2018年6月29日

6月のテーマは「部屋遊びの絵本」【広松由希子の今月の絵本・73】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

6月のテーマは「部屋遊びの絵本」

ザーザー降ったり、カンカン照ったり、ビュービュー吹いたり……落ち着かないお天気が続いています。部屋の中でもごきげんに、楽しく遊べる絵本を紹介しましょう。
6月のテーマは「部屋遊びの絵本」【広松由希子の今月の絵本・73】の画像1

まずは、赤ちゃんとうたいながら体をつかって遊ぶ絵本。「うた」といっても、楽譜を見ながら歌い上げるものじゃないから、音痴だって関係ないの。わらべうたのゆったりリズムにのって、唱えればいいあそびうた。0から2歳くらいまでの子どもと遊ぶのにぴったりです。

「だーるまさん だーるまさん……」で始まる、みんな知ってる「にらめっこ」のうた。小さな赤ちゃんの場合は、お母さんが。だれも見ていないから、思い切り変な顔してストレス発散して。1歳半くらいになったら、子どもも自分でいろんな顔ができるようになりますね。「おつむ てんてん みみ ひこひこ」とか、「めんめん すーすー けむしし きくらげ」とか、聞いたことないのもあるでしょう。赤ちゃんにさわったり、手足を動かしてあげたり、楽しい絵といっしょに、成長にあわせた柔軟な遊び方が書かれていて、新米ママパパも心配なし。

基本は大人の読者に書かれた本ですが、見たがるようなら子どもといっしょに見ても。大島妙子さんのあたたかくてユーモラスな絵は、赤ちゃんと遊ぶお母さんたちを、いい気持ちにさせてくれます。これがだいじ。
3歳から5歳くらいの子どもには、続編の『子どもとお母さんのあそびうたえほん』をどうぞ。

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『あかちゃんとお母さんのあそびうたえほん』 
小林衛己子/編 大島妙子/絵 のら書店 
本体1200円+税 1998

 

雨の日のたいくつは、なかよしのふたりなら、吹き飛んじゃう。チーズちゃんとポプリちゃんは、大親友。家に遊びに来たポプリちゃんを「あーら、ポプリさま いらっしゃいませ」と、出迎えるチーズちゃん。玄関からもう、ごっこ遊びは始まっています。

ワードローブは高級ブティックに。キッチンはレストランに。「ひもひもスパゲティ」とクレヨンのケーキでおもてなし。店員さん、シェフ、添乗員、冒険家……自由自在に変身しながら、空想の旅はとめどなく広がります。

やかんやソファやお風呂の蛇口など、背景に現実の室内をほのめかしつつ、魔法の絨毯で空を飛んだり、ジャングルで宝探しをしたり、空想とリアルが混在するウキウキの画面。子どもだけでなく、ママたちも、ハイテンションで空想の大冒険にふけった子ども時代に引き戻されるかも。

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『おへやだいぼうけん』 
ほりかわりまこ/作 教育画劇 
本体1100円+税 2009

 

角度を変えて、科学的な遊びはいかが? 楽しい異色の科学者、そして遊びの研究家の顔をもっていた偉大な絵本作家といえば、かこ・さとしさん。5歳は5歳なりに、8歳は8歳なりに楽しんで、力学の片鱗に触れ、親子で新鮮な気づきを得る絵本です。

用意するのは、古ハガキ1枚とはさみ。身近にある日用品だけで、ちょっと手品みたいな実験をしていきます。紙を縦ふたつに切って、本の間に橋を渡し、10円玉をのせてみると、いくつのるかな? 紙を重ねたら? 形を変えたら? かこさんの貯金箱(だるま型!)の小銭を使って、いっしょに実験し、いっしょに考えている気分になります。地味な絵なのに、子どもの思考のテンポで、どんどんめくりたくなるつくり。そうして、部屋の中の実験から、家の外、町や駅などの風景にも目を向けるように導いてくれます。

1968年の初版から半世紀、版を変えながら読み継がれているロングセラーの科学絵本。
全然難しくない、むしろごく単純。なのに、深い。遊びの原点、小さな科学者たちもここから育ちます。

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『よわいかみ つよいかたち』 
かこ・さとし/著・絵 童心社 
本体1700円+税 1988(新版)

 

最後に10年前の拙著をご紹介。『おかえりたまご』は、ゆでたまご。ちっこいくせに「いっしょに あそんだげようか」なんて、えらそうな態度。実は、部屋でるすばん中の子どもと遊ぶのが大好きな卵なんですよ。

なずなは学童クラブに通っていて、家に帰ると、ひとりです。テーブルにはいつものようにママからの「交換ノート」が置いてあり、その横に、今日はゆでたまごが置いてありました。おなかに「おかえり」の文字があるたまごが、手のひらから転げ落ちたかと思ったら……「ころころ」「にょきっ」「くるくるっ」「すたっ」
動き出して、しゃべり出して、飛んだり跳ねたり、なずなと遊びはじめたんでした。

折り紙がなくても、新聞紙やチラシがあれば、紙鉄砲や飛行機ができるし、くもった窓ガラスでは指でえかきうたができるし。なんにもなくても、空想力があれば……「へいき、へいき」

ママが帰宅するまでのひとりの時間、女の子がゆでたまごと遊ぶお話の絵本ですが、伝承遊びを中心に、いろんな遊びがつまっています。娘との実話から生まれた話。ひとりでも、親子でも、どうぞ。

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『おかえりたまご』 
ひろまつゆきこ/作 しまだ・しほ/絵 アリス館 
本体1400円+税 2008


部屋遊びの絵本はいっぱいあるけど、雨降りでごきげんななめの男の子をピッツァにしちゃう、すてきなお父さんの絵本『ピッツァぼうや』(連載その18「笑いの絵本」)のゆとりは、何度読んでもうれしくなります。

洗濯物がたまっても、部屋が散らかっても、今はそういう季節と思って、いっしょに遊んじゃうのもいいですねー。

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

Twitter https://twitter.com/yukisse
facebook https://www.facebook.com/yukiko.hiromatsu

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