2024年10月1日

タレント・井上咲楽さんロングインタビュー。飽き性で、いろんなことをやりたくなるのがコンプレックスだった【後編】

屈託のない笑顔とかわいらしいキャラクターで一躍人気者となったタレントの井上咲楽さん。最近ではフルマラソンの完走や、SNSで披露した手料理が話題になるなど、新たな一面が話題となっています。あらゆる分野で軽やかに、のびのびと活躍する井上さんの原点は? 幼少時から多感な十代の頃のこと、ご家族のことについて伺った本誌の貴重なインタビューを全公開。後編は、芸能界に入ったきっかけや家族との関係などについてお話していただきました。

前編「物事を決める軸を周囲じゃなくて自分自身に置きたい。それをしているのが両親なんで」はこちら

いのうえさくら/1999年栃木県芳賀郡益子町生まれ。第40回ホリプロタレントスカウトキャラバン特別賞を受賞し、2015年デビュー。『新婚さんいらっしゃい!』(ABC)、『サイエンスZERO』(NHKEテレ)、『ナスD大冒険TV』(テレビ朝日)などをはじめ、数々のバラエティ番組で活躍。2024年の大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)にも出演。著書に『井上咲楽のおまもりごはん』(主婦の友社)。

タレント・井上咲楽さんロングインタビュー。飽き性で、いろんなことをやりたくなるのがコンプレックスだった【後編】の画像1

目標は叶えたけれど
素直になれない反抗期

――芸能界へのあこがれは、大きくなってからも変わらずに持ち続けていたのですか?

そうですね、それはずっとぶれなかったんです。中1から「芸能人になりたい!」って、家族や友達に堂々と宣言していましたし。でも、オーディションを受けたくても東京まで出る交通費を持っていなかったし、親に出してほしいとも言えなくて。高校生になったらアルバイトをして、自分でお金を貯めてオーディションを受けるんだって決めていたんです。

芸能界を目指したきっかけが同年代の人たちだったこともあって「私は既に10年も遅れを取ってしまった」って、中学生の頃は焦っていたんですよね。「せめて今の自分にできることをしなくては」と、学園祭のステージとか、とにかく人前に出て何かをしたり。

――芸能界に入るために、自主トレーニングをしたわけですね。

そうなんです、夢にまっしぐらという感じで。目標は定まっているのに具体的な行動に移せないことがもどかしくて、なんでもいいからやらなきゃって。

――井上さんの目標を、ご両親はどのように受け止めていたのでしょうか?

中学のときの文集で、将来の夢を書いて、それに対して家族からメッセージを書いてもらうページがあったんです。友達はみんな「あなたに向いているし、きっとできると思います。応援しています」みたいに書いてもらっているのに、うちの場合は「現実を見てがんばってください」って、本当にひとことだけで。両親は自由なタイプだし、それまでも私が自分で決めたことを止められたことはなかったんですけれど、「やめたほうがいいんじゃない?」って思われているんだな、と。

――それでも自分の思いを貫いたのですね。

高校1年でホリプロのオーディションに運良く合格して、デビューできることになって。両親もまさか私が受かると思っていなくて、そのうち諦めもつくだろうという感じでオーディションに送り出してくれたんですが、すごく驚いていましたね。

――地元の高校に通いながら学業と芸能活動を両立されていました。

初めの頃は週1くらいのペースで上京していたのですが、ありがたいことに少しずつお仕事が増えて、学校を休んだり、早退することが続いてしまうことがあったんです。あるとき、朝から放課後まで学校にいられる日があったんですが、先生から「今日は一日いることができたんだね」って、声をかけてもらったんです。先生は絶対にそんなつもりじゃなかったんですが、「あ、もしかして、仕事が減ったって思われているのかも? 友達もそんなふうに思っているのかな?」って、勝手に深読みして落ち込んじゃって。せっかく夢が叶ったのに、人からどんなふうに思われているかを気にしすぎていたんですよね。

――当時はご両親のサポートもあったのでは?

私、仕事を始めてから反抗期のピークを迎えちゃったんですよ。家族には絶対に仕事のことを聞いてほしくなかったし、「私がいるところで出演している番組を見ないで!」って言ったり。家では長女らしくクールに妹たちをまとめているのに、テレビに出ているときは元気でテンションが高いから、そのギャップを見られたくなかったのかな? 十代の頃って、言葉にできないモヤモヤを誰もが抱えたことがあると思うんですけれど、まさにそれで。我ながらこじらせていたなあって思います。

――井上さんの様子から、ご両親は何も言わずに見守ってくれたのではないでしょうか。

父はそんなこともなかったんですよね。心配だったからだと思うんですが、毎日のように「今日はどうだった?」って聞いてくるんです。「別に普通だったよ」って答えると「普通って何? どういうこと?」「だから、普通は普通だってば」って、その繰り返し。そういうときは「そっとしておいたほうがいいのかな」って察するものだと思うんですが、諦めてくれない(笑)。

でも、東京で仕事を終えて地元の駅に着くと車で迎えに来てくれていたり、朝早くからおにぎりを作って持たせてくれたり、ふとしたときに両親に対して申し訳ない気持ちが湧いてきたんです。それなのに、急にいい子になるのもなんとなく気恥ずかしくて、余計にモヤモヤしていました。

――反抗期が終わったのは?

