2017年7月13日

連載その64 今月のテーマ「もぐる絵本」

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うーん、頭が煮えたぎる。
暑くてやってらんない! けど、逃げ場がない。
外に逃げられないなら……そうだ。もぐればいいじゃん! と思いつきました。

いやはや、我ながら末期的な発想ですが、「もぐる絵本」って意外と効き目あるかも、です。

まずは、どぼーんと海にもぐっちゃえ。
泳げなくても、潜水艦があります。
海がなくても、布団があります。
絵本『しんかいたんけん!マリンスノー』が、あなたを深海にいざないます。

兄と弟が布団に並んで、寝る前の作戦会議。
「いくぞ! せーの!」で布団をかぶると、そこはもう「深海探査艇マリンスノー」のなか。
「ちゃくすい かんりょう。」「せんこう かいし!」
プロフェッショナルなセリフが気分を盛り上げます。

明るい青い海からどんどんもぐって、だんだん黒く、光の届かない深海へ。
海の色が変わるにつれ、海中の豊かな生き物たちも、見慣れた魚から、ふしぎな姿の深海魚へ。
ギョッと現れるメガマウス。あちらに光るはシーラカンス。
鯨の骨に群がる「げいこつせいぶつぐんしゅう」なんてマニアックなやつらも、少年たちの冒険心をくすぐります。

危機一髪、巨大生物のスペクタクルにドキドキ。
暑さも忘れる深海大冒険。
ゆっくり深くフェードアウトする終わりは、安眠を誘います。


『しんかいたんけん!マリンスノー』
山本孝/作 小峰書店
本体1400円+税 2015

 

砂にだって、もぐります。

『かわをむきかけた サトモちゃん』の主人公は、里芋。
もぐり仲間のサツマサくんと、ジャガボーくんといっしょにやる「もぐりっこ」が大好きです。

ところが、近頃気になる事件が。
家のポストに怪文書?? へんな手紙が届くのです。
「じつは、あなたは キウイです。」って。

サトモちゃんは、びっくりして、近所のお野菜たちにたずねます。
「ねぇねぇ、ゴボジくん。サトモって さといもよねぇ」
誰に聞いても、鏡を見ても、信じられなくなってくるサトモちゃん。

アイデンティティの危機? 
このもやもやを解消するには、どうしたら?
思い切って、ちがうグループのキウイのウイちゃんに会いに行くのですが、
甘くていいにおいの彼らに笑われてしまうサトモちゃん。
自ら痛い思いをして「かわをむきかけた」理由とは?

葛藤の末、「もぐる」ことで突き抜ける、新しい自我の目覚め。小さな脱皮。
もぐるって深い!
ユニークな設定を楽しみながら、里芋の女の子に感情移入させられます。

絵本デビュー作のえぐちさんの文を弾けさせているのは、織茂さんの切り絵。
ナンセンスを包み込み、表情豊かに、パワフルに、土くさい野菜たちが生き生き躍動しています。


『かわをむきかけたサトモちゃん』
えぐちよしこ/文 織茂恭子/絵
アリス館 本体1400円+税 2017

 

もぐりの専門家といえば、もぐらでしょ。
もぐら絵本にもいろいろ味わい深いものがありますが、
今回は『もぐらバス』に乗って、らくちん地下の旅へごいっしょに。
「ピタゴラスイッチ」の制作者コンビが送る、お楽しみのツボをつつく人気絵本です。

ある町の地面の下に、人知れずもうひとつの町がありました。
もぐらの建設会社が掘ったという、ぐねぐねトンネルでつながる町。
そのトンネルを行ったり来たりしているのが、もぐらバスです。

プップー「つぎは ものおきのした 1ちょうめ」
もぐらの運転手さんがアナウンス。乗客も家ねずみやかえるなど、日陰者のみなさん。
運賃は1回1円です。

身近でのどかな楽しさが本全体に漂います。
キキキーッと急ブレーキの事故にあっても、乗客は目くじらたてたりしませんよ。
「たけのこじゃ しかたない」「たけのこじゃ しかたない」と口々に。

いいな、いいな。
地上ではせせこましく動いていても、地下にもぐれば、こんなおっとりした世界があるって、想像しただけで和みます。


『もぐらバス』
佐藤雅彦+うちのますみ/作
偕成社 本体1000円+税 2010

 

土の中のもぐらの気持ちになったところで、ちょっと変わった縦開きの絵本『うえにはなあに したにはなあに』を開きましょう。
「もし きみが もぐらだったら あたまの うえには なにが ある?」という問いから始まります。

ページを下にめくっていきながら、視線を上へ上へと追っていきます。
もぐらの頭の上にあるのは、土。その上には、根っこがある。その上には、草があって……
だんだん高く、地上から離れてちょうちょになって、木の上へ……それから、それから?

あれ、もぐる絵本じゃなくて、のぼる絵本じゃないの? 
はい、真ん中までは。
高く高く、月までのぼったところで、今度はぐるりと絵本の向きを変えて、下りてくるのです。

月の下の雲、雲の下の海……上へ上へとめくりながら、ずんずん海をもぐっていきますよ。
行き着くのは、どこ?

めくって、めくって、どんどんめくって、のぼって、のぼって、もぐって、もぐって……
天も地も海も、居ながらにして、地球をまるごと感じられる、スケールの大きい絵本です。


『うえにはなあに したにはなあに』
ローラ M. シェーファー/作 バーバラ・バッシュ/絵
木坂涼/訳 福音館書店 本体1400円 2008

 

・・・・・・
深く深く「もぐる絵本」といえば、この春出会った”MAGMA BOY”は、すごかった。
絵本の奇才、ブラジルのホジェル・メロと韓国のカン・ウヒョンの国境を超えた合作です。
ヘニョン(韓国の海女さん)と、セレイア(ポルトガル語で人魚)と、地球の真ん中でひとりぼっちなマグマボーイの話。
(「MOE」2017年8月号でも紹介しているので、興味のある人は見てみて)

もぐる絵本は、時に自分と向き合う力をくれます。

でも、もぐってももぐっても、どうしようもないときは、
ふとんにもぐって寝ちゃうのがいいね。
(今はガーゼのブランケットがお気に入り)

広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『はしれ、トト!』(日本絵本賞翻訳絵本賞、いずれも文化出版局)、『ローラとつくる あなたのせかい』(BL出版)など。「MOE」本誌でも、世界の絵本を紹介中。
http://www.y-poche.com/

web連載「広松由希子の今月の絵本」

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