしてみた
――2019年に亡くなられたお母さんとは、最終的にいいお別れができたそうですね。どのように関係を修復していったのですか?
2014年に父が亡くなったのですが、あるとき、父と子育てについて口論になり、数か月連絡を取らずにいたら、次に会ったときには、もう意識のない状態でベッドにいました。なんとなく、揉めたまま亡くなってしまったような感じになり、それが後悔として残っていたんです。また、母が悪性リンパ腫を患い、もう抗がん剤治療をしたくないとホスピスに入ったときに、私が動物愛護活動を一緒にしている武司(たけし)さんという方から「どんな親でも親は親なんだ。親孝行をするのは道理なんだ。親と仲直りすると自分が楽になれる」と言ってもらって、不思議とできる気がしてきました。それでホスピスに通って、母のところに会いに行くようになりました。
行く前は、ものすごく気が重くて憂鬱なんですよ。毎回、“今日は母の手をさする”とか“楽しく雑談をする”などと目標を決めるんです。考えてみたら、私はこれまでに親に旅行をプレゼントしたり、時折お金を渡したこともあった。でもそうじゃなくて、“いい空気感の中で他愛もない話をする”という時間を母には渡してあげられてなくて。それが親孝行のゴールだったなと、私は思っているんですけどね。
――長年、苦しんだ自分の思いに向き合うのは、すごくつらい作業だったと思います。
そうですね、避けていたものに真正面からぶつかるというのは結構大変なことで。しかも年数が経ちすぎていますから。なんとなく一緒にいる時間はあったけれども、ずっと避けてきた人に向き合うのは、私が今まで生きてきた48年ぐらいの中で、一番大変な出来事だったなと思いますね。仕事だったらやらなきゃしょうがないかとかありますけど、自分のために、どうなるかもわからないけど、ただただやってみよう、という感じでした。
目を背けて、蓋をしていく道もあったと思いますが、私の周りで母親との関係がよくなかった先輩や友達は、親が亡くなってからも許せない、と言うんですよ。最初は亡くなったらすっきりしたと言っていても、やっぱり許せない。どんどん母親に近づいていく自分が嫌だ、なんて言う人もいて。私もこうなるなと思いましたし、こういった周りの人たちの声はすごくありがたくて、ひとつの行動のきっかけになったと思います。
――お母さんとの仲を修復したこと、行動に移したことは、率直に、やってよかったと思いますか?
間違いなく、今まで生きてきた中で、一番やってよかったと思っています。誤解しないでほしいのは、親が亡くなるから親のために、なんて気持ちは私には少しもなかったんです。親のために、なんて思えるなら、最初から親を嫌うような人間じゃなかったと思いますから。自分のこれからの人生を楽にしたいからやってみた、という感じです。そのおかげか、以前よりも生きづらさを感じることはなくなりました。これは100%そうだと実感します。
――kodomoe読者でも母親との付き合い方に悩む人は多いです。状況はそれぞれ違うかと思いますが、関係性をよくするためにできることはありますか?
私が今思うのは、母親の言うとおりにしてあげればいいんじゃないかなと思います。すごく理想論みたいに聞こえるかもしれないんですけど、相手の言うことを受け入れたときに初めて、自分の思いや意見が通ると思うんです。それしかないと思っていて。自分ができなかったから言うんですけどね。これは、親との間だけじゃなく、すべての人間関係において同じかなと思っています。
あと、感情に振り回されずにまずは行動すること。私は、もともとはすごく感情優位の人間で、今でも、主観と客観が自分の中でぶつかるときがあります。すごく主観的だし、自分の感情で苦しくなる人間なんです。でも、ただただ難しいな、嫌だなと思う時間は無駄なので、まずは行動してみようと思いました。母のところに向かうときも、自分の心はともかく置いておいて、にこやかに元気に母のところに行ってみようと。これでどんどんと変わっていったんですね。私にとってこれは大きな経験で、すごく学びになっています。
INFORMATION
『母』
青木さやか/著
中央公論新社 1540円
長年にわたる母との確執。わだかまりを残したまま逃げるように上京するも、バイトは続かず、タバコとパチンコに溺れた日々。母の最期に向き合うことで、生きづらい自分自身の人生を見直し、修復する軌跡を綴った一冊。
『厄介なオンナ』
青木さやか/著
大和書房 1650円
大学受験も就職試験もオーディションも落ちて、離婚もして、パニックにもなって、病気もして。それでも、わたしはわたしでよかったと思っています。「厄介なオンナ」が前向きに生きていこうとするまでを描くエッセイ集。
インタビュー/野々山 幸 撮影/馬場わかな スタイリング/高村純子 ヘアメイク/高城裕子 衣装協力/KEI Hayama PLUS(kodomoe2022年4月号掲載)
帯には青木さやかさんの推薦コメント。
描きおろし10ページを加えて、待望の書籍化!
kodomoe webの人気連載「実家に帰りたくありません」が書籍になりました。巻頭カラー6ページと、その後のエピソード4ページの描きおろしを追加。その後のイタコさんが描かれています! 帯コメントは青木さやかさん。
『実家に帰りたくありません』A5版 ソフトカバー 本文128p 990円(税込み)
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