2019年5月8日

「家族みんなが笑っている時間が幸せ」田中裕二さんインタビュー 完全版

子どもに頼られるのが ちょっとうれしい

――家では、どんなお父さんなんですか?

 例えば、子どもが忘れ物をしたときに学校に届けることがあるんです。そのとき「えー、面倒くさいな」じゃなくて、「ああ、いいよ。俺、行く行く」って思うんですよ。ちょっと楽しい感じで。何で楽しいんだろう……と考えていたら、子どもの頃、僕もそうだったのを思い出したんです。学校で親に会うと、恥ずかしいところもあるんだけれど、ちょっとうれしい。実際、子どもたちもうれしそうにしてくれます。だから、子どもを訪ねて学校に行くのって、なんか好きなんです。

――ほかにも変化はありますか?

 そうですね。例えば自分の趣味に没頭したりする時間があるとしたら、それはそれで最高なんです。だけど、そんな時間を子どもに取られたとしても、思っていたほどストレスにならないっていうか。「もう、しょうがないなぁ」って言いつつも、ちょっとうれしい。子どものために何かをしたり、子どもに頼られたりするのが、うれしいんです。
 自分のことより、子どものことを優先するのって、実はそんなに苦じゃなかった。きれいごとでも何でもなく、本当にそう思ったんですよ。自分でもちょっと意外な感覚ですね。

――お子さんを優先するのはどんなときですか?

 何だろうな……結構あるんだけれど。本当に日常の中でのことですよ。例えば、「このテレビ番組を観よう」と思っていても、子どもが「これ観たい!」と言ってきたら、「あ、いいよ」と譲って、一緒になってその番組を観るとか。でも、それも別に何かをガマンしているということではないんです。
 ほかにも、家族でデパートに行って「何、食べようか?」となったとき、自分に食べたいものがあっても、子どもが「これ食べたい」って言って、別のものを食べることになっても全然オッケーみたいな。自分のことよりも、子どもが喜んだり、幸せそうにしていることの方が、勝つ感じですね。

――すっかり、お父さんの顔になられていますね。

 でも、ママはもっとすごいよね。食べるものだって、子どもが食べ残したものばっかりだったりするし。パンの切れ端とか、作ってあげたのに食べなかったおにぎりとか。みかんむいてあげたけど、結局食べなくて学校に行っちゃったとか。もっと言うと赤ちゃんが口の中に入れて出したものまで。ママの朝ごはんは毎朝そんな感じ。ママの頭には、「自分のため」なんてないから、それはすごいなって。ママには絶対に勝てない。

――田中さんは、そうした細やかなことをよく見ていて、気づかれていますね。ママもうれしいと思います。

 そうですか? 僕は昼からの仕事も結構多いので、ママの大変なところを目の当たりにする機会が、ほかのお父さんたちよりも、多いんだと思いますよ。

――ところで、日々の子育てで、大変なことは何ですか?

 とにかく、子どもっていうのは、基本的に言うことを聞かないですよね。わが家の子どもたちは、「お風呂が沸いたから入りなさい」って言ってもまず入らないですから。お風呂の方に行っても、その途中で姉弟できゃーきゃーやっていて、気づいたらまたリビングに戻ってきてる。ようやくお風呂に入ったなと思っても、そのまま寝ようとするから、「歯をみがいてないでしょっ!」って言うと、「やだ、面倒くさい!」って。これをもう毎日やっていて……。「はい、お風呂に入りなさい」「はい、歯をみがきなさい」「ゲームはもうおしまいです」「宿題やりなさい」……毎日、毎日、夫婦で言い続けています。まあ、全体を通したらそれもそれで楽しいんだけど、もう大変ですよ。
 これは、昔からどの家庭でもそうなんでしょうけれど。例えば、昔のテレビ番組『8時だヨ! 全員集合』のエンディングで、加藤茶さんが「お風呂入れよ!」「歯をみがけよ!」って言うじゃないですか。それも、まったく同じ。きっと、どの家でも「ほら、カトちゃんがそう言ってるんだから、お風呂入りなさい!」って、親が子どもに言っていたんだと思いますね(笑)。

