2023年5月14日

娘は4万人に1人の難病 ドラベ症候群「少し大変で、すっごく幸せ」作者の剥がれ鱗さんにインタビュー

4万人に1人の難病「ドラベ症候群」の娘ぴぴちゃんと、タフな毎日を過ごす母、剥がれ鱗(はがれうろこ)さんの日常を描く連載「少し大変で、すっごく幸せ」では、ふたりの少し大変で、すっごく幸せな日常をお届けしています。
ぴぴちゃんと剥がれ鱗さんの日常や、6月23日の「ドラベ症候群の日」について、作者の剥がれ鱗さんにインタビューした過去の回を再公開。マンガとはまた違った剥がれ鱗さんが登場します!

※ドラベ症候群患者家族会が行うチャリティー活動についてはこちら。
※こちらの記事は2022年6月のインタビューを再編集して掲載しています。日付、学年や年齢などは取材当時のものです。

体温の上昇や光、模様などが
てんかん発作を誘発

娘は4万人に1人の難病 ドラベ症候群「少し大変で、すっごく幸せ」作者の剥がれ鱗さんにインタビューの画像1

ドラベ症候群の日に合わせて作られたチャリティーTシャツを着て♪(写真は2022年インタビュー当時のもの)

――毎年6月23日は「ドラベ症候群の日」なんですね。

世界各国で、ドラベ症候群の家族会が6月23日を記念日と制定していることから、日本でも同時に情報発信できるようにと、2017年に日本記念日協会(一般社団法人)によって認定、登録されたそうです。啓発活動のために「世界中のドラべ家族が一丸となって頑張る日」ですね。

――記念日に合わせて、家族会ではチャリティーTシャツを限定発売されたとか(2023年も実施)。

ドラベ症候群の啓発に何か楽しいことができないかと、ドラベ症候群の患者家族会でチャリティ活動を始めました。今回、私もSNSなどの画像の監修をさせていただきました。

――あらためて、ドラベ症候群がどんな病気かを教えてください。

ドラベ症候群は、主に乳幼児期に発症する「難治性のてんかん」です。1歳未満で最初の発作が起こり、その後も発作を繰り返したり、てんかん発作が5分以上続く「重積発作」を起こすこともたびたびあります。個人差はありますが、体温の上昇や光、特定の模様などによって発作が誘発されます。特に入浴中や入浴後、38℃台の発熱などで発作を繰り返す場合は、ドラベ症候群が疑われるそうです。

てんかん発作には、痙攣(けいれん)や意識はあるけれどボーっとするもの、身体の一部などがピクピクする短い発作……など、個人差や年齢差などで本当にさまざまなタイプがあります。
発作が長い時間続いてしまうと、脳に障害が残ったり、最悪、命を落とすこともあるので、迅速な処置が必要になります。

発作の他には、発達の遅れや運動面での不自由などがみられるのもこの病気の特徴です。
でもまだまだ認知度が低いために、なかなかその緊急性が伝わらないこともあって……。子どもたちの命を守るためにも、さらに病気の啓発活動が大切だと思っています。

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「告げられたのは、こわくて仕方なかった病名だった(第6話)」より

初めての発作は
家族での遠出中

――ぴぴちゃんの初めての発作は?

家族で遠出していた時でした。36週の早産ではありましたが、生後4か月の初めての発作のときまでは、本当に何事もなく過ごしていました。
ただ、私は身近な人にてんかんがあり、知識はあったので、ぴぴに初めての発作が起きた時も「もしかして」とは感じました。

でも私の知っているてんかんは、良性の一過性のもの。そして、当初ぴぴの場合も同じく「良性のもの、一過性でしょう」という診断でした。だから、あまり深刻には考えていなかったんですよね。
まさかこんな難儀なものだとは思ってもいなかったんです。

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「初めての発作、トリガーだらけの日常。でもいつか、この箱の外へ(第2話)」より

