絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます！

8月のテーマは「船の絵本」

残暑お見舞い申し上げます。

麦茶、カルピス、それともビール？
冷たいグラス片手に、
川風、海風に吹かれながら、
のんびりページを繰って、船遊びはいかが。
 

船遊びといえば、ガンピーさん。
ジョン・バーニンガムの初期の名作ですね。

川のそばに住むガンピーさんは、船に乗って出かけます。
「いっしょに　つれてって」と、子どもたち。
「いいとも」と、ガンピーさん。「けんかさえ　しなけりゃね」

うさぎには、
「いいとも。とんだり　はねたり　しなけりゃね」
ねこには、
「うさぎを　おいまわしたり　しなけりゃね」
いぬには、
「ねこを　いじめたり　しなけりゃね」

「しなけりゃね」のお約束で乗り込んだ
子どもと動物たちで、船はいっぱいに！
でも、ダメと言われたらどうなるか……
みんな、知っているでしょう？

ゆるっと平和な展開が気に入って、
２歳くらいから、何度でも乗りたくなる船遊びです。

『ガンピーさんのふなあそび』
ジョン・バーニンガム／作　光吉夏弥／訳
ほるぷ出版　本体1200円＋税　1976

おっとり、ぷかぷか
赤ちゃんとの船遊びには、
いしいきよたかさんの『ふね』も、おすすめ。

「のれるかな？
　うかぶかな？」

てんとう虫、かめ、うさぎなど
かわいい生き物たちが
それぞれにぴったりの形をした船を運び、
水におろすと……

「のれた！
　うかんだ！」

満面の笑顔の２拍子絵本。
プールやお風呂での遊びにも、つながりそうですね。

『ふね』
いしいきよたか／作
ゴブリン書房　本体800円＋税　2013

お部屋で船旅に出たくなったら、
大きな段ボール箱を用意して。

「ふねなのね」と思えば、もうそれは、船なのね。
「かわなのね」と思えば、床でもたたみでも、河なのね。

河にはワニもやってきます。
隠れたって、見つかっちゃう。
でも、平気。

「ぼくも　いれて」
「いいよ」

と、フレンドリーなワニなのね。

ひとつの箱から始まって、
心のままに展開していく遊び。
空想とリアルは地続き、水続き、
どこまでも水平線上にあるのね。

軽やかな線に、
涼しげな特色３色のかけあわせ。
自由な心の船旅に出かけましょう。

『ふねなのね』
中川ひろたか／文　100%ORANGE／絵
ブロンズ新社　本体850円＋税　2004

自由と言えば、大人もうならせる、
こんな自由な船旅もありました。

キュウリに普段着でまたがった、たいへん控えめ（地味）な表紙ですが、
開くと、見返しにはどーんと
みごとな存在感の写真が現れて、びっくり。

さらに、カバーをはずして裏返すと、
これまた、びっくり。

本文めくるにつれ、ゆるやかにびっくり。

キュウリみたいに細長いボートに
キュウリといっしょに乗って旅する記録です。

「キュウリは　ピックルスへ
　ぼくは　どこかとおくへ
　ゆっくり　ゆっくり」

こどもの絵日記のようなスケッチ風の絵と、
写真やカットのコラージュ。
ピックルスの材料や作り方も。

だんだんピックルスに近づくキュウリと
様々な光景と出会うぼくの
やさしく流れる変化を
新鮮に体験することができます。

現代美術家・島袋道浩さんの絵本。
シリーズ Contemporary Art Book（わたしたちの時代の絵本）より。

『キュウリの旅』
しまぶくみちひろ／作
小学館　本体1600円　2004

ゆらゆら、ぷかぷか、流れていく日々。
このひと夏、どんな変化があったかなあと
ぼんやり思い返してみたり。

のんびり進んでいきましょう。