『あかいてぶくろ』【今日の絵本だより 第273回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『あかいてぶくろ』
林木林/文 岡田千晶/絵 小峰書店 1760円
前回は、2月10日の「ニットの日」にちなんで、いりやまさとしさんの『あかい てぶくろ』(講談社 2020年刊)をご紹介しました。
今回はそれに続けて、同じタイトルというご縁のこの本を。
昨年発売された、林木林さんの文と岡田千晶さんの絵による『あかいてぶくろ』(小峰書店 2021年刊)をご紹介します。
小さなあかいてぶくろの、みぎとひだりはいつも一緒。
ちびちゃんの手を、ふっくりふんわり包みます。
ちびちゃんが雪の玉や雪だるまを作るときは、力を合わせて手伝って。
自分たちがぬれてしまっても、
「ちいさな てが つめたくないように、
あしたも ふわふわで いてあげようね。」
と、毎晩ストーブのそばに並んで約束するのでした。
ところがある日、ちびちゃんは、みぎのてぶくろをなくしてしまいました。
雪の森に落ちているそれを、最初に見つけたのはきつね。
「きっと、にんげんの こどもが おとしたんだろう」
と、そっと木の枝にかけておきます。
でも、吹雪で飛ばされて落ちてしまいますが、それを今度はうさぎが拾います。
いいものを見つけたと喜ばれながらも、うさぎの次はのねずみに、のねずみの次ははとに、みぎのてぶくろの持ち主はどんどん変わっていくのですが……。
思わぬ旅に出たようなみぎのてぶくろと、突然いなくなった相棒を思う、ひだりのてぶくろ。
春が近くなったある日、思わぬ再会の時がやってきます。
この一冊は普通の絵本と同じ32ページなのですが、読後はまるで、掌編の物語を読んだような心持ちに。
もちろん、物語の奥行きを立ち上がらせている、絵の力も素晴らしく。
雪の森の美しさ、静けさ、白い雪に映えるあかいてぶくろの暖かさ。
別れのせつなさの中にも、ほのかに光る新しい希望。
片方なくしたものがある子どもに、むしろ大人に、出会ってほしい一冊です。
裏表紙に切り取られた一場面も、深い余韻を心に残します。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。