2012年7月10日

7月のテーマは「なつのおと」【広松由希子の今月の絵本・9】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

7月のテーマは「なつのおと」

梅雨が明けたら、夏本番!
目にはまぶしく、肌には熱く、匂いも、もわっと立ちのぼる夏。
そして、耳には……夏の音ってどんな音?
今月は、夏が聞こえてくる絵本を紹介します。
絵本01
「しゃぷ しゃぷ ぴしゃ ぴしゃ」

これは、そう、波の音。
かにこちゃんは、海が大好き。
シオマネキって、片方のハサミだけが大きくて、
「やあ」って挨拶しているように懐っこく見えるカニですね。

「どどどど ざぶーん」

大きい波が来たら、みんなで逃げます。

「すこ すこ すこ すこ」

このカニたちが砂浜を歩く音が、いいな。
こっちからも、あっちからも、

「すこ すこ すこ すこ」

歌うように楽しい擬音。
リズミカルでユーモラスな短い文に、
小さい人たちのための詩情が豊かにただよいます。
カニ仲間と横1列に並んで眺める、夕陽のシーンの燃えるような美しさ。
赤ちゃんにも大人にも、シンプルでぜいたくな贈り物です。
絵本 かにこちゃん
『かにこちゃん』
きしだえりこ/作 ほりうちせいいち/絵
くもん出版 定価840円 2008

 

 

忘れられない擬音語といえば、『みずまき』。
たくましく日に焼けた女の子が、
「にわのみなさん おきてください。
 あめだぞ あめだぞ」
ホースを豪快に振り回します。

「たぴ たぴ たぴ たぴ」
なめくじが雨宿りをしている音。

「きゅる きゅる きゅる きゅる」
ぼうふらが立ち泳ぎしている音。
こんなの聞いたことある? 

小さな生きものの上に、自在に雨を降らせる女の子は、
まるで雷神様のよう。
水を浴びた庭は、息を吹き返し、命がむんむん、ページからあふれんばかり。
そして1冊読み終えると……読む前より確かに、ちょっと涼しくなっています。
絵本 みずまき
『みずまき』
木葉井悦子/作
講談社 定価1890円 1994 

 

 

ことばがなくても、絵が語る音もあります。
男の子がひとり、麦わら帽子をかぶり、虫捕り網を片手に、
引き戸を開けて、駆け出す、『なつのいちにち』。
もう、ほら、夏の音が聞こえてくるよう。

「シャーン シャーン」
青い空から、降るように鳴くクマゼミの声。

鳴き交わすカモメたち。
田んぼのカエルや、虫たち。
息をつめて通る、牛小屋の牛。
目指すは、クワガタのいる谷。

一気に駆け抜け、息が切れて、
「ハア ハア ハア ハア」

夏を全身で感じる、男の子のドラマがあります。
絵本 なつのいちにち
『なつのいちにち』
はたこうしろう/作
偕成社 定価1050円 2004

 

 

夏の花も、元気です。
『ひまわり』では、「とん」と、蒔かれた小さな種が、
土の中から「どんどこどん」と芽を出します。

そうして、めくるごとに、
「どんどこ どんどこ」
「どんどこ どんどこ」
「どんどこ どんどこ」
だんだん大きく伸びていきます。

雨に打たれて
「どんどこ どんどこ」
風に吹かれて
「どんどこ どんどこ」
下から上に、縦にめくっていく絵本。
空に向かってぐんぐん伸びる様は、
ひと夏で、ぐんぐん大きくなる子どもたちの姿に重なります。

「どん」

大きく花開くクライマックス。
ぱらぱら散ったら、また表紙に戻り、種を一から蒔きたくなります。
絵本 ひまわり
『ひまわり』
和歌山静子/作
福音館書店 定価840円 2006

夕立の音、花火の音、夏の音はほかにもいろいろ。
親子でいっぱい、今年の夏を感じて過ごせますように。
ひと夏が過ぎる頃、子どもはぐんと大きくなっています。

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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