『王さまのお菓子』【親子の読み聞かせに。今日の絵本だより 第340回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子の読み聞かせにこんな絵本はいかがですか。
『王さまのお菓子』
石井睦美/文 くらはしれい/絵 世界文化社 1650円
1月6日(一部の国は8日)は、エピファニー。
12月25日に降誕したイエスのもとに、東方の三博士が礼物を携えて参じた公現祭の日です。
フランスでこのエピファニーのお祝いに食べられるのが、アーモンドクリームのたっぷりつまったパイ、「ガレット・デ・ロワ」、訳すと「王さまのお菓子」。
「王さまのお菓子」の中には「フェーヴ」と呼ばれる小さな陶器がひとつ忍ばせてあって、切り分けた中からフェーヴ入りのピースを引き当てた人が、紙製の金の王冠をかぶってその年の王様や女王様になり、一年間の幸福が約束されるのです。
『王さまのお菓子』の主人公、金髪にエプロンドレス姿のミリーは、小さなお人形のフェーヴ。
ミリーが入っている「王さまのお菓子」は、ブランさんのお店から、アデルさんに買われていきました。
アデルさんの家には、男の子の兄弟と、ママの具合が悪い間預けられている、さびしげな女の子がいます。
「そのおじょうちゃんに、フェーヴが あたりますように」
というブランさんの言葉が、アデルさんの家にむかう間も、ミリーの胸から離れません。
「それって、わたしが その子を しあわせにするって いうことかしら。
そんなことが わたしにできるのかしら。」
わからないけれど、少しでもその女の子、ベルがさびしくないように、そばにいたいとミリーは思いました。
「――どうか ベルに あたりますように。」
「王さまのお菓子」の中から、ミリーは祈り続けます。
そして、いよいよ夕食後のお楽しみの時間。
「王さまのお菓子」が切り分けられ、ミリーの入ったピースを引き当てたのは……。
パイの中の小さなお人形の、精一杯の祈りがもたらした幸福。
ぜひ皆さんも絵本を開いて、確かめてください。
優しさと静謐な美しさに満ちた、新年にふさわしいこの絵本は、第55回造本装幀コンクール出版文化産業振興財団賞、第15回MOE絵本屋さん大賞第23位も受賞しています。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。