12月のテーマは「クリスマスの絵本」【広松由希子の今月の絵本・2】
絵本作家で評論家の広松由希子さんの連載。毎月、テーマに沿った、おすすめ絵本をセレクトしていただきます!
12月のテーマは「クリスマスの絵本」
12月になると、ツリーを飾るように
毎年読みたくなる、クリスマス絵本。
今年は、どんな本を選ぼうかな?
日本に住む、敬虔なキリスト教徒でもないわたしが
子どもといっしょに読みたいな、と思うのは、
クリスマスの幸せなきもちに満たされる本。
「クリスマスのきもち」って、どんなきもち?
たとえば『クリスマスのてんし』に出てくる
十人の小さな天使のきもち。
並んで空を飛んでいると、地上の誰かが
助けを必要としているのを見つけます。
おなかを空かせた動物たち、
体の弱ったおばあさん、
荷物が重すぎるサンタクロース……
天使がひとりずつ舞い降りて、そっと手をさしのべます。
やさしく幼い天使の顔が
ページの上にひとつずつ並んでいく仕掛けが楽しい。
読み終わって、絵本を閉じると、
天から鈴の音のような祝福の歌が降り注ぐよう。
クラシックな愛らしさのドイツの絵本。
『クリスマスのてんし』
エルゼ・ヴェンツ-ヴィエトール/作
さいとうひさこ/訳
徳間書店 定価1,785円
2009
それから、たとえば
『ちいさなもみのき』の
ひとりぽっちの木のきもち。
大きな樹々を眺めながら、森のはずれにぽつんと立つ木。
誰かといっしょに過ごしたいと願っていたら、
ある冬の日、男の人に掘り出され、運ばれます。
歩けない男の子の部屋に、お祝いのクリスマスツリーとして!
おだやかな時間。華やぐきもち。
質素な子どもたちの聖歌隊。
冬が終わると、元の野原に戻されて、
また次のクリスマスが来るのを待ちます。
ああ、待ち遠しくてたまらないきもち。
そして、ラストに訪れる驚きと大きなよろこび。
クリスマスの奇跡ーー。
毎年この季節に読むたび、心に灯りがともる感じ。
クリスマス絵本の黄金コンビによる名作です。
『ちいさなもみのき』
マーガレット・ワイズ・ブラウン/作
バーバラ・クーニー/絵 かみじょうゆみこ/訳
福音館書店 定価1,155円
1993
さて、奇跡は奇跡でも、
クリスマス絵本史上、たぶん最高に馬鹿らしい
『クリスマスのきせき』もあります。
ペンギンから七面鳥へ贈る
奇跡のプレゼントとは……!?
急転直下のウルトラ奇跡。
舞い上がるお祭り気分も、
びっくりサプライズも、
やっぱり、クリスマスのきもちかも!
『クリスマスのきせき』
高畠那生/作
岩崎書店 定価1,365円
2010
『わたしのすきなもの』は、
「わたし」が語る「すきなもの」の本。
あれ? これもクリスマス絵本?
と思うでしょ。
いきものがすき。
うちのねこがすき。
ひとがすき。
おうちがすき。
外で食べるお弁当がすき。
おいしいものがすき……
ページをくるごとに
「すき」なきもちが降り積もり、
最後には、「クリスマスがすき!」
というきもちが、胸いっぱいに広がります。
実はクリスマスに読みたい、隠し技?の一冊。
『わたしのすきなもの』
フランソワーズ/作 なかがわちひろ/訳
偕成社 定価1,260円
2005
ひとりひとりに、心ぬくもるクリスマスを。
『クリスマスの三つのおくりもの』は、
てのひらサイズの箱入り。
子どもに寄り添うまなざしで、
やさしい願いと、やわらかな笑いを描いたファンタジー。
れいちゃん、もっくん、かすみちゃん。
作者の林明子さんから、それぞれ三人の主人公へ
親しみのこもった贈り物のよう。
『クリスマスの三つのおくりもの』
林明子/作
福音館書店 定価1,351円
1992(各冊1987)
広松由希子 ひろまつゆきこ/絵本の文、評論、展示、講座や絵本コンペ審査員などで活躍中。
2017年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)国際審査員長。著作に絵本『おかえりたまご』(アリス館)、「いまむかしえほん」シリーズ(全11冊 岩崎書店)や 2001~2012年の絵本案内『きょうの絵本 あしたの絵本』、訳書に『ヒキガエルがいく』(岩波書店)『うるさく、しずかに、ひそひそと』(河出書房新社)など。2020年8月、絵本の読めるおそうざい屋「83gocco」をオープン。https://83gocco.tokyo
web連載「広松由希子の今月の絵本」
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