2017年10月27日

10月のテーマは「やすむ絵本」【広松由希子の今月の絵本・66】

絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!

10月のテーマは「やすむ絵本」

先月は、潜ったり 飛んだり サプライズの嵐のような毎日で、よろよろのへとへと。 ひと月お休みしてしまいました。ごめんなさい。 潜っても飛んでも、にっちもさっちもいかないときは、休むしかないなあ……と、ぐったりしているときに、グッドタイミングな新刊絵本が続けて届きました。 身も心もほぐしてくれるような「やすむ絵本」をシェアします。 10月のテーマは「やすむ絵本」【広松由希子の今月の絵本・66】の画像1 まずは「コドモエ」から生まれた絵本、『やすんでいいよ』を読みましょう。 なんともじんわりありがたいタイトルではありませんか。 キツネが宙に「指」を差し出し、声をかけます。 「とんぼさん とんぼさん やすんで いいよ」 トンボは指にとまって「やあ らくちん らくちん」 ちょうちょにもリスにも、ぴったりのお休み処を提供しては「らくちん」させてあげます。 みんながくつろぐ「らくちん」な表情につられて、ほっと力が抜けちゃう。 体をはって頑張るキツネにも、最高のごほうびが待ってますよ。 毎日なかなか頑張っている子どもにも、大人にも。 お互いに「やすんでいいよ」と読みあって、いっしょにくつろげたらいいですねー。 10月のテーマは「やすむ絵本」【広松由希子の今月の絵本・66】の画像2 『やすんでいいよ』  おくはらゆめ/作 白泉社  本体880円+税 2017

 

親子で体を動かして、のびのびほぐしたい人には、こちらがおすすめ。 ちょっとめずらしい、子どものためのヨガ絵本『きみはライオン!』です。 朝の光が満ちてくる庭で、深呼吸。読者にお手本を見せてくれるインストラクターは、髪の色も肌の色もさまざまな子どもたちです。 まずは幼い男の子が 「きちんと すわって りょうてを ひざに おおきく くちを あけ したを だす!」 「そしたら きみは……」 ヨガのポーズをとりながら、いろんな動物になりきって。 ジャングルの百獣の王にも、そよ風にのってとぶちょうにもなれる。 いっしょにまねして遊びながら、親子で気持ちよくリラックスしましょう。 作者のユ・テウンは韓国生まれアメリカ在住。『きんぎょ』や『かさの女王さま』などで日本でも知られる人気絵本作家です。 かわいくもしっかりした子どもたちの造形、ぬくもりの伝わる木版画が、眺める目もほぐしてくれます。 10月のテーマは「やすむ絵本」【広松由希子の今月の絵本・66】の画像3 『きみはライオン! たのしいヨガのポーズ』 ユ・テウン/作 竹下文子/訳 偕成社  本体1500円+税 2017

 

寒くなってくると、ついついうとうとしてしまうのは、自然の摂理。 体の動きも、頭の動きもにぶくなって、「ねむたい」しか考えられなくなってしまう。 寝てる場合じゃないのに……とあらがわずに、もうこの幸せに身を任せちゃおう。 そう素直に思えてしまうのが『ねむたいひとたち』です。 目はつぶったまま、にんまり微笑みを浮かべ、寝落ちる寸前の「ねむたがりかぞく」。 寝る前の夜食をもぐもぐするうちに、ねむたい子どもたちは、とろんとろん。 ねむたい父さんは寝息をたてて、ねむたい母さんは最後の意識で、ねむたいねむたい「ねむりうた」を歌います。 『作家』『画家』『ブルッキーのひつじ』や『ゴールディーのお人形』など、小さな造本に大きな人生哲学がこもる絵本で知られるゴフスタインの、あどけなくシンプルな掌サイズの本。 「ねむってる、おつきさまがねむってる ふわふわの くもにだかれて……」 口ずさみながら、めくりながら、こっくりこっくり、船をこぎだす。 うーん、これは最強のこもりうた、最強のおやすみ絵本かもしれません。 10月のテーマは「やすむ絵本」【広松由希子の今月の絵本・66】の画像4 『ねむたいひとたち』 M. B. ゴフスタイン/作 谷川俊太郎/訳  あすなろ書房  本体800円+税 2017

 

それでもまだ、しぶとく寝つけない人がいたら、いっしょに夢のなかを散歩しませんか。 本棚から、奇妙な名作『とらのゆめ』を引っ張り出してきましたよ。 「ぐう ぐう ぐう」 白い箱の中で眠っているように見えたトラのとらきちが、ぐんにゃりメタモルフォーゼして、自分の夢の世界へ出ていきます。 池で遊んで、びしょぬれになり、おひさまに照らされて、だるまに返信したり……おお、脳が弛緩してきた。 どこからどこまで夢か現か。どこまでがトラで、どこからが自分の夢か。 タイガー立石さんは20世紀後半に世界的に活躍したアーティスト。 『はてなし世界の入口』や『さかさまさかさ』などの不思議な絵本でも知られていますね。 緑がかった砂漠。青い影。黄色い空。 予測不能なシュールな光景と、繰り返される「ぐう ぐう ぐう」。 もとは1984年に描かれた絵本ですが、いつ読んでも、レム睡眠の心地に入り込めます……むにゃむにゃ。 10月のテーマは「やすむ絵本」【広松由希子の今月の絵本・66】の画像5 『とらのゆめ』  タイガー立石/作・絵 ビリケン出版(復刊)  本体1600円+税 2008

 


夢心地をもっと味わいたい人には、その名も『レム 夢の旅』(イシュトバン・バンニャイ/作 翔泳社 1997)なんて絵本もおすすめ。 脳がぐるぐるして、眠れなくなるかもしれないけれど。 おひるねが足りない人には、『どこで おひるね しようかな』(きしだえりこ/作 やまわきゆりこ/絵 福音館書店 1996)ですこやかな幸せを。 いろんな「やすむ絵本」がありますねー。 こんな「ひとやすみの絵本」(連載その22)も、どうぞ。

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo

web連載「広松由希子の今月の絵本」

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