4月のテーマは「花の絵本」【広松由希子の今月の絵本・62】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
4月のテーマは「花の絵本」
春です。
うれしいのは、人間だけじゃありませんね。
動物も、小鳥も、虫も、花たちも。
春を謳歌し、ニコニコほころんでいるように見えます。
たまには、季節ど真ん中のテーマで。
表に出られない日も、気持ちが明るくなるような
花の絵本を読みましょう。
『どのはな いちばん すきな はな?』は、
赤ちゃんから、なめるように、かじるように楽しめる
角丸ボードブック「0.1.2.えほん」シリーズ新刊です。
花とひとくちにいっても、そりゃもう、いろいろ。
名前をまだ知らなくても、いえ、知らないだけに、
それぞれの様子を、驚きをもって
体でとらえられるのが、
赤ちゃんたちかもしれませんね。
「ぱーっと ひらいた あかい はな」
「ぴゅーんと のびてる しろい はな」
「ぽん ぽん ならんだ きいろい はな」
明るくのびやかな色とかたちが
北欧のテキスタイルみたいだけど、
れっきとした、日本発の花絵本ですよ。
道端や庭先、花屋で見かける花々が次々と現れます。
たんぽぽ、ひなげし、チューリップ……
ある日、自然に「あ、あのはな」と気づくかな。
それはそれで、とってもすてき。
でも、まずは親子で
「きれいねえ」「どのはなが すき?」
と指差したりしながら、
親子の蜜月、睦まじい花時間。
もにょもにょ楽しみましょう。
『どのはないちばんすきなはな?』
いしげまりこ/文 わきさかかつじ/絵
福音館書店 本体800円+税 2017
対照的に、ひとつ色にこだわって、
赤い花ばかりを集めた
すてきな花絵本もあります。
『あかいはな さいた』は
韓国のイラストレーターが描く
四季の花々の美しい赤に、息をのみます。
月の夜の 寒椿。
春の陽にうつむく おきな草。
風に吹かれてさざめく チューリップ。
丸い笑顔の 松葉ぼたん。
カーネーションもバラもほうせんかも……
こんなにも豊かに、自分の赤で、咲いています。
白い背景に、葉っぱの緑がそれぞれの花の赤を引き立てます。
開くたびに、新しい赤が広がり、ほうっとため息が出る。
訳詩も心地よく花の気持ちを伝えます。
赤は、韓国では5つの伝統色のひとつ。
創造、情熱、愛情などを象徴するといわれています。
私たちもよく知っている花の姿を通して、
おとなりの国の感性と文化に寄り添うこともできますね。
『あかいはなさいた』
タク・ヘジョン/文・絵 かみやにじ/訳
岩波書店 本体1400円+税 2008
花のこと、もっと知りたい。
ぐっと近寄って見てみたい。
春にいちばん身近な花のひとつ
『たんぽぽ』を、じっくり見てみましょう。
「たんぽぽ」の科学絵本はたくさん出ていますが、
荒井真紀さんのこの花シリーズには、
気持ちがほぐされるようなやわらかさがあります。
熊田千佳慕さんに師事したという細密画は、
綿毛を指先でつまむような、やさしいタッチ。
しかも、花の部分や、成長の時々の気持ちに沿うような
柔軟な画面の使い方に、思わずぐぐっと前のめりに。
冬の地面にはりつく葉っぱの気持ち。
地中深く伸びる根っこの気持ち。
葉っぱのつけねに、だんだんふくらむつぼみの気持ち。
部位にあわせて俯瞰で見たり、
向きを変えて縦長に見たり、
コマ割り風に時間を追って見たり……
綿毛を画面いっぱいに飛ばすシーンも、
丸坊主になって枯れるシーンも、
ただリアルなだけではありません。
植物の工夫や、成長の意味をこめた
変化に富んだ表現に、深く納得します。
理科アレルギーの大人だって、
きっと繰り返しめくりたくなります(証明済み)
『たんぽぽ』
荒井 真紀/文・絵 金の星社
本体1200円+税 2015
花のよろこびは、見るだけでなく、
育てるよろこびでもありますね。
『皇帝にもらった花のたね』は、
花が大好きで、種から育てるのが
とてもじょうずな男の子ピンが主人公。
この国の年老いた皇帝も、花を愛していました。
世継ぎを選ぶのに、こんな「おふれ」を出したのです。
「このくにの こどもたちは ひとりのこらず きゅうでんに きて、
皇帝から 花のたねを うけとるように。
その たねを たいせつに そだて、いちねんご、皇帝に みせに くるように。
皇帝は その こどもたちの なかから よつぎを えらぶ」
期待に胸をふくらませたピンは、ていねいに種をまき、
毎日水をやり、できる限りの工夫をして、芽が出るのを待ちましたが……?
夫が中国人という、アメリカの絵本作家デミ。
アジアをベースにした物語と画風が人気の作家です。
この本も、中国の昔話から想を得た物語でしょう。
1ページに1枚ずつ、丸いお皿に絵付けをするように描いた
こまやかな線画と鮮やかな着彩が愛らしいです。
花は正直。
そして正直と勇気が、
皇帝にふさわしい資質だそう。
『皇帝にもらった花のたね』
デミ/作・絵 武本佳奈絵/訳
徳間書店 本体1500円+税 2009
4月上旬、半月間のヨーロッパ出張から帰ってきました。
パリ、ロンドン、ルツェルン、ボローニャ……
今年はどこも日本よりあたたかく
春がうれしい花たちが咲き乱れていましたよ。
帰国後は、遅めの桜も楽しめて、ラッキーな春でした。
当面は、向かいの公園の借景生活ですが、
いつか、ゆっくり自分の庭をつくれたらいいな。
『庭のたからもの』(大野八生/作 小学館 2017)を読みながら、
老後に思いを馳せております。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
web連載「広松由希子の今月の絵本」
Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu