2014年2月26日

2月のテーマは「あなが好き!の絵本」【広松由希子の今月の絵本・27】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

2月のテーマは「あなが好き!の絵本」

掘るのが、うれしい。
入るのも、うれしい。
のぞくのも、楽しい。
子どもは、とってもあなが好き。

見渡せば、あな絵本もいろいろ、
すごく面白いものがいっぱい。

anashugo


まずは、元祖あな絵本!
横長の絵本を縦にめくる、あなを掘るようなかたち。
表紙から裏表紙を貫く、まるごとあなのイメージ。
谷川俊太郎さんと和田誠さんの『あな』です。

日曜日の朝、なにもすることがなかったので、
あなを掘り始めた、ひろし。
妹が「あたしにも ほらせて」と言っても、「だめ」。
友達が「なにに するんだい」と聞いても、「さあね」。

汗かき、せっせと掘り続けたあと、
穴の底に座り込んで、思います。
「これは ぼくの あなだ」

あなを巡る、さまざまな思い。
母さんや父さんら、ひと言ずつの会話にも、
それぞれの関係が感じられて、面白い。

あなという「無」を生み出す行為、
無意味な意味とか、無の奥に見出すアイデンティティとか、
あれこれ考え出したら、掘っても掘ってもまだまだ掘れる
深ーい哲学的あな絵本。

でも、なんにも考えないで
親子で面白がって読むのが、また最高。

ana

『あな』
谷川俊太郎/作 和田誠/画
福音館書店 本体800円+税 1983

 

いやもう、がしがしと、
ひたすら穴を掘りたいむきには、
石井聖岳さんの『ワニ、あなぼこほる』がおすすめ。

ワニ1匹、スコップ片手に「ぎっひっひ」。
獰猛な顔つきで、なにをするかと思えば、あな掘りです。

そこへ他のワニたちも、
「うおー あなぼこ あなぼこ!」
よってたかって、むらがって、
ざくざくひたすらあな掘りです。

ショベルカーもブルドーザーも出てきて、
これでもかと、壮大なあな掘りのあげく、
生まれたものとは……!

ゴツゴツの重機といい、ごわごわのワニ皮といい、
ごっつい硬派のあな掘り絵本。
でも、硬派なヤツほど、
愛らしかったりもするのよね?

wani

『ワニあなぼこほる』
石井聖岳/作
イーストプレス 本体1300円+税 2010

 

もっとストイックに、
頭を使い、目標目指して
あなを掘り進めたい人には、
川端誠さんの『地球をほる』があります。

夏休み、つよしは隣のけんたと
地面にあなを掘って、
庭から地球の裏側に旅行に行くことに。

マグマを避けて、斜めにマントルを掘り、
アメリカに出ることにしたり。
着いたとき、言葉に困らないように、
英語のできるお姉さんも誘ったり。
賢く計画的に行動する子どもたち。

持ち物や、道中の物資補給はどうするか、
あなの幅や、角度を確認して……
ばかげたスケールのあなを、
リアルなディテールで綿密に掘り進める絵本なんです。

そして、あな掘りの方向にそって、
絵本の向きも、だんだん回転していって、
ぐるり180°!

 ボコッ。
「ついた!」
“Oh, What!”

むむむ。
徹底して計算されたあな絵本です。

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『地球をほる』
川端誠/作
BL出版 本体1400円+税 2011

 

もうすこし、しっぽり、すっぽり、
あなにはまりたい方は、
片山令子さんと健さんの
『あな』に、どうぞお入りくださいな。

のうさぎさんは、朝から
なんにもする気が起こりません。
「ときどき こうなるんだ。
 ……
 わたしは からっぽの
 きもちなんだわ」

からっぽと言っても、
コップやバケツのからっぽとはちがうし……
自分の気持ちにぴったりの「からっぽ」を探して、
のうさぎさんは、あなを庭に掘り始めます。

ちょうどいいあなに、すっぽり入って、
「そうそう。こんなかんじ。
 しーんとして ひんやりして、
 おおきな からっぽなの」

あなの底は、土のいいにおいがして、
「こうしてると あんしんする」

あなから空を見上げていると、
また、むくむくいいこと思いついちゃったり。
あながもたらす、小さな幸せのお話。

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『あな』
片山令子/文 片山健/絵
ビリケン出版 本体1300円+税 2005

 

さてさて、
いろんなあなの深みにはまってきましたが、
あな好き作家No.1といえば!
井上洋介さんのあな絵本を
忘れるわけにはいきません。

半世紀以上も昔、すでに
「絵本アナボコ氏の生活と意見」という絵話を
新聞に発表されていたんですからね。びっくり。

その後、20年以上の時を経て、
無上の「あな愛」が熟成され、一冊の絵本に結実しました。
一枚漫画のアイディアが詰まった
『アナボコえほん』です。

道にも、傘にも、靴にも、電柱にも、空にも、海にも……
どこもかしこも、やりたい放題、あながボコボコ。

「そらのてっぺん
 アナボコ あくと
 どしゃぶりの あめ
 ふってくる」

「でんしゃの ゆかに
 アナボコ あくと
 つりかわだけが たよりです」

あなは、ナンセンスの権化。
アナボコ好きの子どもたちを
よろこばすこと、まちがいなしです。

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アナボコえほん』新装版
井上洋介/えとぶん
フレーベル館 本体1200円+税 2008(初版は1986)


余談。

「季節感重視のweb連載なのに、
 なんで2月に『あな』?」

はい。その疑問、もっともです。
実は、最初はバレンタインつながりで、
「告白する絵本」なんてどうかなーと思ってたんです。

で、本棚を眺めながら
「あなたが好き、あなたが好き」
って、つぶやいているうちに……こんなことに!
(おまけに、バレンタインとっくに終わってるし!)

あなが好き。
あな絵本、大好き。

あな掘り絵本じゃなくて、
あな空き絵本も、いいのがたくさんあるんですけどねえ。
よろしかったら、またの機会に。

 

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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