『ハリネズミと金貨』【今日の絵本だより 第281回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『ハリネズミと金貨』
V.オルロフ/原作 田中潔/文 V.オリシヴァング/絵 偕成社 1540円
ロシアのウクライナへの侵攻が始まって以来、何かこの場でご紹介できる絵本はないかと考えてきました。
戦争についての絵本は、良書がたくさんあります。
実体験を描いたもの、なぜ争いが起こるかを考えるもの。
ただ、自分が子どもだったとしたら、今そういう絵本を読んでもらっても、目の前のニュースの映像に、
「じゃあ、どうしたら一体この戦争は終わるの?」
という疑問が消えないと思います。
本当に、平和を学ぶのは平和なときでないとダメなんだと痛感しました。
今、多くの書店の絵本売場では、ウクライナ民話の『てぶくろ』とロシア民話の『おおきなかぶ』が並べられています。
今回ご紹介する『ハリネズミと金貨』は表紙に「ロシアのお話」とありますが、原作者のウラジーミル・オルロフは、ソ連時代にロシアからウクライナへと帰属が変わった、クリミア地方で活動した児童文学作家です。
ハリネズミのおじいさんが、森の道で金貨を見つけました。
その金貨で、冬ごもりのための干しキノコを買おうとしてあちこち探しますが、どこにも売っていません。
ちょうど通りかかった木のうろからリスに声をかけられ、おしゃべりをすると、リスはたくさんあった自前の干しキノコをわけてくれ、かわりにその金貨で靴を新調するといいと言いました。
おじいさんが靴屋を探していると、今度は道で出会ったカラスがドングリの実で靴を作ってくれ、かわりにその金貨であったかい靴下を買うといいと言いました。
それからも、出会った仲間が次々に冬ごもりに必要なものをわけてくれて、おじいさんは金貨の使い道がなくなり……。
昔話のような安心するお話運びもよいのですが、私はこの本のあとがきが、心にしみる掌編のようで好きなのです。
中から一部を引用します。
「ハリネズミは拾ったお金を自分のために使おうとしますが、それは他ならぬ自分自身がだれよりも援助を必要としている者だったから。もしもっと困っている者が身近にいれば、即座に金貨をさしだしたでしょう。」
「この短い作品は私たちに、社会というものの原点、人と人が寄り添って生きることの意味を思い出させてくれるのです。」
『てぶくろ』も『おおきなかぶ』も『ハリネズミと金貨』も、同じメッセージがありますね。
「みんなで仲良く、力を合わせて」。
「なぜ戦争をするの?」
という問いには、なかなかうまく答えられませんが、ロシアもウクライナも、人々の間でこんなお話が生まれて愛されてきたところなんだよ、と子どもたちに少しでも伝えられればと思います。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。