2025年11月17日

柴咲コウさんインタビュー「小さな頃はよく一人で妄想をして過ごしていました」

作家・村井理子さんの実体験をもとにした映画『兄を持ち運べるサイズに』で、突然の兄の死と向き合う妹・理子を演じた柴咲コウさん。喪失のなかで家族の記憶をたどる物語を通して、あらためて感じたことを伺いました。

「家族は、そこにいてくれればいい存在」

――本作『兄を持ち運べるサイズに』では、作家・翻訳家の村井理子さんを演じられています。実在の人物である村井さんを演じることについて、どのように感じられましたか?

柴咲コウさんインタビュー「小さな頃はよく一人で妄想をして過ごしていました」の画像1

シャツ 46200円(RUMCHE)、ニット 6800円、パンツ8900円(ともにIMMEZ)、ピアス22,000円(JUSTINE CLENQUET)

私は一人っ子なので、村井さんとは家族構成も環境も違うのですが、台本と原作『兄の終い』(CEメディアハウス)を読んで、共感するポイントが多かったです。読後には、自分の中にあるわだかまりや、家族に対して目を背けてきた感情を呼び起こされたような感覚になりました。

――劇中にも理子が「家族とはどんな存在か?」と質問されて、言い淀むシーンがあるように、家族という難しさも描いていますよね。

そうですね。家族って様々な形があるし、家族だからこそうまくいくこともあれば、いかないこともあると思います。私にとって家族は「そこにいてくれるだけでいい」と思える存在。でも両親が共働きだったこともあり、小さな頃から一人でいることに慣れていたので、常に一緒にいると息苦しくなってしまうというのも本音です。

原作や台本を読んで、村井さんは自分の心を守るために、あえて家族と少し距離を置こうとしているのかなと感じていました。オンラインでお話しした際に、「私、夫や息子たちにもドライですよ」とおっしゃっていて、その言葉にとても納得しました。私自身も家族とは一定の距離を保ちたいタイプなので、自然と通じるものを感じたのをよく覚えています。

――『kodomoe』でも、過去に村井理子さんにインタビューをしたことがあります。柴咲さん演じる理子は、実際の村井さんにとても雰囲気が似ているように感じました。

そういってもらえると嬉しいです。ご本人のルックスに近づけるように、監督とは相談を重ねました。メガネをかけたり、長かった髪をボブに切ったり。

私は物事をはっきり、ピシャッと伝えてしまうところがあるんですが、村井さんは頑固なところはあるけれど、物腰がやわらかい方なので、私の「ピシャッと感」を抑えて、雰囲気も似せられるように心がけました。

柴咲コウさんインタビュー「小さな頃はよく一人で妄想をして過ごしていました」の画像2

©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

――劇中では、兄の死や遺品の整理など、さまざまな現実に向き合いながらも、理子は書くことをやめません。書くこと自体が、彼女の支えになっているように感じます。柴咲さんご自身にとって、心を軽やかにしてくれる時間や行動はどんなときですか?

歌詞を書いているときは、頭がクリアになります。自分の本音とも向き合う作業なので、劇中の理子の「書く」作業と似ているのかも。アーティスト活動は、俳優としての演じる仕事とも密接に関わっているのか、芝居をしているときに歌詞を思いつくことが多いです。いつもの自分じゃないからこそ見える景色があるのかもしれません。

柴咲コウさんインタビュー「小さな頃はよく一人で妄想をして過ごしていました」の画像3

「小さな頃は憂いのある子でした」

――劇中では、理子が幼い頃の記憶を振り返る場面が印象的です。柴咲さんご自身は、子どものころどんな性格のお子さんでしたか?

一人っ子でなので一人でいる時間が長く、よく妄想をして過ごしていました。今思えば憂いのある子だったと思います。

――外で元気に遊ぶタイプというよりは、どちらかというと家の中で過ごすことが多いお子さんでしたか?

もちろん外遊びもしましたが、小学生の時は暗かったですね。悩みがあってもまわりに相談するわけでもなかったですし、ある種諦めているようなところがあったのかな。他の同級生たちと比べて「私って少し違うのかもしれない」という漠然とした不安も抱えてました。

中学から高校にかけて、いろいろな地域の友達ができて、新しいカルチャーにも触れるようになり、少しずつ明るくなっていった実感があります。社会や人との関わりの大切さを学び、「結局、人は一人では生きられない」と気づいてから、自然と社交的になっていった気がします。

柴咲コウさんインタビュー「小さな頃はよく一人で妄想をして過ごしていました」の画像4

――本作では、幼いころにお兄ちゃんが作ってくれた焼きそばなど、食卓の思い出が多く描かれています。柴咲さんご自身にも、家族との食事で今も心に残っているエピソードはありますか?

それがあまりないんですよ。一人っ子だったから、理子たちのように兄妹で取り合うこともないし、食べたいときに食べて超マイペースに過ごしていました。この点では理子と真逆かもしれません。記憶を絞り出すなら、父親が週末にたまに作ってくれた、カレーとかチャーハンかな(笑)。非日常感があって、母の作るものよりワイルドな味付けで、おいしかった記憶があります。

――kodomoe webでは、皆さんに子どもの頃に心に残っている絵本についてお聞きしています。柴咲さんにとって思い出深い一冊はありますか?

『おおきな木』(シェル・シルヴァスタイン著)が好きで、今でもときどき読み返します。自己犠牲、利他の精神が描かれていて、読むたびに考えさせられる。絵も素敵ですよね。あとは『アンジュール ある犬の絵本』(ガブリエル・バンサン作 BL出版)も好き。孤独と悲しみといった感情を言葉を使わずに絵だけで表現している素晴らしい一冊です。

柴咲コウ
しばさきこう/俳優・歌手・レトロワグラース代表。2016年に持続可能な調和社会の実現に向け「レトロワグラース」を設立。2018年には環境省より「環境特別広報大使」に任命される。近年では、TBSテレビ金曜ドラマ『インビジブル』、映画『沈黙のパレード』、映画『月の満ち欠け』、映画『Dr.コトー診療所』など数多くの作品に出演。2023年公開のジブリアニメーション映画『君たちはどう生きるか』では声優を務めた。

INFORMATION

映画『兄を持ち運べるサイズに』

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©2025 「兄を持ち運べるサイズに」製作委員会

作家の理子は、警察から兄の急死を知らされ、東北へ向かう途中で苦い記憶をたどる。警察署で兄の元妻・加奈子、娘の満里奈、一時的に児童相談所に保護された良一と7年ぶりに再会し、兄を見送ることに。
ゴミ屋敷と化した兄の部屋を片付ける中、彼らは壁一面に貼られた家族写真を目にする。兄の知らなかった一面に触れ、怒り、笑い、そして少し泣いた——家族をもう一度見つめ直す4日間が始まる。

監督・脚本:中野量太
出演:柴咲コウ、オダギリジョー、満島ひかり、青山姫乃、味元耀大ほか
配給:カルチュア・パブリッシャーズ

11月28日(金)公開
『兄を持ち運べるサイズに』公式サイト

インタビュー/高田真莉絵 撮影/江原隆司 スタイリング/柴田 圭 ヘアメイク/SHIGE(AVGVST)

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