2020年1月15日

髭男爵・山田ルイ53世さんロングインタビュー。キラキラしなくても、オンリーワンじゃなくても「普通」で全然いいんじゃないですか

「ルネッサーンス!」のギャグで一世を風靡した、お笑いコンビ・髭男爵の山田ルイ53世さん。神童と呼ばれた幼少時代から、引きこもりを経て、芸人へ……。kodomoe 2020年2月号では、山田ルイ53世さんに人生や子育てについてたっぷりとおうかがいしました。webではその一部をご紹介します。

やまだるい53せい/1975年兵庫県生まれ。お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。六甲学院中学に進学後、6年間の引きこもり生活に。20歳で愛媛大学法文学部入学。同大を中退し上京、99年、お笑いトリオ髭男爵を結成、翌年ひぐち君とのコンビに。著書に『ヒキコモリ漂流記 完全版』(角川文庫)、『一発屋芸人列伝』(新潮社)、『一発屋芸人の不本意な日常』(朝日新聞出版)。ラジオや声優の仕事でも活躍。

美談にまとめるのはナンセンスやと思います

 2008年、「ルネッサーンス!」とワイングラスで乾杯する貴族漫才で一躍人気になったお笑いコンビ、髭男爵。シルクハットがトレードマークの山田ルイ53世さんは、現在は執筆の仕事でも活躍中。一発屋と呼ばれる芸人の真の姿に迫る『一発屋芸人列伝』は「第24回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞。他のエッセイやweb連載でも、その文章の端々に知性が光る。
 出身校は関西の私立の名門、六甲学院中学。小6の夏に自ら中学受験を決意し、半年間のほぼ独学で合格という神童ぶり。入学後も成績は上位、サッカー部のレギュラーとしても活躍するが、中2の夏の登校中におなかが下り、トイレに間に合わず大失敗。その後、夏休みの宿題が手つかずのまま2学期を迎えたのをきっかけに、それまでと一転、6年間の引きこもり生活を送ることになる。

――名門中学入学後に、20歳まで引きこもり。長い間、辛い思いをされたことと思いますが。

 まあまあ、自業自得ですからね(笑)。自分の性格上やし、ちょっと神経症みたいにもなってたと思うんですけど、中学受験のときに勉強前のルーティンワークというか、部屋中を掃除して、自分にも粘着テープのコロコロをかけてきれいにして、ノートや本をきちっとそろえて……とか、そんな決めごとが30個ぐらいあって。「きちんと生活するんだ」と強く意識し過ぎて、完璧主義というか潔癖症みたいなところがあったんですね。
 中2の夏休みの宿題は、「1週間もくれたら、全部やり終えて行くがな」みたいな気でいたけど、結局その多すぎるルーティンのせいで勉強を始めるまでにたどり着かず。そこで1日、2日、3日……って休んでいくと、「もう傷がついたな」というか。だからまあ、その前の通学途中でうんこをもらした件もそうですよね。自意識過剰なんですけど、「自分のキャリアに傷がついた。もう無意味なんだ」という落ち込み方をしてましたね。  これがややこしいのが、親が教育熱心で子どもがおかしなった、みたいなケースとは全然ちごて。受験自体も、「中学受験とかやったら格好ええやろな、ほめられるやろな」っていう虚栄心で自分で始めたんです。本来は自らの情熱や夢や希望で自分を形づくるのが一番いいと思うんですけど、「人にほめられたい」と、外からの評価で自分を形成するような考え方になっていた。化石を発見した少年が新聞に載っていたときに、本来なら小学生が自分で化石を見つける、その情熱に感銘を受けるべきやのに、僕は「新聞に載ってええなあ」と思ってしまう。そういう部分がちょっとよくなかったなと思ってますけどね。うん。

髭男爵・山田ルイ53世さんロングインタビュー。キラキラしなくても、オンリーワンじゃなくても「普通」で全然いいんじゃないですかの画像1

――今は経験者として、新聞や雑誌などで引きこもりの相談にもよく回答されていますが、まさか何十年後にご自身がこういう立場になるとは。

 でも、本当にケースバイケース、それぞれの理由で引きこもったりドロップアウトしたりしてるから、難しくて。そういうインタビューを受けると、先方はやっぱり美談にまとめたがる風潮があるんです。「その6年間があったから、今の山田さんがあるんですよね!」みたいな。その方が書きやすいし読みやすいし、僕以外はみんな得するんですけど、僕的にはやっぱり「本当に無駄やったな」という思いがあって。
 それはそうなんです、学校行って友達と遊んで、勉強して、遠足行ったりする方が、絶対に人生のページは充実してくる。それがなくてしんどい思いや、さみしい思いをするわけやから。
 ただ、そのとらえ方もみんなそれぞれ違うから。「僕個人だけに当てはまることですけど、僕は無駄やったと思ってます」っていう言い方をするんですけど。「私もそうです」って言うてくれる分には全然いいんですけど、「そうであれ」とか、「そうすべきだ」っていうのは、ナンセンスやと思うんで。
 「これです」って言うと、それに外れた人っていう苦しみが、やっぱり大きくなる。「自分は当てはまらへんな」っていうしんどさが。TVの朝の占いみたいにね、12個くらいの事例に当てはまるようなことだけではないですよ、人間は。

――確かにそうですね、人それぞれ。でも当事者からのアドバイスに、すごく救われている方が多いのではないかと思います。

 そもそもお悩み相談っていうのも、遠慮してたんですよ。お前が何言うとんねん、「一発屋」言われててお前が悩んどんちゃうんか、みたいなとこがあるから、ちょっと恥ずかしいなって。ずうっとお断りしてたんですけど、たまたま「もうええか」って、あきらめて引き受けたみたいなところです。

――引きこもり、昔は大ごとのようでしたが、今は身近にも案外ありますよね。

 以前より可視化されたところはあるんでしょうね。今まで隠れていたのが出てきたという部分もあるとは思うんです。主婦の方の引きこもりとかね。元々家にいがちだから引きこもりという認識は本人もないし、今でも数に入ってない可能性がある。
 子どもが引きこもるとか不登校になるってことが、人生というすごろくのなかでトリッキーなマスかと言えば、いや、実は全然普通にあるよって僕はすごく思ったので。もしそうなっても親の方も「うわっ、緊急事態発生!」とは思わない方がいいかもしれないです。

BOOK INFORMATION

髭男爵・山田ルイ53世さんロングインタビュー。キラキラしなくても、オンリーワンじゃなくても「普通」で全然いいんじゃないですかの画像2『一発屋芸人の不本意な日常』
朝日新聞出版 本体1300円+税
地方営業でワイングラスに石を投げられたり、ゴミにサインを書いてと頼まれたり、大切な特番で一言もしゃべれなかったり……。自ら「負け人生」と語る日々をつづった、切なくも笑えるエッセイ集。「withnews」の人気連載の待望の書籍化。

インタビュー/原 陽子 撮影/キッチンミノル

 

最新刊では娘さんへの読み聞かせやご家族についてなど、さらにお話が続きます。

髭男爵・山田ルイ53世さんロングインタビューのつづきは、2020年2月号でお楽しみください♪

髭男爵・山田ルイ53世さんロングインタビュー。キラキラしなくても、オンリーワンじゃなくても「普通」で全然いいんじゃないですかの画像3

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