『くらげのりょかん』【今日の絵本だより 第148回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『くらげのりょかん』
やぎたみこ/作・絵 教育画劇 本体1100円+税
8月10日は、今年の山の日。
そして「8」と「10」の語呂合わせで、いろんな記念日でもあって、鳩の日、帽子(ハット)の日、焼き鳥の日、バイトの日、そして、宿の日。
今年は全国的に、帰省も旅行も自粛模様の夏になってしまいましたが、おうちの中でも『くらげのりょかん』で、ひととき山のお宿気分はいかがですか。
きのこ狩りに出かけたきのこ山で、道に迷ってしまった、たけちゃんとおじいちゃん。
「よし あそこで みちを きこう」
と、緑の切れ目に現れた建物の方へ向かうと、
「いらっしゃいませー!」
「ほんじつかいてん くらげりょかん。
きねんすべき いちばんめの おきゃくさまに
とくべつ ごしょうたいの だいサービスを
おこなっておりまーす」
と、「本日開店」「くらげりょかん」ののぼりを手にした宿の主人や大勢の仲居さんが、にぎやかに迎えてくれました。
たけちゃんとおじいちゃんは、大喜び。
今日はここに泊まることに決めました。
なんと、ふたりだけの貸し切りです。
なんだか不思議な様子の、くらげりょかん。
実は宇宙からやってきた、宇宙くらげの旅館だったのです。
お風呂に入れば明かりが消えて、オリジナルのお芝居が幕を開けます。
たけちゃんが「エビフライが好き」と言えば、旅館ごとすぐさま海の中へワープ。
それからもおもてなしはどんどんとパワーアップ、おやすみなさいの時間には、何とも壮大な次元まで……!
うそのようなまことのような、いつも「ちょっと不思議」具合が絶妙な、やぎたみこさんのお話。
『くらげのりょかん』は、その不思議ボルテージが、ぐんぐんと勢いよく右肩上がり。
ラストまでびっくり続きの展開は、まさに「とくべつ ごしょうたいの だいサービス」な旅をしてきたかのよう。
読み終えたら、裏表紙と表紙を一続きにしてみてくださいね。
「なるほど、物語のオープニングはすでにここから……!」と、またワクワクして、最初から読みたくなってしまいますよ。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。