今泉忠明さんロングインタビュー。進化がすべてじゃない「ざんねんないきもの」が生きている世界が大事なんです
動物学者として数々の研究に従事するかたわら、生き物たちの身近な一面をわかりやすく紹介する、大人気シリーズ『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)の監修者としてもお馴染みの今泉忠明さん。kodomoe2020年10月号では、生き物たちに囲まれて暮らした幼少時代や自身のユニークな子育て方法をお伺いしました。kodomoe webでは、その一部をご紹介します!
いまいずみただあき/1944年東京都生まれ。東京水産大学(現・東京海洋大学)卒業後、国立科学博物館の特別研究生として哺乳類の生態調査に参加。以降、文部省(現・文部科学省)の国際生物学事業計画調査など数々の研究調査に参加。日本動物科学研究所所長、伊豆高原ねこの博物館館長。『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)、『講談社の動く図鑑 MOVE』(講談社)、『ねこのずかん』(白泉社)など、監修、著書多数。
家の中は生き物だらけ
毎日が夏休みの少年時代
父は動物学者の今泉吉典、兄も動物学者、自身はもちろん、息子も動物学者。生粋の動物研究一家の一員であり、70代後半となった現在もフィールドワークに出かけ、研究を続けている今泉忠明さん。進化の仕組みを面白く、そしてわかりやすく伝える「ざんねんないきもの事典」シリーズなどの監修者として大活躍している。
第二次世界大戦終戦の前年に東京・阿佐ヶ谷に生まれ、毎日近所の友達と田んぼや川で遊んだ少年時代、家の中はいつも捕まえてきた生き物でいっぱいだったとか。
――その頃おうちでは、どんな生き物を飼っていたんですか?
カタツムリでも魚でも、ザリガニもカエルも何でも、みんな捕まえてきて、飼ってました。ザリガニはあんまり手間がかかるんで、家に井戸があったので井戸の中に投げて、毎日観察してたんですよ。ときどき餌をあげたりして。そうするとね、下の方で動いている赤いのが見えるんですよ。「お、まだ元気だ」って(笑)。
――お父様が動物学者ですが、お母様も動物に詳しかったとか?
いやぁ、全然そんなことはなかったです。母親は何も知らないですね、動物のことは。母には叱られたことがなくて、どうしろこうしろと言われたことはゼロでした。でもひとつだけ、「毛虫だけはポケットに入れないで。洗濯するときに大変なんだから」って。子どものポケットには石が入ってたりしますけど、毛虫が普通に入っててびっくりしたんでしょうね。それ以外は、「勉強しろ」も何も一切言わない。
――その黙って見守る姿勢が、好きなことを究める後押しになったところもあるんでしょうか。
でしょうね。好きなことを好きにやらせる、それが大事かなあと僕も思ってるんですけどね。子どもが4人いたから、おふくろは大変だったろうなとは思いますけどね。僕もやんちゃだったしね(笑)。
父親は普段は仕事や原稿、論文書きで忙しいから、平日はあまり一緒に遊べなかったけれど、休みの日に高尾山とか御嶽山に行ったり、まれに江ノ島に泳ぎに行ったり。そういうのをたまにやってくれたかな。僕は自分でもあちこち遊びに行っちゃう。多摩川とか井の頭公園とかに、近所の同じ年齢の友達とね、泳ぎに行ったりザリガニ獲りに行ったりとか。当時の僕は毎日が日曜日だったから(笑)。学校も、遊ぶところだとばっかり思ってたんです。幼稚園も行ってなかったから、僕は学校っていうのが楽しくてね、毎日遊びに行ってたんですよ。そしたら怒られてねえ、先生に(笑)。いたずらばっかりして。で、3年生になって急にわかったんですよ。「あっ、勉強するところだ!」って。父親も母親も、勉強に関しては何にも言わなかったから。
自然の中で何かを見つける
それが今でもずっと楽しい
小学校の中学年くらいから、父の研究用の動物採集を手伝うようになった忠明少年。4歳上の兄と一緒に、毎週末、山の中でネズミやモグラ、昆虫や植物を採集することが何よりも楽しく、青年になっても変わらずに調査助手を続け、動物研究の道に進んでいく。
――お父様の手伝いをしているうちに同じ動物研究の仕事に、それは自然な流れで?
