『おいなりさん』【親子の読み聞かせに。今日の絵本だより 第349回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子の読み聞かせにこんな絵本はいかがですか。
『おいなりさん』
もとしたいづみ/文 中川学/絵 アリス館 1540円
2月11日は、初午いなりの日。
2月最初の午(うま)の日は稲荷神社のご祭神が降り立った日で、稲荷神社のお使いのきつねの好物、油揚げを使った「いなりずし」を食べると福を招くと言われています。
この日に何よりぴったりな絵本が、こちらの一冊。
『おいなりさん』をご紹介します。
縁側のある昭和なおうちで、ねこと一緒に暮らしているのは、頭がいなりずしのおいなりさん。
茶色い縞の着物に紺の帯、黒い足袋姿が似合っています。
おいなりさんは朝起きると、まずは身なりを整えます。
砂糖と醤油としょうが汁を混ぜたローションを、頭全体にシュッシュッシュッ!
それからすぐにてぬぐいをかぶって、たすきがけをして部屋掃除。
はたきをハタハタハタ、ほうきでざっざっざっ、ぞうきんがけもたったったったった。
朝ごはんの後は洗濯物を干しながら、板塀越しに隣のくるよさんとおしゃべりしていると、道を尋ねてきた人が。
近くの小学校にやってきた、新任の先生のようです。
「おいなりさんも しょどうきょうしつの
せんせいなの、ね?」
とくるよさんに言われて、洗濯物のかげから顔を出したおいなりさんに、先生は驚愕。
「お、おいなりさんって
おいなりさん なんですか!」
確かにみんな、驚きますよねえ。
でもその生まれや育ちは謎のままでも、おいなりさんの一日を見ていると、あっという間に親近感。
小さな「?」は吹き飛ばして進むもとしたいづみさんのお話と、僧侶でイラストレーターという中川学さんの絵の力で、物語にはどっしり安定感。
昭和の懐かしい空気の中の丁寧な暮らしぶり、おかしさと真面目さの味わいが絶妙です。
そして、おいなりさんが食べたくなってしまうこと必至です!
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。