2022年3月17日

『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン!』【今日の絵本だより 第280回】

kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。

『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン!』【今日の絵本だより 第280回】の画像1『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン!』
多屋光孫/文・絵 合同出版 1980

発売中のkodomoe4月号連載「だいすけお兄さんのパパシュギョー!」では、(公財)共用品推進機構の星川安之さんに、これからの共生社会について、だいすけお兄さんと対談していただきました。
今回はその取材時に見せていただいた、バリアフリーを考える絵本をご紹介します。
『めねぎのうえんのガ・ガ・ガーン!』は、静岡のめねぎ農園での実話からできた作品です。

めねぎは、芽が出て間もない細いねぎ。
柔らかい食感、さわやかな香りと辛味で、お寿司のネタにも使われる通好みの野菜です。
鈴木さんは、歴史あるめねぎ農園の13代目社長。
ある日、特別支援学校の先生が、生徒ふたりをここで働かせてもらいたいと連れてきます。
でも、めねぎの苗の植え込みは、長年の訓練による手先の技が必要な作業。
鈴木さんはそう言って、一度は断ります。

一週間後にまたやってきた先生は、
「すずきさん、これ
 つかえませんか?
と一枚の下敷きを取り出し、それを使ってさっと苗の植え込みをしてみせました。
鈴木さんは
「ガーン」。
今まで誰でもできるわけではないと思っていた作業が、下敷きを使うことで、簡単にできてしまったのです。

それから、実際にふたりに働いてもらうことになりますが、ふたりの作業は鈴木さんの期待したようには進みません。
でも先生にそれを伝えると、
「ガ・ガーン」。
ほんの少しの言葉の工夫で、作業はみるみるスムーズに進むようになります。
それからも、
「ガ・ガ・ガーン」、
鈴木さんにとって目からうろこの衝撃は、まだ続きます。
そして、鈴木さんは思いました。
「『ひとを しごとに』
 あわせるのではなく
 『しごとを ひとに』
 あわせればいいんじゃないか?

障害がテーマの絵本としては、一風変わったこのタイトル。
でも読み終えると、まさに
「ガ・ガ・ガーン!」
のフレーズがぴったりで、心地よいのです。
決しておしつけがましくなく、お話がシンプルに楽しいのもよいところ。
モデルになった静岡の農園、京丸園の鈴木厚志さんは、あとがきにこう書いています。
「ちょっとしたことがきっかけで、いまの自分や世界がクルッと変わることがあるかもしれないのです。みなさんにも、自分の思い込みを変えるようなたくさんの『ガーン!』が訪れることを願っています。」
この絵本と子どものうちに出会えたら、きっと柔らかい心と頭になるだろうなあと、それがうらやましくなるくらい、おすすめの一冊です。

 

選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。

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