はい。自然でしたね。楽しかったんですよ。兄と一緒に、高尾山とかにノネズミやモグラを採集に行くんです。山の中で、ひとり50個くらい罠をしかけて、次の日また回収に行く、それが楽しかったんですね。「今度はもっと珍しいのを捕まえよう」とか、それでヘビでも何でも捕まえるようになってきて。で、家に持って帰って、ヘビは飼ったり、逃げられたり(笑)。楽しかったその延長で、生物系の仕事に進みたいなと思ったんですね。
――「楽しい」「知りたい」という気持ちが、70年近く前のその頃から今日まで、ずうっと続いていると。
はい。今も楽しいです(笑)。今でも1週間おきにフィールドワークに行ってます。やっぱり自然の中をぶらぶらしてるのが好きなんですね。富士山の麓の森や、奥多摩なんかにも行きますよ。サルやニホンカモシカがいるから、「今日はいるかな」とか思いながら歩くのが楽しいのね。
小学生たちと一緒にフィールドワークをすることもありますが、僕は教えることはしなくて、一緒に歩くだけ。自分でいろいろ観察していると、「それ、何ですか?」と聞いてくるから、教えてあげる。ガイドツアーとか、しゃべりまくって教えてるでしょう、「はい、ここに何とかがあって……」とか。そうではなく、子どもが自分で見つけるのが大事。子どもってね、ナナフシとか、意外なものを見つけてくるんですよ。「何でもいいから拾っといで」って言うと、拾ってくるんです。それを見て「よく見つけたなあ」って、そういうのを繰り返すことで自信がついてくるんですね。
こっちが「これがこうだよ、ああだよ」って言ってるとね、そのときしかものを見ないんですよ。だから、自分で探す。最初はみんな「何していいの?」っていう感じになりますよ。でも僕、何にも言わないで、ずっと歩いて自分で探してメモ取って、行って帰ってくる。そうすると、参加しても何にもしないで帰る子がいて、大人は怒るよね、「せっかくお金払ったのに」って(笑)。違うんだって、フィールドワークって、そういうものなんです。
自然っていうのは、自分で見つけない限り見つからない。自然のことって、もう99%ぐらいわかんないんじゃないですか。みんな、わかったつもりなんですよ。だから答えを聞きたがるんです。でもわかんない。「この森に何がいますかね?」って、調べなきゃわかんない(笑)。厳密に言えば、「何がいた」って自分が確認したことしか言えないんです。
登山でも何でも
急ぎすぎない方がいい
――今泉家では、息子さんが3歳の頃に富士山に登られたとか。3歳で富士登山なんて、本当にできるんですか?
はい、3歳で頂上まで、家族全員で。子どもって、昼寝するじゃないですか。だから午後1時とか2時ぐらいになると、道路脇に寝袋を敷いて、そこで寝かせて。夕方起きてからまた歩くんです、ゆっくりね。だから1回目は泊まりは7合目、次の日またゆっくり出発して、道中2泊。それでやっと頂上ですね。上の子も下の子も両方、3歳になってから手をつないで登りました。
富士山は登山というより、ダラダラ歩きって感じだね。人、人、人だもんね。だから9月に行くんです。そうするともう地面も固まってるし、すいてるし、そこらで寝てても邪魔になんないし。
そうするとね、その後が楽なんですよ。「頑張れ」って言わなくても「富士山に、日本一の山に登ったんだから、大丈夫だよ」って。それを言うと頑張るよね。やっぱり、子どももそれなりに辛かったみたいだから。
――それはもう、かなりの自己肯定感ができますね。
大きいですね。皆さん、山登りも急ぎすぎるよね、子ども連れでもね。富士山の上の方でも、トンボやチョウチョが風に飛ばされてくるんです。そういうのを見つけながら子どもとゆっくり行くんです、少しずつ。何時にどこまで行かなきゃいけないってのは、大人だって辛いんですよ、だからそんな予定は立てないで「今日はもうここらで泊まるかな」って野宿。そうすればね、急がせることもないから叱ることが減る、ストレスが少ないですよね。途中まで行って帰ってくるのもいいんじゃないか、何も無理に上に行く必要はないんですよね。
――確かに、大人が勝手に立てた計画が予定通りに行かず、子どもを叱る場面はありがちです。
前にある出版社から「山の本を書いてほしい」って頼まれて、僕は「登山家じゃないから書けない」って言ったら、「何でもいいから書いてくれ」って。それで書いたの、「山は頂上まで行かなくてもいい」とか、「疲れたら帰ってくる」とか(笑)。「それよりも、体力のあるときに自然の山道の地面とか木の上とか、そういうところを見ながら歩く、それが楽しい。上に行くのが目標じゃない」って、そういう本を書いたんです。
でも、全然売れなかった(笑)。みんな上に行きたいから。でも上に行っても何にもないよ、「なんとか山、何メートル」って塔が建ってるだけで。道の途中にも、滝とか、いいところはいっぱいあるんですよ。そうしたらそこで時間をつぶすのもいいですよ。人間、余裕が大事じゃないですかね。
登山でも何でも、あんまり予定を立てて行くと、大体ダメだよね。行った思い出にはなるかもしれないけど、楽しさがすっ飛びますね。みんなが笑ってるうちに帰ってくるのが一番いいんですよ。疲れ果てて帰ってくるのは、もうね、こりゃケンカのもとですね(笑)。
(kodomoe2020年10月号へつづく)
BOOK INFORMATION
『ざんねんないきもの事典』(今泉忠明/監修 高橋書店 本体900円+税)
あえて「ざんねん」という言葉を使って、思わず「どうしてそうなった!?」とつっこみたくなる、愛すべき生き物たちを紹介する人気シリーズ。進化の仕組みをはじめ、生き物の多様性を知るきっかけになるはず。
『ねこのずかん』(大森裕子/作 今泉忠明/監修 白泉社 本体1000円+税)
猫のからだや猫の食事、猫語にいたるまで、猫にまつわるすべてが集約されている図鑑絵本。身近な存在でありながら、あまり知らなかった猫の生態をネズミの博士が分かりやすくレクチャーしてくれます。猫好きは必携の一冊。
白泉社ブックス『ねこのずかん』はこちら
インタビュー/原陽子 撮影/キッチンミノル
kodomoe2020年10月号では、監修を務める「ざんねんないきもの事典」についてなどさらにお話は続きます。
今泉忠明さんロングインタビューは、kodomoe2020年10月号でお楽しみください♪