――連載にあった、バーコードのような規則的な並びの模様や、ドット柄、光の点滅、壁や天井の模様までもが発作の原因になる場合もあるとか? 外出は色んなものが目に入るし、とてもハードルが高いですね。

ぴぴの場合は太陽の光がまずダメでした。外に出た瞬間に抱っこ紐の中で発作を起こしているんですよね。
すぐ近くのスーパーに行くのも近所をお散歩するのも、日が暮れてからでした。
絵本の色彩や音楽番組の照明なんかでも発作を起こすから、家でも常に気を張っていて。外出時に「これはまずいかも」と思ったものの前を通り過ぎる時は、私が両手で目隠しをしていました。
サングラスをつけてみたりしたんですが、おとなしくつけていてくれなくて。「きみのためなのよぉ〜」って一所懸命説得したり。聞いちゃくれなかったですけどね(笑)。

――暑さもぴぴちゃんにとっては大敵なんですよね。

これまでの夏は、基本お家の中で過ごしてきました。カーテンを閉めてクーラーは24時間。とにかく冷やす! 無理はさせない! を徹底して夏は乗り切っていますね。
それでも体に熱がこもるのでクーリングベスト(内ポケットに保冷剤をセットできるもの)を着せて、霧吹きで直接体を濡らして冷やしたりしていました。お外に出られないから部屋の中でシャボン玉を飛ばして遊んだり。夏らしいことってあまりしてあげられないんですよね。

でも、昨年から療育園が始まって、少しお外に出る時間も増えてきました。先生たちにも見守っていただけるのはとても心強いです。「ぴぴちゃん少し熱いかも」というときは、すぐに検温して空調を調整していただいたり、園庭での活動も無理のない範囲にしていただいて、お部屋の中で休ませてもらったりです。

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「療育園に入園して1年がたちました(第17話)」より

――てんかん発作を繰り返すのが特徴のひとつとありましたが、発作を防ぐこと、起こった発作を早く止めることはどちらも大変なことですよね。

そうなんです。発熱での発作が一番重症化しやすいので、熱が出ないようにコロナ前から感染対策は頑張っていましたね。
先ほどとかぶりますが、発作が長引けば急性脳症を起こしたり、最悪、命を落としてしまうこともあります。ぴぴは発作の後、いつも激しく泣くんです。この小さな体でどれだけの苦痛と恐怖を感じているのだろうと、胸が押しつぶされそうになります。
命を守るため、そして純粋に子ども達が苦しい思いをしないように、発作は防げるものは防いであげたいし、本当に早く止めてあげなきゃって思います。

――毎週、救急車を呼んでいる時期もあったと描かれていました。

この頃は本当に毎日が修羅場でした。ニコニコ笑っていた次の瞬間には泡を吹いて倒れている。片時も目が離せませんでした。ご飯を作るのもお風呂を掃除するのも、なんならトイレに行くのも怖かった。
戻ってきたときに娘が倒れているんです。倒れたところに急いで駆け寄った際に足の指の骨を折ったこともあります。でもそんなこと構ってられないくらい娘の方が大変で。「死なないで!」って。

不定期に、でも確実に来る発作に常に用心して、薄暗い部屋の中で発作がおさまって眠るぴぴを抱きながら「明けない夜はあるのかもしれない……」と思ってたくさん泣きました。しんどかったなあ。

――お家でいるときや外出先、療育園などで発作が起きるときは、どうやって対応されているんですか?

まず第一には、かかりつけ医のそばで生活しています。遠出はもう本当に長いことしてないですね。1年に1回、実家に帰れるかどうかくらい。

発作が起きたときには、5分待って止まらなければ坐薬、そして救急要請。発作の開始から時間経過を細かくチェックして救急隊や医師に報告できるようにしています。どうしても家から離れるときには、夕方以降に発作が多い傾向があるので早めの帰宅で備えたり。

家族会でお聞きしたのは遠出の際にかかれる病院を事前にチェックしておくのも大切だということ。
でも、2020年12月に発売された「ブコラム」というお薬により行動範囲が広がったというご家族のお話も聞きます。残念ながらぴぴはブコラムが効きづらいだろうということでまだ発作時は坐薬でしのいでいるのですが。でも、こういったお話を聞くと道は開けてきているんだって思えます。ぴぴと温泉旅行いってみたいなーーーーーーーー!

