『かみはこんなに くちゃくちゃだけど』【今日の絵本だより 第286回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『かみはこんなに くちゃくちゃだけど』
ヨシタケシンスケ/作 白泉社 1100円
『かみはこんなに くちゃくちゃだけど』は、4月1日に発売になったばかりのヨシタケシンスケさんの最新刊。
新刊が出るたびに新しいものの見方を示してくれるヨシタケさんですが、またひとつ心に響く作品が登場しました。
女の子は願っています。
「いつか かしゅに なりたいの」
「かみは こんなに くちゃくちゃだけど」
男の子は思っています。
「いつか おしたい ボタンが あるの」
「いまは まだ とどかないけど」
子どもや大人やお年寄り、たくさんの人の日常の一場面と、心のつぶやきがいくつも続きます。
クスッと笑えるものも、中にはドキッとさせられるものも。
希望と落胆。
幸せと不幸せ。
それらはいつも隣り合わせだけど、それでも読み進めるうちに、淡い光が見えてくるような。
「かみは こんなに くちゃくちゃだけど」
から再び始まるラストシーンにはっとして、今度はページを逆順に、後ろから前へと読み進めると、その光は確かな輝きを増すように思えます。
帯の言葉は、「しあわせが、見つけにくい日も、あるけれど。」
「けれど」の3文字に込められた小さな希望を、胸にしまっておきたくなる1冊です。
今春で絵本作家デビュー10年目となるヨシタケシンスケさんは、初の大規模個展「ヨシタケシンスケ展かもしれない」が東京・世田谷文学館で4月9日からスタート。
絵本のタネになる小さなスケッチ(複製)が壁一面に2000枚、他にも斬新な方法で展示された絵本原画、学生時代の立体作品やアトリエの私物コレクションなど約400点以上が展示され、ヨシタケさんのそのユニークな発想をまるごと体感できる空間になっています。
小さいお子さんも楽しめる体験型の展示や、愉快なグッズももりだくさん。
1階の文学サロンには『かみはこんなに くちゃくちゃだけど』のフォトスポットやぬり絵コーナーが特設と、家族みんなにうれしい会場となっています。
7月3日まで世田谷文学館で開催の後は、兵庫、広島、愛知と巡回予定。
その後も全国巡回されるかもしれません、どうぞお楽しみに!
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。