2019年7月29日

ひとり遊びばかり。引っ込み思案なわが子が心配です【保育士さんの「育児のウラワザ」4】

家庭で育児をしていると、ときどき、自分の育児が本当に大丈夫なのか、心配になることがあります。遊び方、叱り方、食べさせ方、寝かしつけ、トイレトレーニング……。この連載では、育児の悩みや保育のコツについて、保育士さんにお話をお聞きします。今回うかがうのは、保育士としての活動のほか、親子コンサートや子育て支援活動も行っている、田中良昌さんです。

保育士:田中良昌さん
たなかりょうすけ/にじのき保育園主任。キッズスマイルカンパニー所属の現役保育士。歌遊び、バルーンパフォーマンス、絵本の読み聞かせなど、幅広い分野で親子コンサートや子育て支援活動を行っている。

 

お友達との関係作りは子どもにとって勇気がいること

――幼児期になっても、お母さんにべったり! 子ども同士で遊んでほしいと思っても、輪の中に入りたがらず心配になってしまいますが、大丈夫でしょうか?

田中:お母さんが心配する気持ちはわかります。ただ、みんなと遊ぶまでには「ここなら安心できる」という自分なりの確信が必要です。でもそれを持てるまでの時間には、個人差があるんですね。
それに、人との関わり方は、「こうすればお友達と遊べる」とわかるような、ある程度身近なモデルも必要です。大人が一緒に入って、名前を教えてもらったり、仲間に入れてね、よろしくねって挨拶したり、そういう姿を見せて、仲立ちをしてあげる必要があるかなと思います。保護者の方が率先して子どもに話しかけてもらって、友達を作るきっかけづくりをしてあげられればいいなと思います。

――特に引っ込み思案のお子さんは、まず遊びに入るきっかけが必要なんですね。田中さんは、いままで印象的だった引っ込み思案のお子さんはいますか?

田中:注目されると何もできなくなってしまう、というお子さんがいました。お友達との何気ない会話でも、緊張からなのかドキドキして、ほとんどしゃべれなかったですね。集団遊びにも入れない状態が、何年も続きました。
帰りの会で、今日楽しかったことなどを子どもに聞く時間があったんですが、自分から話すことはできなくて。何を聞いても、顔が真っ赤になって下を向いてしまうんです。運動会のリレーなど、皆に注目されるものは、パニックに近い状態になってしまったり……。

――そういう子に対して、人間関係をどうフォローしていましたか?

田中:保育士がなるべく近くにいてあげることと、その子が興味や好意を持っている友達を探して、その友達と人間関係を作れるようにしていきました。まずは狭くても信頼できる関係から、築いていこうと思ったんです。誰かと一緒に遊んでいるところを見かけたら、さりげなくその子となら一緒に遊べるように保育士同士でフォローしました。

それと、遊びに入ろうとしない、誘っても何かの壁を感じて固まってしまったときは、無理に参加させることはしませんでした。何が嫌だったのかも話ができないので、そこでは、「無理にやらなくていい」ということ、「必ず逃げ道はあるよ」ということを伝えるようにしていました。「今はそばに来なくても大丈夫。やりたくなったらいつでもおいで。何か困ったことがあったり、やりたいことがあったらいつでも言いにおいで。必ずここにいるからね」ということをお話をして伝えています。

――そうしてお話しすると、実際に困ったとき、子どものほうから動こうとする面が見られるようになりましたか?

田中:何かわからないことがあったりすると、すすすっと近くに寄ってきて、何か物を言いたそうにたたずんでいるんですよ。まず、そばまで来てくれたことで勇気を出していますから、「どうしたの」って声かけて、何か困ったことを教えてもらって「そうなんだね、じゃあ一緒にやろうか」と対応しました。理想としては言葉で伝えてほしいのですが、いきなりそれは難しいので、こちらで代弁してあげて、お手伝いしながら解決して、「また困ったことがあれば、教えてくれる?」と声をかけます。

だんだん回を重ねたら、「言ってくれればわかりやすいからさ、今度はちゃんとお口で言ってみてよ」と声をかけるようにして、少しずつステップアップをしてもらいます。言えたときは「ちゃんと言ってくれたから、わかりやすかったよ」と褒めてあげる。そういう関わり方を、繰り返しやっていきます。

――なるほど、まず信頼できる人を作って、その人に自分から声かけができるように働きかける。できないことを怒らず、褒めてできることを増やしていくことが大事になってくるわけですね。これだけはやっちゃいけないという対応はありますか?

田中:強制ですね。「みんな、こうするんだよ」とか、「やらなくても、みんなといなきゃダメでしょ」と、威圧的に言うのは、僕はやらないようにしています。子どもは不安の塊を抱えているので、それを少しずつこそぎ落としてあげるのが、保育士の仕事じゃないかなと思います。強制指示語というのは、一気にその不安を取り除こうと、焦っている方法だと感じちゃうんです。不安が重く大きくなってしまうので、逆効果のように思います。

とにかく安心させること、安心プラス、その子が「自分の意思で選んでそれをやっている」という意識になってもらうことですね。「ここにいなさい」じゃなくて、「ここにいてもいい」と、その子の意思で行動を選ばせるということです。「困ったことがあったら自分で言いに来なさい」ではなく、「困ったことがあったら、誰でも近くにいる大人は助けてくれるんだよ」と話しかけることを大事にしていました。

――そういう子は、性格的に神経質だったり、怖がりだったり、大人しくて引っ込み思案の子が多くて、そういうマイナス部分が目につきやすいのですが、逆にそういう性格だからプラスに働く部分は感じますか?

田中:そうですね。一つの遊びへの集中力が高い子が多い気がします。「遊び」を、技術やレベルといった言葉で表現したくはないんですけど、繊細で複雑なものを作るのが得意で、大人から見てもすごいんです。

たとえば、ラキュー(パズルブロック)の制作で、最初は説明書を見ながら、バイクとか飛行機を作っていたのが、今度はそれを自分なりにどんどんアレンジして、積み重ねて継ぎ足して、フォルム的にも左右対称のすごいキレイでかっこいい飛行機を作る子がいました。あれはすごいなと思いましたよ。大人顔負けのものを作ります。カプラの積み木でも、黙々と建物を積み上げていって、場所ごとに意味を持たせたり、組み立て方を少し工夫してたりとか、そういうところも見られました。

説明書って誰かと話すわけじゃないので、自分のペースでできますよね。この自分のペースでできることには、強みを発揮するのかもしれません。子どもって、実は集中して見えても、周りが気になっちゃう子のほうが多いんですよ。

――なるほど、自分の世界に入ったときに、強いのかもしれませんね。つい子どもができないことばかり口を出したくなるものですが、何か親ができることってありますか。

田中:小さなことでいいので、できたことをひとつずつ、褒めてあげてください。たとえば、発表会に出ることになって、上手にできなさそうでも、おうちで、ミニ発表会のようなものを開いて、雰囲気を楽しんであげてください。見栄えの良さでなく、元気にできたとか、タイミングはばっちりだったとか、何かできたことを見つけて褒めてあげるといいと思います。

発表会って、もちろん保護者の方に成長した姿を見ていただく会でもあるのですが、子どもが何かに向けて頑張っていくための会でもあります。本番で固まっちゃっても、それがその子の今の姿だと理解して、他の子と比べないでほしいです。本番の良し悪しで、子どもの優劣が決まるわけではないですから、他のことで自信を持たせてあげてくださいね。

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