2022年10月13日

「しんごろうもち」に「味ぶかし」。米三昧の食卓をご紹介【柏木智帆さんちの食卓・1/我が家のごはん日記】

 忙しいママにとって、日々の家事の中で悩ましいのがごはんのこと。適度に手を抜きたいけれど、家族には栄養のあるものをバランスよく食べてもらいたい。では、食にかかわるお仕事をしているママたちは、家族のごはんをどうしているの? 

今月の担当はお米ライターの柏木智帆さん。米農家のご主人、3歳の娘さんと3人暮らしで、福島・会津地方で「米文化の再興」と「米消費アップ」をテーマに活動しています。

柏木智帆さんちの食卓 #week1

こんにちは。お米ライターの柏木智帆と申します。その名の通り、お米の専門ライターです。

3歳になったばかりの娘と夫の3人暮らしで、夫は稲作農家と木こりの二足のわらじ。福島県の会津地方で田んぼと磐梯山を眺めながら田舎暮らしを楽しんでいます。

夫は米農家、私は米大好き、娘は小麦アレルギーということで、米三昧の食卓をつづってまいります。

 〈日曜日・昼〉

 今日はこども園がお休み。夫は稲刈りのため不在。3歳の娘と2人だけのお昼ごはんなので、せっかくならば娘が楽しめるような特別感がほしいなあと考え、一緒に「しんごろうもち」を作ることにしました。

 しんごろうもちは会津地方の郷土料理。「もち」と言っても「餅」ではなく、使うのは日常的に食べている「うるち米」です。これを半殺しに搗(つ)いたものを串につけるので、有名どころで言えば中部地方山間部発祥の「五平餅」に近いイメージでしょうか。餅ほど粘りが強くないので、これなら3歳児にも安心です。

 まずは炊いたごはんをすりこぎで搗く作業。娘はすぐに飽きてしまいましたが、半殺しごはんを串につける作業は夢中になっていました。 

 先日の十五夜で楽しんだお月見団子作りの興奮冷めやらぬ娘は、しんごろうもちも小さな団子サイズに。私が「卵の大きさくらいだよ」とお手本を作って見せても、最後まで団子サイズをこだわり抜きました。周囲に迎合せず自分の意思を貫くスタイルはちょっぴりうらやましい。

 もちに塗るのは「じゅうねんみそ」。福島県では「エゴマ」を「じゅうねん」と呼びます。これをから炒りして擦ってから、味噌や砂糖などと混ぜるのが一般的なレシピです。

 ところが、近所のスーパーにじゅうねんを買いに行くと、あったのはすでに製粉されたものだけ。仕方なく購入しましたが、作ってみるとこっちのほうが圧倒的に楽! じゅうねんパウダーと味噌と甘酒を混ぜるだけであっという間に「じゅうねんみそ」が完成しました。「子どもに砂糖は必要ない」という私の強い原理主義思想によって砂糖は甘酒で代用。調味料にすらお米を使ってお米の消費を促進しようという魂胆もあります。

 「もちよりも串のほうが焦げやすい」「娘は焦げた部分を嫌がる」という2つの理由によって、焼き加減は甘めに仕上げました。

 娘は自分でつくった団子サイズをすべてたいらげ、私がつくった卵サイズも食べた後、甘い味に飽きたのか、今度はおむすびを食べていました。素敵な食べっぷり!

 なんだかおやつっぽいランチですが、たまにはいいかな。

〈月曜日・おやつ〉

 「ごんっ」

 朝ごはんの後、キッチンから鈍い音がしました。

 じいちゃんからもらったスイカが食べたくて仕方がない娘がスイカを持ち上げて床に落としていたのです。誤って落としたのか、先日のスイカ割りを思い出して、割れば食べられると思ったのか、真相はわかりませんが、午前のおやつにすることにしました。

 ウッドデッキに座ってスイカを食べ始めると、先日スーパーで買って食べたスイカよりも甘く、とにかくジューシー!

 果汁がボタボタと垂れて、娘の服は果汁まみれに。切り分けたぶんをあっという間に食べ終わりましたが、皿にたまった果汁がもったいないのでグラスに注いで“スイカジュース”に。「子どもにジュースは必要ない」という私の強い原理主義思想によって、ジュースと言えば「あまざけじゅーす(薄めた甘酒)」しか知らない娘にとって果汁のジュースは人生初。嬉しそうにちびちびと飲み干しました。

 おやつ終了の合図とも言える、私の「おいしかったね」との声かけに、「おいしかってない」と娘。これは娘が最近よく言う「もっとたべたい」という意味の言葉。追加で切り分けたぶんもすべて食べ、追加のスイカジュースもきれいに飲み干してようやく満足したのでした。

 風に揺れる黄金色の田んぼを見ながらスイカを食べていると、去りゆく夏と秋の気配が入り混じった独特の空気感を覚えます。こんな風に季節は移り変わってゆくのですね。ちなみに、ウッドデッキは夫のDIY。田んぼにせり出したデッキで稲を間近に磐梯山を眺めながらごろりとくつろげるこの場所は一番のお気に入りです。