「家族みんなが笑っている時間が幸せ」田中裕二さんインタビュー 完全版の画像1

ふたりの子どもたちと 出産に立ち会って

――話は変わりますが、2017年に娘さんが誕生されたときは、家族全員で出産に立ち会われたそうですね。

 上のふたりの子どもたちも、立ち会いました。生まれたばかりの赤ちゃんを一番最初に抱っこしたのは、長女なんです。当時はまだ9歳だったかな。「うわぁ〜」と、うれしそうに歓声を上げていましたね。結局、赤ちゃんの名前も彼女の案が採用されたんです。みんなでいろいろ考えて、「これは?」「あれは?」とかやっていて。彼女の案を見たら、「いいじゃん、かわいい」ってなりました。僕の考えていたものもあったけれど、全然、そっちの方がいいと思ったんです。
 長女は今11歳ですが、“ちっちゃいママ”ぶりたいところもあって、「私が抱っこして行くんだ」と言って、末っ子を抱っこするんです。でも、子どもは気まぐれだから、3分もすると自分がやりたい方に行っちゃって、「はい、パパ抱っこしてあげて」ってこっちに寄こす(苦笑)。ただ、「今、手が離せないから、ちょっと見ていてね」っていうときには、ちゃんと見てくれるので、頼りになりますけど。
 とにかく上のふたりは、末っ子がかわいくてしょうがないみたいで、それはもうよく伝わってきますね。

――田中さんご自身は、出産に立ち会われてどうでしたか? 父親になったという実感はすぐにわきましたか?

 生まれた瞬間は、“感動”みたいなのとはちょっと違って、「うわぁ、マジで生まれた!?」という感じでした。非現実的な感覚がちょっとあって、抱っこしたときも、瞬きをする様子がCGのようにも見えて。宇宙人を見るような感じで。「わが子」っていう感覚は、そのときにはまだなかったですね。
 でも少ししたら、泣いたりニコッとしたりするじゃないですか。それを見たり、「あ、何か今、一瞬俺に似ていた」とか「一瞬、死んだ親父に似ていた」とか、そういうところを見つけたときに、「あぁ」となって。一気に父親になった実感がわきました。今は、どっちに似ているかな? 日々変わりますね。
 ママは赤ちゃんを育てるのは経験者だったから、やっぱり頼りになりました。僕は、オムツ替えをしたこともなかったので、おしっこならともかく、うんちなんてどうしたらいいか分からなくて。ママに教えてもらって、できるようになりました。

――うんちしたときも、オムツ替えをされるんですか?

 やります、やります! そんなのやらなかったら、「信じられないっ!」って、どんだけ怒られるか(笑)。

――やっぱりお子さんがふたりだったときと比べて、山口さんの大変さは増していますよね。

 一番下は、まだまだ目を離せないし、夜中も何度も起こされるしね。僕はみんなが寝たあとに帰ってくることもあって、奥さんが気を遣ってくれて別の部屋にひとりで寝させてもらっているんです。そこは申し訳ないなって思っていますね。

――田中さんの子どもの頃のこともお聞きしたいのですが。ご両親は、どんな親御さんでしたか?

 うーん、普通な感じですかね。というのも、すごい教育に熱心というわけでも、かといって何も言わない親でもなかったので。親父は、典型的な昭和の仕事人間。サラリーマンだったんですけれど、毎日同じ時間に会社に行って、晩ごはんまでに帰って来る。家から歩いて5分のところに会社があったんですが、お酒を飲んで帰って来るようなことが一切ないような、とにかく真面目な人でしたね。優しかったけれど。だから、家での人気は圧倒的にお母さんにあった。
 母親は明るくて。妹がふたり、弟がふたりいて、5人きょうだいの長女なんですが、近くに住むふたりの妹たちがしょっちゅう家に来ていて、いつもゲラゲラ笑っていたような気がします。僕は、そんな母親が大好きで。3人きょうだいの末っ子だったから、特にかわいがられて育ちました。甘えん坊でしたね。

――ご自身が親になって、改めてこんなふうに育ててもらって、とご両親に感謝することは?

 それがまず、あまり記憶にないんですよ。ただ、こっちは勝手に記憶がないんだけれど、親は膨大な時間をかけて、毎日面倒を見てくれたっていうことですよね。“生きている”ってことは、そういうことじゃないですか。特に母親はほぼ24時間、目を離さなかったわけですよね。そして、毎日3食、食べさせて育ててくれたわけでしょ。僕らの子どもの頃って、今みたいにコンビニもない時代で、使い捨てオムツもないし。「うちの母親はどうやって子育てしていたんだろう?」って、たまに思うことがありますよ。

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