2022年2月10日

『あかい てぶくろ』【今日の絵本だより 第272回】

kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。

『あかい てぶくろ』【今日の絵本だより 第272回】の画像1『あかい てぶくろ』
いりやまさとし/作 講談社 1540

210日は、ニットの日。
発売中のkodomoe2月号連載「季節の絵本ノート」ではマフラーの絵本を5冊紹介していますが、web連載のこちらでは、てぶくろを。
毛糸のてぶくろが主人公のお話、『あかい てぶくろ』をご紹介します。

冬の、ある寒い朝。
道端に片方だけ落ちていた、赤い毛糸のてぶくろ。
降りしきる雪の中、
「このままだと ゆきに うもれてしまう」
と、ゆっくり起き上がり、もう片方のてぶくろを探しに行きます。

街には大勢のてぶくろが行き交い、とてもにぎやか。
みんなお互いの相手と一緒に、楽しそうに歩いています。
昨日までは赤いてぶくろも、もう片方のてぶくろといつも一緒に、持ち主の手を温めていたのに。
「これからも ただ ずっと、そんな ひが
 つづくと しんじていました。」
悲しい思いで歩道橋から街を見下ろすと、道のむこうを赤いてぶくろが歩いていて……

大切な相手を失った大きな悲しみと、ともに過ごした日を振り返って、ひとつひとつ浮かび上がる喜びと。
お話のラストは、単純なハッピーエンドではないかもしれません。
「でも ひとつの おはなしの おわりは、
 あたらしい おはなしの はじまりでも あるのです。」
物語の答えを急いで出そうとせずに、親子でただゆっくりと味わえたら。
言葉にしきれない絵本の奥深さをまたひとつ体感できるような、これからも絵本の世界と長くおつきあいができるような、そんな予感を含んだ一冊です。

作者は、『ぴよちゃんのかくれんぼ』などの「ぴよちゃん」シリーズ(学研)や『パンダともだちたいそう』(講談社)などの「パンダたいそう」シリーズで人気の、いりやまさとしさん。
モノクロの画面の中にも温かさがにじむ、物語の余韻を大切に胸にしまっておきたくなる、味わい深い作品です。

 

選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。

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