高校を卒業して、東京でひとり暮らしを始めてから一気に終わりました。離れて暮らしてみて、あらためて家族に支えてもらっていたんだなって実感できたんです。

――では、今は仲良しで。

そうですね、だいたい月に一度は実家に帰っています。たまに帰れないことがあると「今月は来ないの?」「今度、味噌づくりするから帰って来なよ」って(笑)。あ、でも、たまにケンカして家族のグループLINEを抜けたりしていますよ。最近も半年ぶりにグループに復活して「おかえり!」って言われたばかりです。

飽きっぽさも
ときには強みになる

――井上さんはお料理やマラソン、政治まで、いろいろなことに関心をお持ちです。しかも、それぞれのことを深掘りされていて。

どうでしょう、自分ではそんなつもりはなくて、どちらかといえば飽き性なんです。飽きっぽいからこそ、いろんなことをやりたくなっちゃうというか。父も、妹たちも、それぞれ趣味とか好きなことがあって、一つのことをとことん突き詰めるタイプなんですが、私はそれができなくて、わりとコンプレックスだったんです。

でも、藤井隆さんに「飽き性って、この仕事をするなら強みじゃない? いろんなことに興味を持てるほうがいいと思うよ」と言っていただいたことがあって。「そうか、それでもいいんだ」って思えるようになりました。

――SNSを拝見していると、ご自身が楽しんでいる様子が伝わってきます。お料理もすごくおいしそうで。気取りのない日常的なごはんが井上さんらしいというか。

料理の写真をインスタに載せるようになったのは1、2年くらい前なんですが、それまでは載せようと思ったことがなかったんです。自分が作っているものって、いわゆる「映える」タイプの料理ではありませんし、めっちゃ地味だし。誰かに見せるようなものじゃないしなあって思っていました。

ぺえさんのYouTubeに出演させてもらったとき、ぺえさんにごはんを作ったら、すごく喜んでもらって「どうやって作るの?」「インスタとかに載せればいいのに!」って。そんなに言ってもらえるならと思って、恐る恐る出してみたんです。「叩かれたらどうしよう」って思っていたんですけれど、ありがたい反響をたくさんいただいて。面白いなと思ったのが、料理って、味とか、食感とかがあるから、見た目でわかるものだけがすべてじゃないところがあって。ぺえさんみたいに、誰かに食べてもらわなかったら気づいてもらえなかったんだな、と。

――井上さんが作るものは、お料理好きのお母さまがルーツなのでしょうか?

そうですね、実家で食べておいしかったもののレシピを聞いたりしていますね。

料理は小さいときから割としていたほうで、休みの日に両親が外出しているときは、私が妹たちにお昼ごはんを作っていたんです。お味噌汁とごはんと卵焼きとか、簡単なものしかできなかったんですけれど。子どもだから作るにもすごく時間がかかるし、やっとできたと思ったら、妹たちがパクパク食べちゃってあっという間になくなっちゃうんです。

そのときは食べてもらえた嬉しさよりも「あんなに頑張って作ったのに! 時間を返して~」って、何とも言えない複雑な気持ちになったものでした。母は料理の盛り付けもきれいにしていて、「どうしてそんなにきれいにするのかな、食べるとなくなっちゃうのに」なんて思っていたんです。だから、当時は料理があんまり好きじゃなかったかも。

両親がいつのまにか
気づかせてくれたことは

タレント・井上咲楽さんロングインタビュー。飽き性で、いろんなことをやりたくなるのがコンプレックスだった【後編】の画像2

――今年5月にはご自身初のレシピ本を発表しました。

本当に不思議ですよね(笑)。大人になってから、母と同じことしているなあって思うことがあるんです。自分が作りたかったり、食べたくなる料理が実家で食べていたものだったり。それから、ポン酢なんかの調味料も買ったほうが安いけれど、手づくりしたりとか。ほかの人からは面倒なことをしているように見えるかもしれないし、食べれば消えちゃうんですが、そういうものと真正面から向き合おうとする時間や気持ちを持てるって、とても豊かなことなのかもしれない、と。それに気づかせてもらったことは、今になって、すごく感謝しているんです。

――確かに、子どもの頃はわからなくても、成長してから家族に対して感じることはたくさんあります。ご両親から影響を受けていることは、ほかにもありますか?

そうですね、私は「周りに合わせたほうがいいのかな?」とか、みんなが面白いと思っているものを面白がることができる感性を持てるようにならなきゃいけないって思ってしまうところがあるんです。「どうして自分だけ面白がれないんだろう?」って、悲しくなってしまうというか。本当は「しなきゃいけない」と思っている時点で、すでにハマれていないっていうことなんですけれども。

でも、父も母も周りの声に左右されないところがあって、何かを選ぶときも、自分がどのように感じるかを、自分の軸で自由に判断しているような気がして。それがすごくうらやましいですし、今でもそうした両親の姿を見ることができるのは嬉しいですね。

――「こういう感じになりたい」と思える人がご両親というのは、とても素敵です。

はい。自分も両親と同じように山で暮らしたいかと言われたら、ちょっと自信がないなって思っちゃうんですけれど(笑)、なんというか、いつも楽しそうに過ごしているんですよね。子どもから見て親が楽しそうにしてるって、すごくいいなって思うんです。

INFORMATION

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『井上咲楽のおまもりごはん』
井上咲楽/著 主婦の友社 1650円

SNSで話題となった「なすぼけ」「ビルマ汁」をはじめ、作りたくなる約40品のレシピが登場。調理や盛り付けに至るまで、掲載されている料理はすべて井上さん自身が手掛けています。

インタビュー/菅原淳子 撮影/山田薫 スタイリング/池田木綿子 ヘアメイク/開沼祐子(kodomoe2024年8月号掲載)

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