『はるとあき』【今日の絵本だより 第64回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『はるとあき』
斉藤倫・うきまる/作 吉田尚令/絵 小学館 本体1300円+税
7月23日は、ふみの日。
それにちなんで、前回に続けて、今回も手紙の絵本をご紹介します。
今年の5月に出た新刊、『はるとあき』です。
長い眠りから一年ぶりに目を覚ました、はる。
ふゆと交替して、数カ月間の自分の季節を過ごし、なつが交替しにやってきたら、また眠りにつきます。
だから、はるはあきに会ったことがありません。
あるとき、はるは思いつきました。
「そうだ あきに てがみを かこう」
「あき へ
はじめまして げんきですか」
書いたのは、はるがよく知る花、桜のこと。
「これを きっと わたしてね」
手紙をなつに託した、次の年。
また目を覚ましたはるに、今度はふゆが、あきからの手紙を渡してくれました。
「はる へ
はじめまして
おてがみ うれしかった」
あきが書いてくれたのは、コスモス、秋の桜のこと。
それから、はるがめだかのことを書けば、あきはきのこのことを。
はるが真っ赤ないちごのことを書けば、あきは真っ赤なかえでのことを。
お互いが見たことのない、季節の恵みを伝えながら、一年に一度の往復書簡は続きます。
会いたくても会えない、はるとあき。
反対の季節に広がる景色は、見たくても見られない。
今までも、きっとこれからも。
でも、手紙でふたりはつながっている。
手紙がお互いの心の中に、相手の声と、まだ見ぬ景色を届けてくれる。
届いた手紙を開けば、そこから思いが伝わる。
ゆっくりと心を通わせてゆく、はるとあき。
丁寧に選ばれた言葉と、柔らかく響き合う絵。
そのハーモニーに満ちたページを、自らのリズムでめくっていく。
絵本という形だからこそ広がる深い感動が、優しく読者を包みます。
いつまでも最後のページを見ていたい、温かい余韻の中で、ふと思います。
こうして新しい絵本の表紙を開くうれしさも、手紙の封を開ける喜びと、どこか似ている気がするのです。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。