ヨシタケシンスケさんの親子ライフ拝見!「子ども時代は人見知りでひっこみじあんでした」【前編】
最新刊『あつかったらぬげばいい』のほか、年に何冊も出版する、超人気絵本作家のヨシタケシンスケさん。デビュー作『りんごかもしれない』発売の1年後、いまから6年前に本誌で行った貴重なインタビューがあります。
イラストレーターや絵本の世界に踏み出したきっかけ、ご自身の子ども時代などについてご自宅でうかがった記事を、全文公開します!
※kodomoe2014年8月号に掲載の誌面を全文公開。記事内容は取材当時2014年のものです
すべては小さならくがきから
以前から、日々の小さな出来事や思いつきを独自の視点で切りとったスケッチで注目されていたヨシタケさん。作品の自画像から小柄な方を想像していると、現れたのは長身の男性でした。
でも話すうちに、まじめな顔で飄々と面白いことを言うヨシタケさんに、かわいらしいイラストのキャラクターが重なっていきます。
「ぼくはもともとイラストレーターになろうとは全然思っていなくて、大学時代は立体作品を作ってたんですね。卒業後に勤めた会社で、新入社員ってひまなので、企画書を書くふりをしてらくがきしてたんですよ。
社会人になってストレスが増えたこともあって、日常のひとコマを描いてひと言添えるみたいなものが多くて。で、うしろを通る先輩方に見られると申し訳ないんで、パッと手で隠せるように、すごくちっちゃく描いてたんです。
でも、ある日油断してたら経理の女性に見つかっちゃって、かわいいじゃないって褒めてくれたんですね。ほんと? って嬉しくなって、今まで描いたものを200部冊子にしたんです。個展会場で売ったり、人にあげたりしていたものが人づてにまわり、出版社の人から、本にまとめてみませんかっていうお話をいただいて。
この本の出版をきっかけに、イラストレーターとして仕事を始めるようになりました」
好きすぎて描けなかった絵本
書籍や雑誌連載でコアな大人のファンを得たヨシタケさんが、絵本の世界に踏み出したきっかけは?
「自宅で母親が家庭文庫(子どものための私設図書室)を開いていて、ぼくも絵本ばっかり読んで育ったんです。だから、絵本はもうすごく好きで。以前から、絵本描きませんか? ってお話はあったんですけど、好きすぎて必要以上にハードルがあがっちゃって、できずにいたんです。
そりゃあやりたいけど、物語も作れないし、ぼくみたいな人間が子どもたちに言えることなんかないしなって。
イラスト集を見て連絡をくださった『りんごかもしれない』の編集さんは、こいつはほっといたらなんにもやらないなって早々に見抜いていただいたのか“りんごをいろんな角度から見る”というテーマを出してくださった。そうしたら、ふだんのイラストの仕事と同じ感じで、肩の力を抜いてできたんです。ぼくなりの方法論で絵本というかたちに落とし込めたっていうのが自信にもなりました」
ただいま2冊目の絵本を制作中。今年発売予定だそう。乞うご期待です。(2014年取材時)
ひっこみじあんな子ども時代
「今でもそうですけど、子どもの頃から、とにかく人見知り。絵本のイベントをやっても、前に来る子より、後ろのほうでじーっとしている子に感情移入しますね。子どもは元気よく前に出ることをいろんなところで要求されますけど、ぼく自身そうではなかったので、気持ちがわかるんですよ。だからぼくは、ひっこみじあんな子たちに、こっそりおうちで楽しんでもらえるような作品ができたらいいなと。
ぼくは4人きょうだいで、姉がひとり妹がふたり。ふたつ上の姉はなんでもできたんですよ。勉強でもなんでも姉が褒められる感じで、年が近いこともあって、ぼくはなんにもできないってずっと思ってましたね。いつもひとりで本とか読んでいて、ずっと友達もいませんでした。
ただ、いないからさみしいとかじゃなくて、そういうものだと思ってたんで、別に小中高と辛いっていう意識は全くなかったんです。同じ感覚の人を探そうともしなかったし、探さなきゃとも思ってなかった。大人に言われたとおりのことを、ずっとやっていただけだったんです。
ただ、大学に入ってから、自分の好きなことをやるだけで人が喜んでくれるのがすごく楽しくて、初めて、ああ……小中高って何もしてなかったし、つまんなかったんだなって気づいたんですよね」
生まれて初めて、心から楽しいことを見つけたヨシタケ青年。その道を選んだきっかけはなんでしょう。
「母親が褒めてくれるのが嬉しくて、小さい頃から工作が好きでした。それで会社員というよりは、ものを作る仕事につきたいなと思うようになったんですね。技術を身につけるために美大に行ったほうがいいのかなと思って入って、プロダクトデザインの勉強をしたんです。
卒業後、ゲーム会社に入社して半年間だけいたんですけど、求められるものが違ってたみたいで。いつも先輩に、おまえの企画書は読み物としては面白いけど商売にはならないって言われてたんですね。じゃあ、読み物として面白いんだったら、読み物でやればいいんじゃない?って思ったんですよね」
後編ではヨシタケシンスケさんの子育てについて、奥様やお父様についてなどお話しはまだまだ続きます。お楽しみに!
Profile
よしたけしんすけ/1973年神奈川県生まれ。『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)『りゆうがあります』(PHP研究所)『もうぬげない』(ブロンズ新社)『なつみはなんにでもなれる』(PHP研究所)『おしっこちょっぴりもれたろう』(PHP研究所)で、MOE絵本屋さん大賞第1位を受賞し、5冠に輝く。『つまんない つまんない』で、2019年ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞を受賞。著作に『それしか ないわけ ないでしょう』『ものは言いよう』(ともに白泉社)など多数ある。
http://www.osoraku.com/
INFORMARION
『あつかったらぬげばいい』ヨシタケシンスケ/著 白泉社 本体1000円+税
2020年8月25日発売。子ども、大人、おじいちゃんのさまざまな疑問に痛快に答える、大人も子どもも楽しめるヨシタケシンスケさん最新絵本。MOE2020年3月号ふろく絵本に加筆の上、大増ページで登場です!
https://www.hakusensha.co.jp
『りんごかもしれない』 ヨシタケシンスケ/著 ブロンズ新社 本体1400円+税
ヨシタケシンスケさん初の絵本作品『りんごかもしれない』は、第6回MOE絵本屋さん大賞、産経児童出版文化賞美術賞などを受賞。考えることを楽しめる、発想の絵本は、ヨシタケさんのデビュー作であり代表作にもなっています!
イラスト/ヨシタケシンスケ 取材・文・山縣彩 撮影/黒澤義教 (kodomoe2014年8月号掲載)※取材時2014年のものをウェブ用に再編集しています
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