7月のテーマは「なつのおと」【広松由希子の今月の絵本・9】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
7月のテーマは「なつのおと」
梅雨が明けたら、夏本番!
目にはまぶしく、肌には熱く、匂いも、もわっと立ちのぼる夏。
そして、耳には……夏の音ってどんな音?
今月は、夏が聞こえてくる絵本を紹介します。
「しゃぷ しゃぷ ぴしゃ ぴしゃ」
これは、そう、波の音。
かにこちゃんは、海が大好き。
シオマネキって、片方のハサミだけが大きくて、
「やあ」って挨拶しているように懐っこく見えるカニですね。
「どどどど ざぶーん」
大きい波が来たら、みんなで逃げます。
「すこ すこ すこ すこ」
このカニたちが砂浜を歩く音が、いいな。
こっちからも、あっちからも、
「すこ すこ すこ すこ」
歌うように楽しい擬音。
リズミカルでユーモラスな短い文に、
小さい人たちのための詩情が豊かにただよいます。
カニ仲間と横1列に並んで眺める、夕陽のシーンの燃えるような美しさ。
赤ちゃんにも大人にも、シンプルでぜいたくな贈り物です。
『かにこちゃん』
きしだえりこ/作 ほりうちせいいち/絵
くもん出版 定価840円 2008
忘れられない擬音語といえば、『みずまき』。
たくましく日に焼けた女の子が、
「にわのみなさん おきてください。
あめだぞ あめだぞ」
ホースを豪快に振り回します。
「たぴ たぴ たぴ たぴ」
なめくじが雨宿りをしている音。
「きゅる きゅる きゅる きゅる」
ぼうふらが立ち泳ぎしている音。
こんなの聞いたことある?
小さな生きものの上に、自在に雨を降らせる女の子は、
まるで雷神様のよう。
水を浴びた庭は、息を吹き返し、命がむんむん、ページからあふれんばかり。
そして1冊読み終えると……読む前より確かに、ちょっと涼しくなっています。
『みずまき』
木葉井悦子/作
講談社 定価1890円 1994
ことばがなくても、絵が語る音もあります。
男の子がひとり、麦わら帽子をかぶり、虫捕り網を片手に、
引き戸を開けて、駆け出す、『なつのいちにち』。
もう、ほら、夏の音が聞こえてくるよう。
「シャーン シャーン」
青い空から、降るように鳴くクマゼミの声。
鳴き交わすカモメたち。
田んぼのカエルや、虫たち。
息をつめて通る、牛小屋の牛。
目指すは、クワガタのいる谷。
一気に駆け抜け、息が切れて、
「ハア ハア ハア ハア」
夏を全身で感じる、男の子のドラマがあります。
『なつのいちにち』
はたこうしろう/作
偕成社 定価1050円 2004
夏の花も、元気です。
『ひまわり』では、「とん」と、蒔かれた小さな種が、
土の中から「どんどこどん」と芽を出します。
そうして、めくるごとに、
「どんどこ どんどこ」
「どんどこ どんどこ」
「どんどこ どんどこ」
だんだん大きく伸びていきます。
雨に打たれて
「どんどこ どんどこ」
風に吹かれて
「どんどこ どんどこ」
下から上に、縦にめくっていく絵本。
空に向かってぐんぐん伸びる様は、
ひと夏で、ぐんぐん大きくなる子どもたちの姿に重なります。
「どん」
大きく花開くクライマックス。
ぱらぱら散ったら、また表紙に戻り、種を一から蒔きたくなります。
『ひまわり』
和歌山静子/作
福音館書店 定価840円 2006
夕立の音、花火の音、夏の音はほかにもいろいろ。
親子でいっぱい、今年の夏を感じて過ごせますように。
ひと夏が過ぎる頃、子どもはぐんと大きくなっています。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
web連載「広松由希子の今月の絵本」
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