ドイツ中世のお祭りでタイムスリップ! 飲み物はジョッキ? マグ? いいえ、ツノで。【教えて!世界の子育て~ドイツ~】
海外ではどんな子育てをしているの? 日本から離れて子育てをするママたちに、海外でのようすを教えてもらう「教えて! 世界の子育て」。場所や文化が違うと、子育ては違うのでしょうか。日本での子育てや生活と同じこと、違うこと。各国からリアルな声を伝えてもらいます。
ヨーロッパ各地で開催されるという、中世の時代を模したお祭りを、ドイツで子育てする中原さんがお届け。後半の料理紹介は必見です!
騎士、魔女、農民に王様にエルフまで!
ドイツで楽しむ中世のお祭り
中世の面影残る街並み。聳(そび)える城壁のむこうで厳かに鳴る大聖堂の鐘。ピーヒョロー、ピーヒョローと高い空をトビが旋回しています。普段その下をフォルクスワーゲンが走る街は、今日はどこかが違う。
聞こえてくる音も、漂う匂いも、目の前を行き交う人も。農夫が木の荷車をゴロゴロ押し、長い髪を編み込んだエルフが弓矢をつがえて射的で遊び、ハープを抱えた楽士は高らかに歌い、騎士やお姫様や魔物がそこらへんを歩いている。
上を見上げればいつものトンビ。あれ? おかしいな、私はタイムスリップしてしまったのか。
日本が古墳時代中期を迎える頃、ヨーロッパはローマ帝国が崩壊し中世と呼ばれる時代に入っていきます。
ゲルマン民族大移動、神聖ローマ、魔女狩り、フン族、ヴァイキング、30年戦争、イスラーム……歴史の授業で耳にした事があったかも……? な民族や出来事がマーブルのように入り乱れているのが中世、ミッテルアルター(Mittelalter)です。
混沌としたこの時代を模したお祭りは、ヨーロッパ各地で地方色豊かに開催されています。
歴史の授業で聞いた言葉とか、もう忘れちゃった!
そんな私でも大丈夫。
ロード・オブ・ザ・リングなら2回観たから予習はバッチリ、耳が尖ってるのがエルフ。
オッケーオッケー、レッツゴー。
おお……
串刺しの肉が回ってる
おかしいなぁ、あんなにしっかり朝ご飯を食べたというのに、お腹が空いてきてしまいました。まだ昼前なのに何故だ。それは漂ういい匂いのせい。普段の街の中では焚かれることのない焚き火の煙に、食べ物の美味しく焼ける匂いが乗っかってやってくるのです。これがいたずらに鼻をくすぐって消えていくので憎い。
中世祭りの魅力はなんといっても美味しい食べ物の屋台がたくさん並び、それぞれがその場で調理されるところ。火の勢いや自然の発酵などを用いた昔からのシンプルなやりかたで素材を味わうのです。サワードウのパンは大きな生地が目の前でコネコネびよーんと広げられ、ボバっ!! と撒(ま)かれた小麦粉はあまりの勢いにこちらに降りかかってくるほど。おっと、ごめんごめんと笑うお兄さんの手はそれでも止まる事なく、手早く生地の中にチーズを閉じ込めるとムニョーと長く引き伸ばし、ドン! ドン! ドン! とぶった斬って天板に並べ、窯の中へ放り込みます。
豪快さと流れるような手つきに並ぶ客の目は釘付けだし口はあんぐり開いてしまうしそこからヨダレは垂れてしまうし、ああ! 私たちはどうしたらいいの!
会場内で使われる道具も古いものをたくさん目にすることができ、古道具好きとしては実際に使ってるところを見られるのも心躍るポイント。大きなフライパンではお芋がきつね色に炒められており、その隣ではクリームで和えたシャンピニオンが湯気を立ててる。 歩けば面白い屋台がいっぱいで選べない。
んんん……しかしやはりここは回る肉からいっとこう!