〈月曜日・昼〉

 この日は敬老の日。じいちゃんにスイカのお礼に娘が描いた絵と豆大福を持って近所の義実家へ。2歳上のいとこに遊んでもらった後、昼頃に帰宅しました。

この日も夫は稲刈りのため不在で娘と2人だけ。冷蔵庫の中で浸漬しておいたお米を炊飯して、おむすびをこしらえて、とうもろこしを蒸しました。味噌汁は朝食の残り。お米は義兄や夫がお米を作っている「つちや農園」の「ひとめぼれ」。食べるときに海苔を巻くと手にごはん粒がつくことなく食べられます。おむすびは口の中に入れたときの「粒ほどけ」が重要なので、むすぶ時は力を入れずにふうわりと。茶碗によそって少し揺らすとごはんがまとまってきますので、手塩をつけた両手で優しく包みこんで形を整えるだけで完成。丸形ならばいとも簡単に「粒ほどけ」の良いおむすびをむすぶことができます。

魚を焼いて娘と分けようと思いましたが、そういえば2日前に酒粕漬けにしたブリをそろそろ食べてしまわねばと思い、娘は酒粕漬けは食べないだろうな……と思いつつも、ブリが心配なので焼いてしまいました。これもまた漬け床にすらお米を使ってお米の消費を促進しようという魂胆もあります。

ブリの粕漬け焼きはおむすびとの相性抜群でしたが、風味が子ども向きではないのかな。案の定、娘は魚を食べないどころか、見た目や匂いで食指が動かなかったようで触りもしませんでした。

一方で、娘は1個90gの塩むすびを3つもぺろり。90gはコンビニおむすびサイズ。3歳児ってコンビニおむすびを3つも食べられるんだなあと思うと、なぜ日本のお米の消費が上がらないのかなあなどいろいろなことが頭を巡ります。

 いつか娘と一緒に魚の粕漬けやおむすびを肴に日本酒が飲みたいな。

 〈月曜日・夜〉

 大根1本を使って「ふろふき大根」を作り、厚めにむいた皮で「大根の皮のきんぴら」を作りました。

 でも、夏大根はちょっぴり硬め。箸ですっと切れる冬大根のふろふき大根が待ち遠しいものです。娘は大根は食べませんでしたが、味噌だれをたいそう気に入り、味噌だれでごはんを4杯も食べました。

娘は「味噌だれを指でちょんとなめる→ごはんにのせてもらう」という流れの“自分ルーティン”を遵守したいようで、指でなめる前に味噌だれをごはんにのせると怒られてしまうので大変。あらゆるところに“自分ルーティン”が存在するので、うっかりしていると娘が不機嫌になってしまい、私もぐったり。娘の“自分ルーティン”を守ることで家族みんなが穏やかな日常を過ごすことができます。

娘はいくらが好物で、先日いくらの醤油漬けを作ったとき、いくらを食べ終わった後の漬け汁、通称「いくらじる」をごはんにかけておかわり三昧……という日々が数日続きました。味噌だれも娘のお気に入りごはんのおとも「タレ部門」に仲間入りです。

ごはんが進むおかずとして地味においしいのは、大根の皮のきんぴら。ポリポリコリコリとした食感とほろ苦さがクセになります。ハマると、このきんぴらが食べたいがために、ふろふき大根や大根の煮物が作りたくなるほどです。

片手で数えるほどしか食べてくれるおかずがない偏食娘ですが、彼女の好物のうちの1つがゆで卵。今日は「ゆで卵と厚揚げの煮物」を作ったので、ゆで卵を1個弱だけ食べてくれました。もうそれだけで嬉しい。

ごはんは土鍋で炊飯。三重県の萬古焼メーカー「銀峯(ぎんぽう)陶器」と東京の飲食店「懐石高野」が共同開発した「亶─sen─」がお気に入り(のうちの一つ)。

〈火曜日・昼〉

 この日は娘の予防接種のためこども園を休んだので、また娘と2人でおむすびランチ。

 前日の反省から、酒粕漬けではなく味噌漬けにしておいた鮭を焼こうと決めていました。少し焦げてしまいましたが、焦げた部分を除いてあげたら2口だけ食べてくれたのでまた作ろうかな。この日も味噌汁は朝食の残り。

 炊飯量を読み間違えておむすびが5つしか作れませんでしたが、娘はおむすび2つでごちそうさま。娘が食べたり食べなかったりと食欲にムラがあるのは、人間ならば当たり前なのでまったく気にしていません。大人のように「目の食べたさ」にだまされずに胃袋に忠実な子どもが正しい姿だよなあと思いつつ、ついつい食べてしまう私。

