『サーベルふじん』【今日の絵本だより 第86回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『サーベルふじん』
網代幸介/作・絵 小学館 本体1500円+税
11月8日は、「いい(11)は(8)」で刃物の日。
この日にちなんだ絵本といえば……、ぴったりのものが、ありました!
西洋の刀、サーベルの貴婦人が主役の『サーベルふじん』です。
表紙を開いた扉には、夜の森に輝く三日月……かと思いきや、
「おつきさまでは ありません。
サーベルあたまの サーベルふじんです。」
もう、最初から驚きなのですが、
「きょうは みんなと
まちの はずれの ピザやで パーティーです。」
テーブルを囲む「みんな」も、なかなかに個性的(すぎ)。
そして、
「サーベルふじんは あたまで
ピザを じょうずに きりわけました。」
とくれば、もう読む側はすっかりサーベルふじんのとりこです。
働き者のサーベルふじん、切るのはピザだけではありません。
町の肉屋で、肉をザックザク。
床屋で、髪の毛をチョッキチョキ。
バリエーション豊富なワンピース姿(おしゃれ!)で、毎日毎日忙しく働きます。
そんなある日、木の枝にひっかかった友だちを助けるため、頭で枝を切ろうとしたら、なんと大事な頭に大きなひびが!
元気をなくしたサーベルふじんを、仲間のみんなが斬新なアイディアで直してくれようとします。
ところが、ああ、なんてこと……!
絵本の中には、「読むときの自分の立場で、印象が変わる作品」があると思うのですが、これもまさにその一冊ではないでしょうか。
子どもの頃、学生、社会人。
家庭を持ってから、子どもが生まれてから。
この絵本は、「昔とくらべて、何かを失った(気がする)」方に、ぐぐっと深く響く気がします。
悲しみに沈んでも、それでも自分の心の持ちようひとつで、立ち上がることはできる。
サーベルふじんのように、前の自分とは違う姿で、軽やかに舞うことだって。
サーベルあたまのふじんをはじめ、いろんな姿の人たちの仲よしな様子も、いいんです。
みんな不思議で、けれど優しく温かい。
もちろんシンプルに「なんだか変で、愉快なお話」としても、充分楽しめますよ!
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。