Mutzbraten ムッツブラーテン
火の上でぐるぐる回る串刺しのでっかい肉。
ぽたりぽたりと落ちる油が燃える薪の上で焦げて煙に。街中にいい匂いを広げていた犯人は、さてはおまえだなー! この匂い、嗅ぐとお腹が空いてきてフラフラと店先に吸い寄せられるという効果があります。そういう意味ではまるで鰻屋のよう。
調理しているところを見ていると、おじさんはごろごろの塊肉にハーブと塩をブワー! とそりゃあ豪快に、撒きすぎちゃうかと思うほど撒くと、片っ端から串(串のようなほぼ剣のような)に突き刺していきます。繊細さの対極、そこがいい。見てるだけで本能をくすぐられる料理です。 ハーブの効いた溢(あふ)れるジューシーな肉汁に塩気がとけだしていて、それをパンで吸い取りながら付け合わせのザワークラウトとともにいただきます。
Rahmbrot ラームブロート
大変大変! どうしよう、チーズがとろけて溢れているよ、誰かヘラでそのカリッと焦げたところをこそげ落として私めによこしてはくださらんか。
地域によっては「Handbrot ハンドブロート」とも呼ばれます。風味豊かなサワードウ(自然発酵させた酵母を使用したパン。穀物の旨味が強く、ほのかな酸味があります)生地の中にたっぷりのドライハム、チーズ、玉ねぎ、シャンピニオン(キノコ)などを抱き込んで、窯の中で焼いたもの。これにたっぷりのクリーム(ラーム)をかける。焼き立てを並んで買うので、手渡された時は熱々です。 火傷に気をつけてかぶりつきます。
Spätzle シュペッツレ
レンズ豆のソース掛け
卵を使った小麦粉麺のシュペッツレに野菜と一緒に煮込んだレンズ豆を掛けたもの。
他にもトマトソース、肉ソース、ほうれん草ソース、玉ねぎソース、クリーム、そしてりんごソースなどの甘いバージョンもあって選ぶのが大変!
Poffertjes ポッファーティス
一見たこ焼き!? と見まごう小さなパンケーキ、オランダのPoffertjes ポッファーティスもありました。出来立てのふわふわサクサクを、じゅわっと甘いリンゴジャムとシナモンでいただきます。
Zuckermandel ツカーマンデル
ぽりぽりスナック感覚のツカーマンデル。ローストアーモンドを糖衣で包んでシナモンやアニスのハーブをまぶしたもの。分銅を載せて秤(はかり)売りなんて、こんなん買うに決まってる。
お飲み物はいかがですか? 大きな瓶から自作のジュースやフルーツワインを注ぐおじいさんの屋台。 Johannisbeere カシスやSanddorn ザンドドーン、Rhabarber ルバーブなどのジュース。
このベリーはおれの庭で採ったんだー! がはは。だって。いかにも怪しいから母ちゃんは手を出したくない。しかし子どもはおじいさんのジュースに興味津々……わかったよわかったよ、買いますよ。 お……美味しいな!!
大人の飲み物はジョッキ? それともマグ? いいえ、ツノで。
中世の格好をしている人たちはよく腰からツノを下げています。よく、という表現も妙ですが、大真面目にツノを下げて歩いている。映画『ロード・オブ・ザ・リング』のボロミアが最期に吹き鳴らしたのはゴンドールの角笛でしたが、ツノはツノでもこれは飲むためのツノ。
中が綺麗にくり抜かれている、身につけるカップなのです。おう、久しぶり! と挨拶がわりにツノを腰から引き抜き、そこに互いの酒瓶から蜂蜜酒をかわるがわる注いでは飲み、注いでは飲み。
中世祭りではビール以外にもMet メートという蜂蜜を発酵させた古代のお酒が振る舞われます。甘くてコクがあって黒砂糖のようなふくよかな香りがします。蜂蜜酒はアルコール度数が高いのに飲みやすいからうっかり飲み過ぎに注意です。
ところでドイツといえばジャガイモですね。でもジャガイモの栽培がドイツで始まったのって、実は近世になってからなんです。厳密に言うとジャガイモ料理は中世には存在しないはずなのだけどそんなツッコミは無し! 魔物もドラゴンもジャガイモも、中世祭りでは仲良く並ぶのです。