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先輩ママの言葉は
私の希望

――ドラベ症候群のお子さんがいるご家庭では、お子さんに付きっきりであるために自由な時間を持てなかったり、就業に制限がかかったりすることも考えられるのですが、いかがでしょうか。

子どもが小さいうちは自由な時間っていうのは難しいかもしれないですね。小学校に上がって少し発作が落ち着いてくると学校の他にも放課後デイサービスを利用して少しひとり時間が持てるようになるよ、っていう先輩ママの言葉は、私の今の希望です。

今は本当につきっきりですねー。就労に関しても、辞めてしまったり、キャリアを諦めたママも多いって聞きます。仕事に出ても発作が出れば仕事は休んだり早退しなければいけない。そんな事情がある中で、そもそも雇用してもらえるのだろうかが、皆さんの悩むところだと思います。

でも先日、ご夫婦で力を合わせて育児を分担して、フルタイムで働いてる先輩ドラべママのお話を聞ける機会があって。すごーくエネルギーをもらえたんですよね。
私はシングルマザーなので、なかなか家族にサポートしてもらうことは難しいけれど、何かやり方があるかもしれないって。諦めずに自分ができる働き方を模索していってやろうと思っています!

――今の剥がれ鱗さんの、ひとり時間の過ごし方は?

学生時代の友人との通話と、無心に啜るラーメンです(笑)。
あとはカフェにコーヒー飲みにいったり。ほっと一息つく時間って、本当に大事です。

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「デイサービスでの楽しかった1日が、ひと目で分かった理由(第9話)」より

――孤独になりがちな病児育児ですが、「ドラベ症候群患者家族会」が励みになっていると。ぴぴちゃんも入っていた、0~3歳のドラベ症候群の子が属する「ちびっこドラベ(通称ちびドラ)」というグループもあるんですよね。

「ちびドラ」はもっとも発作が多く、なおかつ病気のことを右も左もわからない中、共に闘った戦友ですね。私が家族会に入ったとき、このグループに随分救われました。

――家族会のみなさんとは、普段どういった交流をされているんですか?

基本的には会のグループLINEでの交流です。グループには全国に住むドラベっ子のご家族がいて、投薬についてやリハビリ、装具のこと、クーリンググッズの情報なんかを共有しています。地域のグループやパパだけのグループなどもあるようです。

今、発作が起きて心細いというママを、みんなで励ましたりもしました。
私も、ぴぴの発作がひどかったときに、たくさん話を聞いてもらいました。私自身、ドラべ症候群の子どもの子育てを分かり合える人が近くにいなかったので、先輩ママたちの言葉は本当に参考になりましたし、ありがたかったです。

最近は、家族会で月一、雑談会を開かせてもらっていて、それこそなんてことのない話をみんなでしています。孤独になりやすい育児の中で、少しでも笑顔になれる時間になればいいなと。私が一番辛いときに差し出してもらった手を、今度は私も悩んでいるママに差し出せたらいいなと思っています。

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「この育児を分かり合える人はいない…そう思っていたけれど(第8話)」より

――言葉がどんどん増えていくようすなど、ぴぴちゃんの成長のようすも連載の楽しみのひとつです。

ぴぴの最近のブームは、おもちゃの大根なんです! 療育園のおままごとセットに小さな大根のおもちゃがあるんですが、それをいつも大切そうに持ち歩いています。機嫌が悪い時もこの大根で一発です。スーパーの野菜売り場で大根を見つけた時も嬉しそうで。フォルムがいいんですかね……。
でもあまり食べてはくれません(笑)。

