『はくぶつかんのよる』【今日の絵本だより 第129回】
kodomoe本誌連載の「季節の絵本ノート」では、毎回2か月分のおすすめ絵本を15冊、ぎゅぎゅっとコンパクトにご紹介しています。
こちらのweb版では毎週、ちょうど今読むのにいいタイミングの絵本をおすすめしていきます。おやすみ前や週末に、親子で一緒にこんな絵本はいかがですか。
『はくぶつかんのよる』
イザベル・シムレール/文・絵 石津ちひろ/訳 岩波書店 本体1800円+税
5月18日は、国際博物館の日。
現在発売中のkodomoe6月号「季節の絵本ノート」でも博物館にまつわる絵本を5冊紹介していますが、今回はその中から、こちらの1冊。
『はくぶつかんのよる』をご紹介します。
ここは、川のほとりの博物館。
まもなく夜が訪れます。
もう誰もいない建物の中を、そっとのぞくと……。
はるか昔を生きていた化石や貝が、じっと静かに並んでいます。
暗がりの中で、昆虫たちの背中が輝いています。
そして、さまざまな色と形の蝶たちが、小刻みに羽を震わせたと思ったら、黄色い蝶が一匹、ふわりと空中へ。
広々とした廊下へと、飛び出していきました。
いつのまにか他の蝶も次々に飛び回り、あちこちで呼びかけます。
「さあ、はやく おきて!」
そうして目を覚ました生きものたちが、あらゆる部屋から出て来ます。
生きものだけではありません。
世界の民族のお面や、仏像や、電話や顕微鏡などの発明品まで。
博物館に展示されているあらゆるものたちが、次々に眠りから覚め、みんな自由にふわふわと空中散歩。
はるかな時と場所を越えて、今はこの博物館に集うみんなの、ひそやかなカーニバルのようです。
夢のような、博物館の夜のひととき。
今はお休みのところが多いですが、博物館も美術館も、ゆったりとした時の流れの中で、いつでも私たちを待ってくれています。
おでかけができるようになったら、またゆっくりと訪れたいですね。
もしかしたら今、休館中の博物館では、みんなこんなふうに楽しく過ごしているのかも?
幻想的な物語の作者は、フランス生まれのイザベル・シムレール。
『はくぶつかんのよる』に心ひかれた方は、同じ作者の『あおのじかん』(岩波書店)
もぜひどうぞ。
空の青が深まる夕暮れの時間に、世界中の青い生きものたちを描いた、美しい一冊です。
選書・文 原陽子さん
はらようこ/フリー編集者、JPIC読書アドバイザー。kodomoeでは連載「季節の絵本ノート」をはじめ主に絵本関連の記事を、MOEでは絵本作家インタビューなどを担当。3児の母。