2020年4月9日

『あかちゃんがわらうから』【今日の絵本だより 第119回】

kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。

『あかちゃんがわらうから』【今日の絵本だより 第119回】の画像1『あかちゃんがわらうから』
おーなり由子/作 ブロンズ新社 本体1400円+税

今回も前回に引き続き、先の見えない今の状況の中で、心に光が差すような絵本をご紹介します。
おーなり由子さんの『あかちゃんがわらうから』です。

柔らかくて温かなあかちゃんの姿とともに、詩のような物語は始まります。
「わたしが うれしいとき
 あかちゃんが わらう」
「わたしが かなしいとき
 あかちゃんが わらう」
「わたしが こころを
 心配事で いっぱいにしているとき
 あかちゃんがわらう」

あかちゃんを腕に抱きながら、TVに映る悲しいニュースを見て、不安にとらわれてしまうお母さん。
世界はまるでどしゃぶりのよう、未来はどこまでも灰色の雲でいっぱいのように思えて──。
そこへ、
「ぶぁっくしょん」
と、大きなへんてこなくしゃみ。
両方のハナをたらしてこちらを見上げるあかちゃんの顔を見て、我に返ります。
「そうだった──
 世界は いつだって はじまったばかり」。

次の場面は、みんなで並んでまっすぐにこちらを見つめる、たくさんの子どもたち。
「うまれてきたこどもたちは いう──
 『これから生きていく世界を ひどいと 決めつけないでよ!』
 『ぼくらを よわいと 決めつけないでよ!』」
そして、みんなで元気よく駆けだします。
「ぼくらは いっぱい あそびたい!」
「どしゃぶりのなかで うたおう!」
「がれきをけとばし おどろう!」

どんな状況であっても、子どもは決して無力ではなくて、未来は暗いなんて限らなくて。
そのまっすぐなエネルギーに、励まされているのは実は大人のほう。
これまで経験したことのない今のような状況に、不安になってしまうのは当然です。
「子どもを守らなければ」と情報を多く得るほど、胸がはち切れそうになることもあるかもしれません。
でも、数年前にはこの世に存在しなかった子どもが、今、こうして自分の目の前にいる。
世の中で最上級に、大切な存在として。
そんなたくさんの奇跡をのせて、未来はいつでもやってくる。
不安に心が震えたら、そんな未来の証を、目の前のお子さんを、ぎゅっと抱きしめてみてください。
身を守るために、今できることを続けながら、子どもの温かさを感じて、明日を信じて。

作者のおーなり由子さんを初めて知った方は、kodomoeの連載から生まれた単行本『こどもスケッチ』も、ぜひどうぞ。
まぶしい希望に満ちた、温かくて柔らかい存在の、子どもそのものの姿。
でもかわいいだけでなくて、大人にとっては時にためいきもまぜこぜの──。
子どもと暮らす日々のいろんな輝きが切りとられた、胸にしみるイラストエッセイです。

 

選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。

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