あと、登園時は、車内でアウトローなラップを聴きながら園に向かうのですが、ぴぴもそれはそれは楽しそうにノってくれて。ぱちぱち拍手をしたり「へいっ」って合いの手を入れてくれたり。わたしはそれに合わせて舌を噛みながら早口のラップを歌っています(ほとんど歌えずフフンフンで乗り切ってますが……)。

この子に幸せになってほしい
それだけです

――連載では、剥がれ鱗さんのパワフルさも、気持ちのアップダウンも正直に描かれていますね。

気持ちも体もしんどい時や辛い時は、もちろんあります。ダメダメになってる時も。ドラベっ子のママ達とも話していたのは、上がる時もあれば下がる時もあって、繰り返していくしかないよね、って。

でも「辛い」にフォーカスしちゃうと落ち込む一方だから、今のこの現状を大切にしようというのはまず一番です。あのときもっと笑えばよかったな、笑わせてあげればよかったなって、あとで思うのは何よりも辛いので、そうならないために「やらなきゃ!」っていう気持ちを持って毎日過ごしてます。

――ドラベ症候群のことをマンガにしているのは、まずは病気のことを広く知ってもらうことだと、よく話されていますよね。

私自身この病気のことはぴぴが発症するまで名前も知らず、まさか自分の家族が難病になるとも思っていませんでした。「他人ごと」だったんです。
でも、遺伝が専門の先生に言われたんです。「誰しも遺伝子に変異はある。ただそれが体の疾患として目立つところにできるか、そうでないかの違いだけなんです」って。きっと当たり前にある「健康」は尊いもので、非日常に感じる「病」は身近に、誰にも起こりうるものなんだと、とても衝撃を受けました。
「他人ごと」だけど、そうとも言い切れない。そこに壁はなくて、誰でも行き来することがあるって思います。年齢を重ねれば不調が出てくるのと同じで、子どもだから少し特別ではあるかもしれないけど、誰にでも起こりうることだと。

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私自身がてんかんについて少し知識があったことで、ぴぴのことにも早い段階で気付けたように、このマンガを読むことで、「『てんかん』っていう症状があるんだ」「ドラベ症候群っていう病気があるんだ」っていうことを知って頭の片隅に置いてもらえれば。自分や周囲の人に突然何かがあった時にも、もしかしたら役立つことがあるかもしれないなと思っています。

ドラベ症候群と闘う多くは子ども達です。みんな健常な子と気持ちは変わりません。遊ぶことが大好きで、いたずらもするし、とても可愛くて愛しい子達です。「親として思うのはこの子に幸せになってほしい」それだけです。でもその当たり前の日常を守るために、人より多くの手助けが必要となります。
こんな病気もあるんだと知ってもらえたら、少しだけドラべの子達も生きやすくなるかもしれない。そして今、ドラべ症候群の診断を受けて戸惑っているご家族に少しでも寄り添えたら、そう思って私は「少し大変で、すっごく幸せ」な日々を描いています。

病児育児は「大変」が多いけれど、私は私の子がぴぴでよかったです。

娘は4万人に1人の難病 ドラベ症候群「少し大変で、すっごく幸せ」作者の剥がれ鱗さんにインタビューの画像9剥がれ鱗
はがれうろこ/昭和の最後に茨城県で生まれ、現在は埼玉県で慎ましく逞しく生きているシングルマザー。娘と難病「ドラべ症候群」についてを徒然なるままに描く。「辛い時や悲しい時はお腹が空いているから食べればなんとかなるしラーメンはいつだって旨い」が人生で1番使ってるライフハック。
Instagram @hagareuroko

連載「少し大変で、すっごく幸せ」はこちらから

剥がれ鱗さんマママンガ賞 最終選考通過作品「娘は4万人に1人の難病、私はシングルマザー。だけど…『少し大変で、すごく幸せ』」

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