〈土曜日・夜〉

 お彼岸なので「味ぶかし」を作りました。

 福島県では「おこわ」のことを「おふかし」と言います。そして、五目おこわのようなおふかしを「味ぶかし」と言い、ハレの日やお盆やお彼岸などに作る家庭もあるようです。夫がお世話になっている林業会社では、なんと給料日におばちゃん(会長夫人)が従業員に味ぶかしや餅をふるまうこともあります。そんな昭和感漂う素敵な慣習をいつまでも残してほしいものです。

味ぶかしの具材は各家庭によって微妙に違いますが、基本は、人参、ごぼう、油揚げ、鶏肉、きのこ類。お盆やお彼岸は精進料理として、鶏肉は抜く家庭もあるようです。

夫は肉と魚を食べないベジタリアンなので、おばちゃんは夫用に鶏肉を抜いて作ってくれているそう。ちょうど1年ほど前、夫がおばちゃんの味ぶかしを少し持ち帰ってくれたので私も食べることができ、そのほっとする見た目と味わいに味ぶかしが大好きになりました。

その後、近所に住んでいるお母ちゃん(義母)に味ぶかしのことを聞きに行くと、「最近作ってないね」と言っていましたが、翌日朝5時過ぎに田んぼ仕事に出たはずの夫が2時間後にドタバタと帰ってきて、お母ちゃんが作った味ぶかしのおむすびを1個置いてまた仕事へ戻っていきました。

味ぶかしについておしゃべりした直後に、「しばらく作っていない」と言っていた味ぶかしをわざわざ作ってくれたことが嬉しくて、味ぶかしそのもののおいしさに別のおいしさが加わったように感じましたが、夫いわく「味ぶかしの話をしたら自分が食べたくなって作ったんだろうな」とのことで、そういうところがお母ちゃんらしくていいなあと思います(笑)。

今回作った「おふかし」の具材は、ごぼう、人参、しいたけ、油揚げの4種類。私も肉が食べられないので鶏肉はなし。ちなみに、お母ちゃんも肉が苦手なので、お母ちゃんの味ぶかしも肉なしでした。

糯米(もちごめ)の品種は「こがねもち」。ポイントは糯米を前日から冷蔵庫の中でうるかしておくこと。「うるかす」とは「水につけておく」という意味で北海道から東北までの北日本で使われている方言のようです。

味付けは、醤油、みりん、酒。糯米をふかしている間に具材を煮ておき、20分ほど経って糯米が指でつぶれるくらいになったらボウルに移し、酒をまぶしてから具材と汁を丁寧に混ぜ込み、再び20分ほどふかしたら完成です。

味ぶかしと一緒に食べるおかずの選定基準は「白飯が進まないもの」。食べていて白飯が欲しくなってしまうおかずではせっかくの味ぶかしが気の毒じゃありませんか。そんなわけで、おかずはおでん。具材は、大根、厚揚げ、じゃがいも、こんにゃく、ゆで卵、結びしらたき、餅巾着の7種類。朝のうちに仕込んでおいて、日中は冷ましておくことで味をしみこませ、食べる前に再加熱して食卓へ。娘は結び白滝と、ゆで卵だけ食べました。

ちなみに、餅巾着の餅を買い忘れたので、家にあった白玉粉(もち粉)を水で溶いて耳たぶほどのやわらかさになったものを餅代わりにしました。どんな様子になるかなとおそるおそる食べてみると、これはこれでおいしくてびっくり。じっくり煮込んでも決してどろりと溶け出さず、絶妙なとろり感をキープし続けていました。“白玉巾着”、 おすすめです。

そして、偶然にも茶色いごはんと茶色っぽいおかずの差し色になったのは、南会津町から届く野菜の定期便に入っていた立派なアスパラ。素焼きにして塩をぱらりとふるだけでじわりと甘くてジューシー。

おでんに使った大根の皮で作るきんぴらは白飯が欲しくなってしまうので、翌日のおかず要員に。大根の皮の水分が飛ばないようにラップに包んで冷蔵庫に保存しておきます。

日本酒に合う最高の夕食となりましたが、翌日のおでんのほうが味がしみておいしい。やはりおでんは2日目ですね。

柏木智帆
かしわぎちほ/お米ライター。元神奈川新聞記者を経て福島県の米農家に嫁ぎ、夫と娘と共に田んぼに触れる生活を送っている。年間200種以上の米を試食、その可能性を追究し続ける人呼んで「米ヘンタイ」。「お米を中心とした日本の食文化の再興」と「お米の消費アップ」をライフワークに、お米の魅力を伝える活動を精力的に行っている。娘のお弁当生活が始まり「茶色いお弁当」のおいしさを伝えるべく奮闘中。今後は米食を通した食育にも目を向けている。

Instagram: @chiho_kashiwagi
Blog「柏木智帆のお米ときどきなんちゃら」: https://chihogohan.hatenablog.com/

連載中
お米ライターが探る世界と日本のコメ事情」(Forbes Japan)
「お米偏愛主義論」(論座)

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