8月のテーマは「ありの絵本」【広松由希子の今月の絵本・10】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
8月のテーマは「ありの絵本」
地面にじっとしゃがみ込んでいる子ども。
なにかと思ったら、ありの行列を見ているのね。
ああ、わたしも見てたなあ、昔。面白かったもんなあ。
最近は、そんな無心な時間はほとんどなくなっちゃったけど、
子どもといっしょに、あのゆかいでぜいたくな時間を過ごせる
「あり絵本」なら、ほら、こんなにあります。
どこに行くのかな。
なにを運んでいるのかな。
ひょっと列を乱したら、どうなるかな……と、いたずら心も浮かんだり。
あり行列に見入る気持ちが、そっくり絵本になったのが、これ。
『ありさん どうぞ』です。
穴から次々出てきたありたちが、
一列になって歩き出します。
ぷちぷち黒い頭と胴、六本足に触角。
みんな同じようでいて、大きさや表情に微妙なちがいが。
ページからページへ、目と指でたどってください。
行儀のよい列は、ずっとつながっていくんです。
途中、障害物にあわてたり、
また元に戻って整列したり、
あり観察の臨場感、たっぷり。
行き着く先に、にっこり。
『ありさん どうぞ』
中村牧江/作 林健造/絵
大日本図書 定価1260円 2009
『ありの あちち』の舞台は、家の中。
「なんだか おいしいものが ありそうだ」
と、一匹でテーブルにはいのぼります。
子どもが好きなおいしいものも、あちちにとっては、
「つるつる きいろい すべりだい」
になったり、
「からくて まずくて げー げー げー」
だったり。
小さくてなんにも知らないあちちから
小さい子どもたちは、目が離せません。
「しゅう しゅう いうのは なんだろう」
だなんて、もう!
あちちってば、そっちに行ったらあぶないよー。
「あっちっちー」
……ほら、いわんこっちゃない。
あちちといっしょに、味覚と触覚で台所を冒険して。
『ありの あちち』
つちはしとしこ/作
福音館書店 定価735円 1998
1匹だと無力でも、
集まれば、意外な強さを発揮するありたち。
『ありとすいか』では、夏の昼下がり、
大きなスイカを見つけたありたちが
力を合わせ、知恵を寄せ合い、がんばります。
特色インキによる夏色のまぶしさ。
どっしり大きなスイカに、
ちょこまか小さなありたちのコントラスト。
細い手足に赤いブーツのありたちが、
わいわい生き生き動く様子は、見ているだけでうれしくなります。
巣穴の断面図もありますよー。
いい汗かいて、みんなで満腹!
さらに残りの皮まで使って、夏満喫の絵本です。
『ありとすいか』
たむらしげる/作
ポプラ社 定価1365円 2002
ありの群れは楽しい。
でも、時に恐ろしい……?
甘い匂いをかぎつけると、どこからともなくやってきて
悪さをする彼らの「邪な顔」を
面白おかしく、みごとに描き出したのが
『ありんこぐんだん わはははははは』です。
「おさとうこぼしちゃいけないよ
ひとつぶだっていけないよ
なぜなら……」
「わはははははははははは」
轟く笑い声とともに、ぞろぞろぞろぞろ現れる
軍団のしつこさときたら!
ジャングルジムのてっぺんだろうが、お風呂や押し入れの中だろうが、
そんな馬鹿な、まさかの場所まで、追いかけてきます。
読者の子どもたちの想像の上を行き、たたみかけるおかしさは、天下一品!
『ありんこぐんだん わはははははは』
武田美穂/作 理論社
定価1050円 2002
みんなが大好きなありんこの絵本は、名作がいっぱい。
今年出たばかりの『アリのおでかけ』(西村敏雄作 白泉社)は赤ちゃんから。
大きい人には、オールズバーグの『2ひきのいけないアリ』(村上春樹訳 あすなろ書房)も、おすすめですよ。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
web連載「広松由希子の今月の絵本」
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