5月のテーマは「ぼうしの絵本」【広松由希子の今月の絵本・7】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
5月のテーマは「ぼうしの絵本」
すごく好きな子もいれば、嫌いな子もいて。
いつもかぶっていたい、大好きな時期もあれば、
かぶせても、ぽいっと捨てちゃう、嫌いな時期もあるようで。
ぼうしって、おもしろい。
頭に何かかぶるって、隠れたり、他のものになったりするような、
特別な感じがあるものね。
「ぼうしの絵本」に、子どもを引きつける名作が多いのも、うなずけます。
まずは、赤ちゃんからうれしい『ぼうし』。
中川ひろたかさんの文に、荒井良二さんの絵。
シンプル至極な24ページ。
青いぼうしがとことこ歩いていくよ。
だれかと思ったら
「あっ わにちゃん」
赤いぼうしは、ぴょんぴょん。
白いぼうしは、するする。
ページをめくると、ぼうしの下から、動物たちが顔を見せます。
ぼうしで遊ぶ「いないいない ばあ」みたいな感じですね。
小さな人の笑顔が見える、2拍子リズムの絵本。
『ぼうし』
中川ひろたか 荒井良二/絵
偕成社 定価840円 2000
さて、とびきりのもう1冊。こちらも『ぼうし』ですよ。
「ももたろうが おびしめて」
「たちをはき」
「はちまきをして」
「ぼうしをかぶり」
「あなた いつまで かぶっているの」
元祖『いないいないばあ』の画家、瀬川康男さんの創作絵本です。
桃太郎や金太郎、弁慶だって、みーんなぼうしが好きなのね?
弁慶がだれだか知らなくても、この繰り返されるリズムと問い、
ぼうしを目深にかぶった様子が、子どもの笑いを誘うみたい。
信濃の山間に移り住んだ瀬川さんが、
村の子どもたちに「揉みくちゃにされながら」遊んだ体験から生まれた絵本。
たくらみのない、大らかな筆致の絵に、ほれぼれ。
でもよく見ると、表紙、見返し、白描の装飾文様まで、
小さないのちが息づいているのがわかります。
読めば読むほど味わい深い、一生の宝物にしたい逸品です。
『ぼうし』
瀬川康男/作
福音館書店 定価1365円 1987
絵本の中のぼうし好き。
枚挙にいとまがありませんが……この人を忘れちゃいけません。
デンマークからやってきた『イエペは ぼうしが だいすき』!
3歳のくせに、ぼうしを100こも持っているんですからね。
でも、一番のお気に入りは、ちょっと大きめの茶色のソフト帽。
保育園で遊ぶときも、お弁当の時間も、お話を聞くときも、
いつもこのぼうしをかぶっています。
これがなくちゃ、元気が出ません。
ライナスの毛布のように肌身離さず、なくてはならない、体の一部みたいなもの。
生き生きした写真絵本で、コペンハーゲンの子どもが、ぎゅっと身近に感じられます。
初版は1978年ですが、ひと昔前の北欧の雰囲気もすてき♪
『イエペは ぼうしが だいすき』
石亀泰郎/写真
文化出版局 定価1365円 1978
最後にひと味変わった、偏愛ぼうし絵本を。
『おさるとぼうしうり』の主人公は、ぼうしの行商人。
立派な口ひげに蝶ネクタイの身なりで、背筋をしゃんと伸ばして歩きます。
いえ、しゃんとしなければいけないわけがあるのでした。
品物を背中にかついだり、手にぶら下げたりせずに、全部頭にのせて売るんです。
まず自分のチェックのハンチングをかぶり、その上にグレー、茶色、空色、
そして赤のぼうしを、それぞれ4つずつ、なんと全部で17こ!
「ぼうし、ぼうし、ひとつ50えん!」
ある日、ぼうし売りが頭にぼうしをのせたまま木の下で昼寝をしていた隙に
事件は起きました。
目を覚ますと、売りもののぼうしがそっくりなくなっています。
見上げると……壮観!
「えだというえだに、おさるがいました。
そして、おさるというおさるが、ぼうしを かぶっていましたーーー」
ぼうし売り vs 16匹のおさるたち! 勝負の行方は?
1940年でアメリカで誕生して以来、少しも古びず、
ユニークなおかしみを、たたえ続けている絵本です。
『おさるとぼうしうり』
エズフィール・スロボドキーナ/作 まつおか きょうこ/訳
福音館書店 定価1155円 2000
井上洋介さんの極上ナンセンス絵本
『ぼうし』(イーストプレス 「こどもMOE」vol.1に紹介)や、
ハリネズミが頭から取れなくなった手袋を「ぼうしだ」と言い張る
『ぼうし』(ほるぷ出版)などなど、ゆかいな「ぼうし絵本」は、まだまだいっぱい。
日差しが強くなる季節、お気に入りのぼうし絵本を見つけて、
親子でもっとぼうし好きになっちゃいましょう。
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
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