2018年5月29日

連載その72 5月のテーマ「自転車の絵本」

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いい風が吹いてきました。暑からず、寒からず、花粉はないし、洗濯物は乾くし、お出かけするにも自転車日和ではありませんか。
今月は、はなうた気分で自転車絵本を選んでみましたよ。実際には出かけられない日も多いけど、五月の風の中を颯爽と駆け抜ける気持ちで、スタート!

さあ、颯爽……と、その前に? そうそう。まずはここから。『じてんしゃのれるかな』の主人公のぼくは、自転車にまだ乗れません。お父さんと練習中だけれど、このまえ転んでしまったことを思い出したりして、ちょっとこわいんです。でも「へいき へいき」どこかから声が聞こえました。だれの声? ヨロヨロフラフラ走り出し、転びそうになったら、タイヤがにゅるっとのびて……!

ブルーとオレンジを効かせた構成。シンプルで涼し気な画面の中で、ふるえる線がぬくもりを伝えます。のびたタイヤがゾウになったり、音符になったりできるのも、この画面ありき。めくるめくビジュアルの変化を楽しみながら、自転車に乗るコツをチェックしちゃいましょう。「バランス バランス」「リズム リズム」「おちついて おちついて」……

そんなこと言われてもね。現実は、そんなうまくはいかないでしょ。なんて、突っ込まれるのも、たぶん承知の上。自転車教本じゃないですからね。
まあ、乗れるときは乗れるでしょうし、乗れるまでは乗れないでしょう。いいの、いいの、ゆっくりで。練習が、ちょっと楽しくなったら御の字ね。


『じてんしゃのれるかな』 
平田利之/作 あかね書房 
本体1200円+税 2018

 

もう1冊、自転車絵本の新刊です。『じてんしゃがしゃがしゃ』って、すいすい走れるようになる前の「ほじょりん」の音なのね。ゆうたは、誕生日にお父さんから自転車を買ってもらいます。補助輪付きだからこわくない。友達のはなちゃんも、れんくんもいっしょに「がしゃがしゃ すいすい」出かけます。

でも、やがてはなちゃんもれんくんも、練習して補助輪なしになりました。ふたりはびゅんびゅん走るから、ゆうたはなかなか追いつけません。「どうして ほじょりん はずさないの?」「こわいの?」友達からよわむし呼ばわりされても、お母さんからはずしてあげると言われても、ゆうたは、はずしません。なぜって、お父さんがはずしてくれるって約束したからです。でも、お父さんは、遠くへ出張中。早く帰ってこないかな。はずしたいな……。

「ほじょりん」という、ほんのり甘く懐かしい響き。お父さんとの約束と、補助輪をはずせた日の思い出。父から息子へ、そのまた息子へ、つながっていく自転車の記憶。ノスタルジックなテーマに、リトグラフによる絵*が、しっくり。(*印刷は通常の4色分解)


『じてんしゃがしゃがしゃ』 
かさいまり/文 山本久美子/絵 絵本塾出版 
本体1400円+税 2018

 

古典絵本からも、1冊ピックアップ。『ロッタちゃんとじてんしゃ』は、「ながくつしたのピッピ」などで世界中に知られる、スウェーデンの児童文学作家リンドグレーンの作です。翻訳にちょっと古風な言い回しがありますが、そんなところも親子で面白がって読めたらいいなと思います。

末っ子のロッタは、もうすぐ5歳。お兄ちゃんやお姉ちゃんと、なんでもおんなじにできないと不満です。自転車に乗れないのは、自分が三輪車しか持っていないからだと信じています。「あたいだって、ほんとに のれるんだから。ひみつ(・・・だけど!」そして、こっそりおそろしい計画を立てました。「あたいの たんじょうびに、もし ほんとうの じてんしゃが もらえなかったら、あたい、一だい かっぱらうつもりよーひみつ(・・・でね!」ロッタは、ついにお隣の物置から、大人用の自転車を引っ張り出すことに成功したのですが……?

おそるべき計画力と実行力、とんでもない意地っ張り力の、なかなか手強い子どもです。でも、背伸びして大きい兄姉のまねっこをしているうちに、本当にできるようになることもあるものね。

わがまま放題でもいい目にあったり、痛い目にあって挫折したと思ったら、やっぱりうまくいって調子に乗ったり、予想をくつがえす展開。道徳で読者を縛り付けたりしない、子どもの気持ちで楽しめるゆかいなお話は、さすがリンドグレーンです。ロッタの5歳の誕生日は、最低になるかと思いきや、なかなかどうして素敵な誕生日になったのでした。


『ロッタちゃんとじてんしゃ』 
リンドグレーン/作 ヴィークランド/絵 やまむろしずか/訳 偕成社 
本体1600円+税 1976

 

乗りこなせるようになるまでは、泣き笑い、事件も巻きおこす自転車ですが、風を切ってすいすい乗れるようになったら、気持ちいい。『チリとチリリ』を読めば、心地よい森の朝の空気を胸に吸い込んで、遠出のサイクリングも味わえますよ。

「チリ チリリ チリ チリリ」自転車に乗るふたごのチリとチリリ(完璧なネーミング!)といっしょにペダルをこいで、まずは森の喫茶店へ。どんぐりコーヒーと、れんげティーでひとやすみ。またこいでこいで、でこぼこ道を過ぎると、今度は森のサンドイッチ屋さんへ。自然派のふこふこパンとジャムの相性がいかにもおいしそう。くるみパンのいちごジャムサンドにする? にんじんパンのゆずジャムサンドを買ったのは、だあれ? 水浴びをしたり、昼寝をしたり、日が暮れる頃にたどり着いたのは……なんて満ち足りた、幸せな1日。

第1作の本書が出てから、早15年。自転車が大好きなふたごは、海へ行ったり、町へ行ったり、雪の中へも出かけたり。「チリ チリリ チリ チリリ」のリズムが口について、やみつきになる自転車絵本シリーズです。


『チリとチリリ』 
どいかや/作 アリス館 
本体1200円+税 2003

・・・・・

自転車に乗れるようになった日のこと、おぼえていますか? わたしは、もうずいぶん大きくなっていました。はじめて買ってもらった自転車の色は、淡いグリーンで、大人になっても乗れるような、よくばりなサイズでした。いったん乗れるようになったら、乗れない頃が懐かしい気がしますね。

乗れても、乗れなくても、晴れでも、雨でも、親子で楽しめる自転車絵本をどうぞ。 

 

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『はしれ、トト!』(日本絵本賞翻訳絵本賞、いずれも文化出版局)、『ローラとつくる あなたのせかい』(BL出版)など。「MOE」本誌でも、世界の絵本を紹介中。

web連載「広松由希子の今月の絵本」

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